#20 テオ・マセロとの仕事

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text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

ひょんなことから尊敬する偉大な音楽人テオ・マセロと係わりをもつことになった。1999年に設立されたテオ・レコードである。
数年前のこと、知り合いの紹介で、テオ・レコードから発売されたCDが10数枚持ち込まれ、日本の発売会社を見つけて欲しいという。テオ・レコードのライセンシー探しはじつはこれが2度目だった。内容は素晴らしいものの、アーチスト至上主義の日本のマーケットでは難しいとの判断から以前の例ではうまく事が運ばなかった。CDはテオ・マセロの楽曲を演奏した作品集で、アルバム・カバーには素っ気いない文字が並ぶだけ。ミュージシャンのネーム・ヴァリューや目立つアートワークで目を引くのではなく、あくまで音楽の内容で買ってもらうのだ、というテオのポリシーが貫徹されている。アメリカではネットで発売されており、音楽のモニタリングはできるものの、内容の紹介もほとんどない。「テオ・マセロの作品」という信用がすべて、という感じのマーケティングだった。先の読めるテオのことだ、おそらく最終的には配信を考えていたのだろう。

ポリスターのプロデューサー淡中隆史氏に持ち掛けてみた。彼が、EWEから国内発売されたAmerican Clave原盤のテオ・マセロ作品集『teo』を愛聴しているのを知っていたからだ。1週間ほどして彼から伝えられた返事に仰天した。「コンピレーションなら発売します」というものだった。彼の意を受け、十数枚のCDを聴き直してみて2枚のコンピレーションならテオの意図を伝えられると確信できるようになった。テオと直談判してみよう。American Claveのオーナー/プロデューサー、キップ・ハンラハンからテオのメール・アドレスを聞き出した。テオはキップの師匠にあたる存在だ。テオからは数日後に返信が入った。「君の編集案をみてから決めよう」。それから何度CDを聴き直しただろう。その間にも淡中氏からは恐れを知らぬ要求が次々と入ってくる。「未発表テイクをもらって下さい」。「マイルスの習作があるはずです」。テオの反応は素早い。求めに応じて2枚の未発売音源が届けられた。ラリー・コリエル。一瞬、マイルスの習作?と色めきたったルー・ソロフのソロも。秘書から届くメールの合間を縫ってテオ自身が打つメイルが届くようになった。おそらく、オフィスから帰って自宅から発信しているに違いない。テオから届くメールは大きな文字のバラ打ち。自伝を執筆中とのことだったが、こんな調子でワープロを打っていたのだろうか。

未発表音源を交えて新旧12曲ずつからなる2枚のコンピ案を送信した。「Good!」の朗報。ただし、最終的には音楽を聴いて確認したいのでCD-Rを焼いてFedExで送付せよとのお達し。アルバム・タイトルは『Tea for Two』 をもじって『Teo for Two』としたが、これは喜んでもらえた。

テオから送られてきた最後のCDは、NYの学生バンドが演奏するテオ作品集。ライナーノーツに記された指導者の言葉がテオの人柄を表していた。「許可をもらおうと電話を入れたら、本人が応対してくれた。あのテオがだ!」。学生バンドにとっては雲上人のテオが快く応対してくれ、CD化の手助けまでしくれたのだ。真剣に音楽に取り組む人間に対してテオは心を込めて対応してくれるのだ、ということを改めて知った。

ボブ・ベルデンが手がける一連のマイルスのボックス・セットにテオが憤っているという話を伝え聞いた。「マイルスが生きていたら絶対許さなかっただろう」と。そうだろう。ボックス・セットはテオが仕立てた最高のドラマの舞台裏をすべてさらけ出してしまったのだから。テオこそアルバム1枚という限られた時間の中で感動のドラマを演出してくれる最高のプロデューサーだったのだから

追)久しぶりにTeorecordsのサイトを訪ねてみたが、当時の自社のサイトはすでになく、不完全な以下のサイトに行き着いた;
http://musicishere.com/artists/Teo_Macero
むしろ詳細な情報は米Amazonにあった;
http://www.amazon.com/s?ie=UTF8&keywords=Teo%20Macero&index=na-music-us&page=1

♪『テオ・マセロ/テオ・フォー・トゥーVol.1』
http://www.pjl.jp/discography/pjl/MTCJ3017.html
♪『テオ・マセロ/テオ・フォー・トゥーVol.2』
http://www.pjl.jp/discography/pjl/MTCJ3018.html

*初出 JazzTokyo #88  (2008.3.09)

「テオ・フォー・トゥー Vol.1 / テオ・マセロ」
マイルスを、ミンガスを動かしたもう一人の天才、「100の顔を持つ男」テオ・マセロ。そのアーティストとしての全貌を解明する画期的2枚のアンソロジー・シリーズ、Vol.1。未発表音源~最新作まで驚くべき世界が展開される。マイルス・ミュージックの裏面が開示する!! マイルス・デイビスのコロンビア時代の「カインド・オブ・ブルー」から「ビッチェス・ブリュー」に至る全盛期のほぼ全ての作品をプロデュース、「共同制作」したテオは、自身もチャールズ・ミンガス等と多くの音楽歴を持ち、作品も多い作曲家、アレンジャー、サックス・プレイヤーでもあり優れたアーティスト。自身「テオ・レコーズ」を持ち多くの作品を発表、ジャズのみならず実験音楽、オーケストラ作品、映画音楽に至るまで数多くの作品がある。今回初めて発売される「テオ・フォー・トゥー」の2枚はジャズ~フューチャー・ジャズからアヴァンギャルド・ミュージック、ストラヴィンスキーからブーレーズに至る現代音楽のフィールドにまで及ぶ巨大な作品群からなる「テオの全貌」を知らせる本格的なアンソロジー。エリントン、モンク、ミンガス、マイルスとの関連の作品から映画音楽、未発表音源までこの巨人の謎を全て網羅した日本オリジナル企画のコンピレーション。エレクトリック・マイルス時代の「マイルスの手兵達」を自在に使っての恐るべき「調教師」ぶりは「マイルス・ミュージックの謎解き」に満ちている。参加ミュージシャンにはデヴィド・サンボーン、ロン・カーター、ラリー・コリエル、ルー・ソロフ、ランディ・ブレッカー、アル・フォスター、スティーヴ・ガット、デイブ・リーブマン、リー・コニッツ、マーカス・ミラー等1970年代から現在に至る素晴らしいラインナップ。(監修: 稲岡邦弥/テキスト: 小川隆夫)

「テオ・フォー・トゥー Vol.2 / テオ・マセロ」
マイルスを、ミンガスを動かしたもう一人の天才、画期的アンソロジー・シリーズ、Vol.2。未発表音源~最新作まで驚くべき世界が展開される。ジャズ史上最も有名なプロデューサーにして最大の巨人テオ・マセロの「回顧展」的オリジナル・アルバム。ジャズ~フューチャー・ジャズからアヴァンギャルド・ミュージック、現代音楽のフィールドにまで及ぶ巨大な作品群からなる「テオの全貌」を知らせる本格的なアンソロジー。

稲岡邦彌

稲岡邦彌

稲岡邦弥 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。音楽プロデューサー。著書に『改訂増補版 ECMの真実』編著に『ECM catalog』(以上、河出書房新社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。Jazz Tokyo編集長。 https://www.facebook.com/kenny.inaoka?fref=ts

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