16. ソウルフード・カンザス・シティ・スタイル

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Soul food~Kansas City Style
text & photos by Yoko Takemura, special thanks to Sharon Valleau

♪ ソウルフードとは?

ソウルフードというのはジャズファンならずとも、アメリカに行った事がある人なら誰もが知っているだろう。現在のアメリカでは すっかり市民権を得たように思える。ニューヨークに行けばハーレムあたりに観光客相手の ソウルフード・レストランは沢山あるし、レシピ本も数多く出版され、インターネットでも山ほど情報は得られる。ソウルフードは、アメリカに奴隷制度があった時代、過酷な状況下で白人たちが食べない粗末な食材を、黒人奴隷たちがいかに栄養とパワーをつけるか工夫しクリエイトしてできた料理だ。ジャズ同様に、奴隷制度、人種差別の一番激しかったアメリカ南部、ルイジアナ、ミシシッピ、アラバマそしてジョージア州あたりがルーツなのもよく知られている。

代表的なメニューとしては、ディープ・フライドチキン(白人が胸肉を食べた残りの骨の多い部分を低温でじっくり揚げて、骨まで食べる)、スペアリブ、チトリングス(モツ煮込み)、フライド・キャットフィッシュ(泥沼に生息する、いわゆるナマズ)、カラードグリーン(苦いがビタミン豊富な雑草に近いグリーンを煮込んだ物。このグリーンは九州でよく見るカツオ菜というのによく似ている気がする)、豚足やハムホック(ハムやベーコンを作った後に残った豚の足のかかと部分)、マカロニチーズなどが有名である。また、カロリーを多くとるために思いっきり甘いトウモロコシでできたコーンブレッドやデザートのピーチカバーなども代表的なメニューだろう。

私自身は、ニューヨーク、シカゴのディープ・サウスやデトロイト(人口の80%がアフリカン・アメリカン)の友人たちに何度も連れて行ってもらったり、彼らの家でご馳走になった経験は山ほどあるが、南部の本物は知らない。
彼らが言うには南部の本物とほとんど変わりはないらしい。元々は家庭料理なので、それぞれに微妙に味は違う。ただ、どれもカロリーが気になり、味を楽しむということはあまりなかった。

♪ カンザス・シティのソウルフード

カンザス・シティで食べたソウルフードは『ピーチ・ツリー』というレストランが最初で、ここへは何度も行った。このレストランは『Soul Food with Elegance』というキャッチフレーズの通り、味、レストランの 雰囲気ともにとても洗練されており、いわゆるカロリーの固まりという感じではないと思う。私のお気に入りレストランである。 ピーチ・ツリーのピーチ(桃)はジョージア州の「州の木」で、そこからこのネーミングにしたとオーナーから聞いた。  ピーチ・ツリー・レストランはカンザス・シティに3軒ある。今年、18th&Vine地区にあった私の一番のお気に入り店がダウンタ ウンに移転した。新しいレストランは8月に開店する、と聞いていたので楽しみにしていた。が、この不況下、開店が遅れ9月でも未だ開店していなかった。

「食べられない!」となると余計に食べたくなるものである。友人のシャロン・ヴァローに「ピーチ・ツリーの次に良いソウルフードを食べさせてく れる所って何処?」と尋ねたところ、彼女はしばらく沈黙の後、「一番美味しいのは私のソウルフードだから家で作ってあげる わ!」という返事。「じゃあ、手伝うからお願い!」ということで、早速彼女の家でソウルフード・ディナーということ になった。

メニューは私のリクエストでフライド・キャットフィッシュ、カラードグリーン、マカロニチーズ。彼女は他に、スライスド・トマ ト、コーンブレッド、ピーチ・カバーなども用意すると言ったが、そんなにたくさん食べきれないし、大掛かりなことはしたくなかっ たので最初の3品だけに、ということにした。私は料理そのものよりも、材料や調理法の方に興味があった。

♪ シャロンの作るソウルフード

約束の日の遅い午後、シャロンの家に行ったら、キッチンにキャットフィッシュの大きな切り身が8枚ほど用意してあった。何と!半分はマリネしてあった。それを不思議そうに覗いた私に彼女は、「フライド・キャットフィッシュなんて簡単なのよ。それは作るけど、スモークド・キャットフィッシュって食べたことないでしょう。こっちの方がずっ~と美味しくて、油っこくないからヘルシーでいいのよ!」と言って得意そうに笑っていた。
はてな?と思った。キャットフィッシュをスモークする、という概念はソウルフードにあるのだろうか?と思いつつ、そういえば、カンザス・シティにはいわゆる南部の伝統的なソウルフードのレシピとはちょっと違う物があるって誰かが言っていたのを、ふと思い出した。

スモークド・キャットフィッシュは、バター、レモンジュース、ライムジュース、ガーリックのみじん切り、リキッド・スモーク (日本では入手困難なBBQ用のスパイス)ground chipotle powder(これも日本では入手困難。スモーク・テイストの強いチリペッパー)、塩、胡椒、タイムを混ぜたものに最低1時間以上 ほどつけておく。そしてヒッコリー・チップで両面15分位ずつスモークする。ただそれだけだ。

彼女のカラードグリーンも私がそれまで何度も食べた物とは少し違った。
まずスモークしたハムホックをスーパーで買って来て1時間ほど煮込み、ダシを出す。一度煮込んだ物を取り出し、そこにみじん切りのガーリック、タマネギ、レッドペッパー、塩、胡椒とカラードグリーンを入れて柔らかくなるまで煮る。その後一度取り出したハムホックを再度入れてちょっと煮て終わり。ハムホックの代わりにスモークしたターキーネックやチキンストックを使う人も多いらしいが、彼女はこのスモークしたハムホックの香りが一番気に入っている。

マカロニチーズの作り方は簡単。ゆでたマカロニとチーズ、バターを交互に重ねて卵を牛乳で溶いたものを入れ、塩、胡椒で味を付け、器に入れてオーブンで焼くだけ。これだけは何処で食べても同じ。チーズは決して高級なものでもなく何処のスーパーマーケットでも手に入る様なチェダーチーズ。

そして最後にフライド・キャットフィッシュを作った。衣は真っ白い小麦粉やパン粉は使わない。塩、胡椒、ガーリック・パウダーなどのスパイスに、コーン・ミール(トウモロコシをひいた粉)をまぶして揚げる。

どのメニューも、レシピなんて無いほど適当で簡単、ただ時間がかかる物があるだけである。

 

♪ ソウルフード・ディナー

出来上がって、二人で赤ワインをまず開けた。ジャズ・ピ−プルはワイン、ブルース・ピープルはビールを飲む!と決まっているらしい。まずスモークド・キャットフィッシュを一口食べた。何とも言えないヒッコリーの香りと一緒に様々なスパイスの香りも口中に広がり、白身はまったく臭みがなく柔らかく脂っこくもなく、でもジューシーで抜群に美味しかった!大げさではなく、初めて味わうレストラン級の味だと思った。多すぎたら残していい、と言われたが一気に全部食べてしまった。

フライド・キャットフィッシュもフライにも関わらず、さっぱりして美味しかった。フライの方はスパイシーなチリソースかタルタルソースをつけて食べるのが一般的な食べ方で、それはキャットフィッシュの臭みをとるため。シャロンはレモンペッパーやオニオンソルト等いくつかのスパイスで最初に臭みを消して揚げるので、食べる時には何もスパイスは必要ない。
カラードグリーンは私がそれまで食べたことがあるもののようにドロドロではなく、きちんと野菜の繊維質のシャキシャキ感があり、大変美味しかった。

「ねえ、これって、もしかしてソウルフードじゃないんじゃないの?特にこのスモークド・キャットフィッシュは!」と、彼女に尋ねると大笑いし、「そうよ!私の料理だって言ったでしょ。でもルーツはソウルフード。材料も昔は白人が食べなかったものばかり。私のソウルがあるからソウルフード。キャットフィッシュは南部の人達はスモークはしないでしょうね。この辺りのミズーリ川にはいっぱいいるわよ。でも、ピーチ・ツリーだってヴェトナムからの輸入物を使っているらしいし、もちろん、養殖物だから昔の物のような臭みもあんまりないのよ。カンザスはアメリカの真ん中で。南部からずっと北に上がって来てるでしょ。だんだん味もつくり方も変わって来たと思うのよ。南部から直接北部のデトロイトあたりに行ったアフリカン・アメリカンは解らないけど、多分その人達はちゃんと伝統的な作り方をしてると思うわよ。」と言っていた。

♪ 『食』の人種差別…

そして、彼女は後日、こんなことを言ってきた。
「ソウルフードは今は白人も食べるようになったけど、今のアメリカは食料は豊富で奴隷制度があった時代じゃないから、本当はもう必要ないのよ。カロリーは多くて肥満の元。健康には絶対よくないのは誰もが解ってることでしょう。国を挙げて言ってることじゃない。
だから私もできるだけ健康的なレシピを考えてるのよ。でも今、多くのアフリカン・アメリカンにとっては、いくらシンプルな魚や野菜だってやっぱり高いし、オーガニックフードやダイエットフードなんかを買う余裕がないのも現実なのよ。『食』でも人種差別はまだまだあるのよ。
ソウルフードを沢山食べる事は、奴隷制度のあった頃の彼らのつらい境遇や気持を、今でも心の支えにするっていうことなのよ。アフリカン・アメリカンは長い間に悪い食習慣がついたことは事実よ。ソウルフードの伝統を次の世代に伝えて行くことは大事なことだと思う。でも私は、ソウルフードを食べることは今の時代には必ずしも良いことじゃないと思うのよ。とくに女性たちは、もうカロリー過剰摂取で大きく太った信じられない体型を気にしない振りをして『ビッグ&ビューティー』なんて言ってるのよ。そんな言葉知らないでしょ。
今の時代まったくナンセンス。もう、そうなってくるとソウルフードのソウルは彼らの中にはないわね。現代の人種問題とレイジーなアメリカ人たちの健康問題ね。この複雑な状況、あなたに解って欲しいわね。複雑で矛盾だらけなのよね」と。

この原稿を書いているのは2009年が明けてから。シャロンと電話でお正月に何を食べたか、という話になった。カラードグリー ンはアフリカン・アメリカン達の伝統で、日本で言う元旦に食べるのが習慣だそうだ。その際、野菜のみじん切りと一緒に煮込んだブ ラック・アイド・ピース(黒目豆)とブラウンライスと一緒に。両方とも 『富』 の象徴でこれを食べるのは縁起がいいらしい。アメリ カのお札はグリーンのインクで印刷されている。ブラック・アイド・ピースは形がコインに似ているからで、ニューイヤー・コ インというのだそうだ。何ともアメリカらしい話である。

それにしても彼女のスモークド・キャットフィッシュは本当に美味しかった!今の時代に合ったカンザス・シティで食べる彼女ならではのソウル・フードであった。カンザス・シティはアメリカの中心。やはり南部でも東部でも西部でもない。ジャズが南部から発生して北部や東部に広がって行きながら、時代と共にスタイルが変わって行ったのと同じように、ソウルフードもその広がりと共に、レシピも少しずつ変化してきたのかな?と思う。

初出:2009年1月18日

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竹村洋子

竹村洋子

竹村 洋子 Yoko Takemura 美術学校卒業後、マーケティングの仕事に携わる。1996年より、NY、シカゴ、デトロイト、カンザス・シティを中心にアメリカのローカル・ジャズミュージシャン達と交流を深め、現在に至る。主として ミュージシャン間のコーディネーション、プロモーションを行う。Kansas City Jazz Ambassador 会員。KAWADE夢ムック『チャーリー・パーカー~モダン・ジャズの創造主』(2014)に寄稿。Kansas City Jazz Ambassador 誌『JAM』に寄稿。(2016)

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