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Live Evil 稲岡邦弥No. 223

#22 「サムルノリ in 高麗 2016 〜 高麗郡建都1300年記念」

text & iphoto by Kenny Inaoka 稲岡邦弥

2016年10月23日(日)高麗神社 高麗家住宅前庭

サムルノリ(SamulNori / 四物遊撃)2016
金 徳洙(キム・ドクス) チャンゴ
李 光寿(イ・グァンス) ケンガリ
崔 鍾實(チェ・ジョンシル) プク
南 基文(ナム・ギムン) チン

金徳洙師の第一声は、アニョンハセヨ、皆さん今日は、30年ぶりに帰って来ました。高麗郡建都1300年のお祝いと世界平和のために! 皆さん、仲良くやりましょう! だった。この人とサムルノリがよく口にするのは、世界平和と皆仲良く、だ。日本と韓国に限っても、民間レベルで彼らほど日韓・韓日の友好に尽力、寄与した人たちを知らない。半島統一では勇み足のあまり当時の政権の意向に反し、出国禁止、全国巡演の来日ツアーがキャンセルになったこともあった。

パルパル・オリンピック (1988年、ソウル) の前後約5年間、幸運にもサムルノリと仕事をさせてもらった期間がある。30代、気力も体力も絶頂期だった。きっかけは、トランペッターの近藤等則の紹介である。昭和記念公園と東映大泉撮影所で近藤と共催した「東京MEETING 1985」。近藤のIMAバンドとステージを分けたのが、サムルノリとソウル・フリーミュージック・トリオ(姜泰煥as、崔善培tp、金大煥perc)だった。サムルノリの爆発するようなダイナミズムと軽重反転し続けるグルーヴ、トリオの時に内省的ですらあるしなやかなフリーミュージック、そのカルチャー・ショックに眩暈を覚えたほどだった。

ソウル・オリンピックを控え日本でのスケジュールが多忙を極めるようになっていった。引きもきらない有力アーチストとの共演。山下洋輔、林英哲、岡林信康、黒田征太郎、ネクサス、スティーヴ・ガッド、極め付けはビル・ラズウェルが組織したSXLでのライヴ・アンダー・ザ・スカイ1987への出演だったか(坂本龍一の急病によるキャンセルで汚点を残したが)。その間、自身のリサイタル、CDやビデオの収録もあった。

サムルノリには「四物遊撃」が当てられ、チン、ケンガリ、チャンゴ、プクという4種の韓国の伝統打楽器で構成されるのだが、この日はホジョクという笛がサポート役として加わり5人編成となっていた。幕を開ける李光壽師の野太い口上の声にいきなり30年前に連れ戻される。グルーヴを伴ったその大音声はラップを聞くようでもある。永いブランクを置いてのリユニオンだけにアンサンブルが心配されたが大きな乱れもなく、強弱と緩急を付けたリズムが浮き立つようなグルーヴを醸し出す。徳珠師によれば、日本人は2拍子によるベタ足、韓国人は3拍子のギャロップ、ということになる。それにしても、アッチェランドでピークに持っていく目の覚めるような四者のバチさばきはまったく衰えを感じさせない。四者がひとりずつ固有の楽器で秘芸を披露するカデンツァで、全盛期を知るオールドファンはやや物足りなさを感じたかも知れない。例えば、チャンゴを分銅に遠心力で身体に猛烈なスピンをかける徳洙師の超人的至芸、小太鼓を手にしながらの崔鍾實師のアクロバチックな曲技など。しかし、彼らも今や65歳、肉体の衰えに逆らうことはできないが、プロ野球ドリームチームの顔見せ興行とは両極にある。チンのカンミンソク師の顔がなかったのは寂しかったが、まさにレジェンドとしてのサムルノリがそこに存在してあった。

716年、朝鮮半島の高句麗滅亡により日本に移住してきた1799人の高麗人たちのために現在の埼玉県日高市を中心に高麗郡が建都されてから今年で1300年になるという。もちろん、日本と朝鮮半島との往来はそれ以前からあったことは周知の通りである。高麗神社の境内には皇族方の記念植樹も見られた。

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SamulNori@Live under the Sky 1987 with SXL

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稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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