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Live Evil 稲岡邦弥No. 244

Live Evil #36 「jazz concerto プレ演奏会」

2018年7月6日(金)14:00~ サンシティ越谷市民ホール

text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌
photos:Tak Tokiwa 常盤武彦

jazz concerto orchestra
編曲&指揮:赤塚謙一
soloists:山下洋輔(p) 森山威男(ds)
音楽監督&プロデューサー:伊藤秀治

1st stage (soloist:山下洋輔)
Tanguedia III
Bolero
Autumn Leaves
Concierto de Aranjuez
Carmina Burana

2nd stage (soloist:森山威男)
見上げてごらん夜の星を
Bolero
Oblivion
Concierto de Aranjue
Carmina Burana

Finale:(soloists:山下洋輔&森山威男)
Theme of Sunset Boulvard
鳥の歌 (El Cant dels Ocells)

 

 

 

武蔵野線の「南越谷駅」で下車するのは初めてだ。徒歩5分。サンシティと名付けられた市民ホール。大ホールは客席数1,675席というからかなり大きい。
ホールに入るとステージにはリハを終えたメンバーが残っていてブタカンが段取りを説明している。「シモテからステージに上がってイタヅいて下さい。キャクデンが落ちます」。久しぶりに業界用語を耳にして一気に現役モードに引き込まれる。ブタカンはブカンともいい舞台監督のこと。シモテ(下手)はステージに向かって左側の袖方向。反対側はカミテ(上手)。イタヅくは板付くで、ステージの所定の位置に付くこと。キャクデンは客電で、ホールの照明を指す。

「プレ演奏会」というのは、来年3月9日に予定されている本番を前にしてのクラシックでいう「ゲネプロ」、芝居でいう「通し稽古」のことだ。それを公開しようという珍しい試み。プロデューサーはジャズ・レーベル「3361 Black」でユニークな企画を次々に実現してきた伊藤秀治。エンジニアを務めたのは本誌の録音評でおなじみの及川公生さんだった。今回の企画のポイントは、jazz concerto。オケ(ビッグバンド)とソロイストの協奏だ。しかも、ノンPAでワンポイント録音に挑戦するという。クラシックの世界では当たり前のルーティンをジャズでトライしてみようと。やはり「ゲネプロ」が必要だ。

オーケストラが弧を描いて横一列に並ぶ。下手からサックス5本、トランペット4本(編曲と指揮の赤塚謙一もトランペットを吹く)、トロンボーン4本。弧の内側下手にピアノ、センターにダブルベースという配置。
山下洋輔をソロイストに迎えて1stステージが始まるが、オケとのバランスに問題があるのかピアノの音が充分届いてこない。もっともまだ2時過ぎ、夜型のジャズメンにはエンジンがかかり難い時間帯なのだろう。ダブルベースのみアンプを使っているようだが、オケのダイナミズムも物足りない。クラシックでは常用の反響板を使っていないので音が前に出てこないのかも知れない。オケもピアノも手探り状態のまま1stステージが終わってしまう。「アランフェス」の冒頭のメロディをバリトン・サックスに吹かせたアレンジはチャレンジングで、奏者も見事に応えていた。

2nd ステージ。ソロイストが森山威男に変わってオケが目覚めた。グルーヴし始めた。ドラムの音がよく聞こえるのだろう。久しぶりに生で聴く森山の素晴らしいドラミング!腰が痛い..などのMCの弱音が吹っ飛んだ。空間を切り裂く鋭いキレと大地をも揺るがす途方も無いダイナミズム。アランフェスのソロでは大きなうねりで目一杯歌う。
森山に刺激されたのかフィナーレでは山下も目を覚ましエルボウ・スマッシュも飛び出した。このふたりが並ぶとやはり山下洋輔のゴールデン・トリオが頭をよぎる。来年は結成50周年だそうだ。歴代メンバーが揃うなどの企画が待っているのだろう。

上で遠慮なくあげつらったのはプレ演奏会の本来の目的である問題点の洗い出しのつもりである。これから修正をかけて3月9日の本番では見事な演奏を聴かせてくれるに違いない。ワンポイント録音も楽しみである。なにはともあれ、本番に先立ちこのようなプレ演奏会を企画し、ゲネプロを公開した伊藤プロデューサーの英断に拍手を送りたい。

最後になったが、編曲と指揮、それにトランペット・ソロを担当した赤塚謙一は、国立音大の山下洋輔の教え子、ジャズコース第一期山下洋輔賞受賞者とのこと。山下洋輔門下生として挟間美帆に続く活躍を見せてくれるのだろうか。

 

 

 

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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