Vol.65 (extra) 沖 至+白石かずこ

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2010年11月6日 @Bitches Brew for hipsters only(横浜・白楽)
photo by Mr.M

沖 至(tp)
白石かずこ (poetry reading)

sugita65

「杉田さんの、シカゴのルポルタージュ(『アサビグラフ』69年)は非常におもしろい」
あの津軽訛りのひとなつっこい独特の声の主は、渋谷<天井桟敷館>の寺山修司である。
「誰か、ミュージシャンを紹介してくれませんか?」
ちょうど、「70年代変革の担い手たち」という『美術手帖』の70年1月号の巻頭特集を書き始めたばかりだったので、ぼくは、全く躊躇することなく、沖至を紹介する。
「どういう人ですか?」
「元々は、関西で、ディキシーをやってたんですが、欲求不満がたまりにたまり、上京してきまして、最近は、富樫雅彦(ds)、吉沢元治(b)、高木元輝(ts,ss,fl,b-cl)らとやってます。つい先日、菅野光亮(p)と東欧から帰って来たばかりです」
「菅野さんとはどういう方ですか?」
「東京芸大を出られた方で、クラシック~ジャズ~フリー~コンテンポラリーから、ポップス~流行歌まで、何でもやっちゃう鬼才でしょうか」
菅野光亮は、映画『砂の器』(原作:松本清張)の作曲者であり、劇中でピアノを弾いているのは菅野自身で、芥川也寸志ではないので、念のため。
「ところで、沖さんの楽器は?」
「トランペットか、フリューゲルホーンです」
「そうですか、よろしくお願いします」
こうして、沖は、9月の<天井桟敷館>に登場。ふたを開けるまで、沖にはほとんど何も知らされていない。まず、舞台は正式なボクシングのリングである。沖の対戦相手は、トランクスとグローブという本物のボクサー。はたして、寺山自身どこまで意識していたかは定かではないが、これは、明らかに、「肉体的山下洋輔論」に対する完全なるパロディとみる。
打合せでは、シャドウ・ボクシングであったのだけれども、エキサイトしてくると、どうしても、2、3度はヒットしてしまう。
沖は、軽くかわしたり、眼光鋭くにらみつけるだけで、楽々と最後まで吹き続ける。カッコいい!! 沖はマイルス・デイヴィスやフレディ・ハバードの、はたまた日野皓正のようなオーバー・アクション(たとえば、キューンとしなやかにのけぞったり)を最後まで一度もやらない。
間違いなく、沖至は、70年代以降、現在に至るも、「変革の担い手」である。
初めて沖と出会ったとき、沖は、伊勢佐木町のどんづまりに住んでいた。高木とよく行動を共にしていたから、キャバレーのハコの仕事は結構あったと思われる。高木は人一倍腰が低く、何故かキャバレーでは必ず“先生”と呼ばれている。いつも高級なキンピカのラドーをしていて、ときどき違和感を覚えたもの。あの頃は、ジャガーEタイプに乗っていたオマスズ(鈴木勲/ピッコロ・ベース)だって、セイコーの安ものだったよね。
沖が日本での最後の演奏となったのは、70年代中葉、青山<ロブロイ>である。VANの角(いまは、ベル・コモンズといった方が分かるかしら)を青山墓地の方に向かった右側の地下にあった。経営者は、作家・安部譲二で、ママは遠藤桜子。愛車は確かピンク・キャデラックのカブリオじゃなかったかしら。麻布学園つながりで、山下洋輔らを<ロブロイ>でよくみかける。そのななめ前にあい・ミュージック(日本のジャズ・シーンをリードしたプロモーター)。
遠藤とは1972年夏、ニューヨークで出会う。日航のスチュワーデスをしているそうで、東京にニューヨークのような本格的ジャズ・クラブを造ってみたいと、熱く<ヴィレッジ・ヴァンガード>で語る。後日談だが、当時安部譲二は、日航のパーサーをしていて、ニューヨークに滞在中だったときく。
昼間の<ロブロイ>が、沖の練習場所である。
__どうして、パリに拠点を移すのですか?
「ユーなら、分かってもらえると思うんだけど、アメリカでも、心あるミュージシャンっていうか、自分を偽りたくないアーチストは、みんな、ヨーロッパへのベクトルを持ってるよね」
__そういう意味では、BYGや、シャンダールって凄い!
BYGは、アート・アンサンブル・オブ・シカゴを、シャンダールは、『アルバート・アイラー/ラスト・レコーディング』をモノしている。どちらもフランスのレーベルです。念のため。
「加古(隆)も、いま、メシアンについて習っているしね」
傍らには、絵に描いたような金髪の美女。じっと静かに耳を傾けている。そのちょっぴりエメラルド・グリーンがかった瞳は、どこまでも青く透明で、ジュモーのように深く、我ながら、気が付くと釘付けになってしまっている。

その夜の沖は、実によくうたう。まるでブラウニー(クリフォード・ブラウン)が目の前にいるようではないか!? ちょいと、バルバレスコ(伊)を飲み過ぎたせいかしらね。
70年代初めの頃の富樫雅彦・ESSGの沖は、もうここにはいない。サディスティックなぐらいに沖の音は、ビシバシと容赦なくはじき飛ばされていたもの。どんなにグラインダーで、いろいろ工夫して角をどう削ろうが絶対にはじき飛ばされてしまうベーゴマのようではあった。きっとお勉強ができたに違いない。乱暴ないいようではあるが、沖は絶対に、高木元輝のようにドラッグに手を出すことはしなかった。だからこそ、自らの音のありどころをクールに覚醒し続けるあまり、もっとも突出したフリー・ジャズ・ユニット、ESSGを自ら辞したに違いない。
いまだから、はっきりいっておこう。沖はスティーヴ・レイシー(ss)のように、ディキシーからフリーへと転生するほどの器用さを持ち合わせてはいないってこと。
いや、いまだからこそ、よりスポンテイニアスに、フリー~コンテンポラリーとかかわれるのである。ズバリ、真摯で、不器用だからね。
思わず、吹き出してしまう。何と陳腐な言葉が浮かんできてしまうのか!?
「男は、タフじゃなければ、生きていけない。やさしくなければ、生きていく資格がない」
そう、「男は、黙ってサッポロビール」なのだ。
沖との再会は、2年ぶりである。毎年、来日すると、必ず“Bitches Brew for hipsters only”に出てくれるのだけれども、このところ、運悪く、ぼくの入院と重なってしまう。白石かずこ(ポエトリー・リーディング)との共演は、いつになくエキサイティングである。うまくいえないけれど、音楽も詩も、結局は“うた”なんだよね。
詩とジャズの会=ギグは、丁度1年きっかり、“Bitches Brew for hipsters only”でやりました。プロデュースは中上哲夫。音楽は尾山修一(ts,ss,b-cl,perc)。詩とジャズのコラボレイションという以上、詩とジャズが相互に誘発し合いつつ、未踏の“うた”世界が誕生するものとばかり思っていたのだが、結果は残念ながらそんな瞬間は一度もなかった。何故ならば、まず聴衆は、詩人あるいはそのファンしかいない。いわゆるジャズ・ファンは皆無である。
詩人は、自分の詩集を正確に読むだけで、そこにはアドリブもインプロヴィゼーションも全くお呼びじゃない。ミュージシャンはといえば、ただ詩を盛り上げるだけで、単純にいって詩の背景以外の何ものでもない。タイコ持ちじゃあるめえし__。何かが生まれるなんて、夢のまた夢。幻想もいいところである。アドリブによるビート詩なんて、全くの死語といっていい。一度でいいから詩人とミュージシャンの、殴り合いのけんかをみたかったよ。あの<天井桟敷館>みたいにね。予定調和の“詩とジャズ”のどこがおもしろいのか、一体どこが楽しいのか、結局判りませんでした。これってマンネリ以前の問題じゃないでしょうか?
1969年夏、ある日曜日の午さがり、<ヴィレッジ・ヴァンガード>をのぞいたところ、たまたまケネス・パッチェンの詩とジャズの会をやっている。バイブ(白人、名前は忘れてしまった)とのデュオで、メッチャ興奮させられる。知的な詩なのにかかわらず、妙にスラングがキラ星のごとく散りばめられている。おもわず、サイン入りのLPを買っちまいましたね。後で、じっくり針を落としてみて、おもわず、ニンマリ__。詩とジャズのギグは、やっぱり、エキサイティングでセクシーじゃなくっちゃね。

さて、2010年11月6日の白石かずこと沖至__。ケネス・パッチェンとvibとの位相は、はるかに超えた異次元ではある。詩とは“うたう”ということである。ジャズとは“うたう”ということである。ただし、どこまでも美しく、さらにセクシーに、さらにエキサイティングに、だ。
そう、「やさしくなければ、生きていく資格がない」。気分は、ハード・ボイルドだぜ。それにしても、ハード・ボイルドってどういうわけか、「固ゆでタマゴ」だったり、甘ったるい「ギムレット」だったり...どうも、よう分からん。
少なくとも、お子ちゃま向きではないようですぞ。
__沖さん、今夜は最高でしたね。
「そうね。でも、もっとスリルが欲しかったね。ほら、寺山さんの<天井桟敷館>でやったみたいな、死を予感させるようなね。そういえば、阿部薫(as)と出会ったのも、あの夜だったっけ__」

* 本稿は、JazzTokyoの年末企画「このライブ 2010」に寄稿されたものです。
(編集部)

http://* http://www.jazztokyo.com/column/sugita/column_61.html

 

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杉田誠一

杉田誠一 Seiichi Sugita 1945年4月新潟県新発田市生まれ。獨協大学卒。1965年5月月刊『ジャズ』、1999年11月『Out there』をそれぞれ創刊。2006年12月横浜市白楽にカフェ・バー「Bitches Brew for hipsters only」を開く。著書に、『ジャズ幻視行』『ジャズ&ジャズ』『ぼくのジャズ感情旅行』他。

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