#016 Chapa

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2016年5月12日 渋谷ハチ公前
photo & text:稲岡邦弥

裏原宿の夜は早い。昼間の賑わいが嘘のようだ。8時から始まった神宮前「月光茶房」での増補改訂版『ECM catalog』の打合せを終え、渋谷ハチ公前の階段を地下5階の東横線に向かって駆け下りようとしていた時だった。1日の幕が降ろされようとする街の騒音の中から強力なグルーヴを伴ったふたつの音が耳に飛び込んできた。ビートボックスとディジュリドゥ。思わず振り返ると手前にビートボックス、後方にディジュリドゥ。別々の奏者の演奏がデュオのようなユニティを伴って聴こえてきたのだ。思わず駆け寄った瞬間、演奏を終えたディジュリドゥ奏者と目が合った。「あれ、短いね」。少年のように小柄で童顔の奏者が手にするディジュリドゥは伝統楽器の半分くらいの寸法。「持ち運びできるようになってるんです」と言いながら、彼は楽器の真ん中をねじてふたつのパートに分けて見せた。プラスチック製のようだ。「今日は時間がないからCDを聴かせてもらうね」。シートの前に並んでいたCDを手にとって1000円札を手渡した。「ありがとうございます。今日できたばかりです」。

僕がディジュリドゥを初めて聴いたのは、1988年に来日したジョルジュ・グルンツ・コンサート・ジャズバンドのデイヴ・バージェロンの演奏だった。オーストラリアの先住民族アボジリニの民族楽器で、シロアリに食われて空洞になったユーカリの木を楽器にみたてたものだという。2m近くはあったろうか。リップ・コントロールだけで野太い音の音程を変える。その次に聴いたのは、パーカッション奏者Yas-Kazのドイツ文化センターでのコンサート。共演者がディジュリドゥを吹いたのだが、彼が使用した楽器は1m位の長さの陶製の楽器だった。彼は陶製の楽器を選んだ理由として、実用性と楽器としての完成度を挙げていた。事実、アボリジニが使う2m近いユーカリのディジリドゥを持ち運び、アンサンブルの中で使用するのはなかなか容易なことではないだろう。

Chapaの新作CDは『DIDGE-SYNC』(CP-RECORDS) というタイトルで6曲入り。渋谷で僕の耳を奪った演奏は3曲目の<Pumpkin>のようで、Chapaが左手に握っていたのはリズムマシンのパッドかも知れない。指先でビートを打ち出していた可能性はある。他に、アンビエント風や声明を彷彿させる演奏もあり、一聴、シンセの合成音と聴き紛うかも知れないが、かすかなブレスのノイズにディジリドゥの吹奏だと確認できる。何れにしても民族楽器1本で新しい音楽世界と創り出したChapaに乾杯だ!

LiveEvil016

https://www.youtube.com/user/didgeridoochapa

 

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稲岡邦彌

稲岡邦彌

稲岡邦弥 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。音楽プロデューサー。著書に『改訂増補版 ECMの真実』編著に『ECM catalog』(以上、河出書房新社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。Jazz Tokyo編集長。 https://www.facebook.com/kenny.inaoka?fref=ts

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