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Live Evil 稲岡邦弥No. 230

Live Evil #27 あの川、そこの川~谷端川の物語〜

text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

劇団ムジカフォンテ公演 №46
豊島区ミュージカル 第4弾

『あの川、そこの川』~谷端川の物語〜

2017年5月6日 池袋「あうるすぽっと」

脚本:奥村直義
脚色・演出:知久晴美
音楽:堀内宏紀
出演:遠藤景子 川口亜梨沙 竹田美希 湯朝育広 山口礼華 西澤優奈 ほか
制作: NPO法人ムジカフォンテ事務局

音楽はかなり無差別に聴いてきたが、ミュージカル公演にはほとんど縁がなかった。海外出張に出かけた折り、時間つぶしに観た「OZ」と「オペラ座の怪人」くらいだろうか。両公演とも路上のダフ屋から買った偽のチケットだったため席がダブり、劇場で用意してくれた特別シートで観る羽目になったが。国内ではこの公演がたしか初めてという惨状だ。この公演も出演者のひとりである所属法人の代表からチケットを購入したのだが、法人に地元の古株がいて事前にレクチャーを受けることができた。

劇団ムジカフォンテは1990年創立というから歴史は古い。劇団のテーマは「輝く命」、“未来ある子供達が、人生に関わる様々な事にきちんと自分で対応できる能力を養い、コミュ二ケーション能力を仲間と共に高め、乗り越えてゆく。それをステージ上に置き換えて、歌や踊り、芝居を深め、楽しく輝いてゆく” という。欧米では各地のコミュニティの多くにこのような組織が存在し、行政の助成を受けながら音楽や演劇を通して子供たちの情操教育の多くを担っており、地域によっては青少年の非行化防止対策の任にもあたっている。わが国の実情には疎いのだが、30年近くにわたって劇団ムジカフォンテが子供たちの情操教育に果たしてきた功績には計り知れないものがあるのではないだろうか。

池袋を本拠地とするムジカフォンテが、豊島区の歴史に取材したミュージカルを上演するのは今回で4度目だという。「あの川、そこの川〜谷端川の物語〜」。
地元の人間でないとなかなか場所を特定しにくいのだが、谷端川(やばたがわ)は豊島区を東から西へ横断する川で、東長崎近くの粟島神社に端を発し、椎名町、下板橋、大塚を通って神田川へ流れ込む住民にはゆかりの川。昭和初期から東京オリンピックにかけて暗渠化されたため、川の流れを見ることはできないが、今も川は流れている..かつては汚染もあったり、洪水もあったり、住民の生活と関わってきた“あの川、そこの川”である。作品は14のシーンから構成されているが、配布されたプログラムに場所とシーンの説明があり、区民以外の観劇者の良き手引きとなる。突然、芸者や出征する兵士が登場するシーンがあって驚いたが、大塚には花街があったそうで年配者にはほろ苦い追憶の世界だったろう。「辺境警備隊」と称するSF的な狂言回しを任ずるグループが随時登場し、子供たちの興味をつないでいく。出演者は10歳から82歳。入場者も子供からシニアまで、まさに老若男女、すべてにストーリーを理解させ、楽しませることは至難の技だが、そこがミュージカルのメディアとしての素晴らしさだろう。子供たちの溌剌とした歌とダンスでステージは活気に溢れ、年長者のセリフも説得力があった(最年長者82歳の紙芝居のお爺さんも張りのある声がよく通り、決して若者に負けていなかった)。コンセプトを盛り込んだテーマソングも覚えやすく、エンンディングではステージの演者と一緒に声を張り上げて歌いたくなったほど。

土曜日の午後、ホールを出て豊島区の空気を胸いっぱい吸い込んだ。(本誌編集長)

*写真は出演者のFBより転載

テーマソング
作詞:奥村直義 作曲:堀内宏紀

青い空 白い雲
草の匂い せせらぎの音
花の色 虫の影
風の匂い こどもらの声
流れてゆく 流れてゆく
幾千の思いを抱えたまま
流れてゆく 流れてゆく
たとえ光を失っても
流れてゆく

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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