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~No. 201ArchiveLive Evil 稲岡邦弥

#015 「庄田次郎DAY with 蜂谷真紀+あうん」

2015.3.22@Bitches Brew 白楽
text & photo: 稲岡邦弥 Kenny Inaoka

庄田次郎 (as, pocket tp, percussion)
蜂谷真紀 (vocal, voice, electronics)
あうん;
TommyTommy (ガジェット・ノイズマシーン)
赤い日ル女 (vocal, microKORG)

モーション・ブルーを出て、原稿を取りに立ち寄った白楽のBitches Brewで思いがけず目眩くサウンドスペースを体験した。赤い着流しにモヒカン刈り、70年代フリージャズの残影色濃いサックスとトランペットの庄田次郎。対するはヴォイス・パフォーマンスの一匹狼 蜂谷真紀、加えてノイズマシンのTommyTommyとヴォーカルの赤い日ル女からなるユニット「あうん」。いかにも“生誕66年”のアナログ親父 庄田次郎に対するエレクトロニクス3人衆(蜂谷と日ル女もヴォーカル用の小型のマシンを使っている)のように書いたが決してそうではない。この、ふたりと1ユニットがさまざまにフォーメーションを変えながら さながら万華鏡のようにサウンドスケープをめまぐるしく変えていくのである。「あうん」はユニットとして演奏に参加することもあれば、それぞれがノイズマシンとヴォーカルに分かれてカルテットの一員として機能することもある。4者はまさに変幻自在な順列組み合わせの様相を呈しながら即興的に音楽を展開していくのだが、場の多くをコントロールしていたのは「あうん」のTommyTommyである(ノイズマシンを操りながら時にギターでつぶやくこともあった)。手綱を緩めて全力で疾走させていたかと思うと、突然手綱を引き絞って駿馬を半立ちにさせ崖っぷちに立たせてしまう。大きなボードに搭載した数十個のエフェクターやスイッチ、ミキサーなど(彼は「ガジェット・ノイズマシーン」と称している)を自由に操るさまは視覚的な魅力も充分である。

Bicthes Brewを舞台にさまざまなセッティングで演奏を披露してきたこの3つのエレメントをひとつのステージにキャスティングしたのは彼らの音楽性をつぶさに観察してきたオーナーの杉田誠一である。そこに展開された激しくも艶(あで)やかでときにエロチックでさえあるサウンドスケープはキャスティングをした当の杉田でさえ想像することができなかった見事なケミストリーだったと彼はのちに告白した。このTommyTommyのノイズマシンが繰り出すグルーヴと自由に反応し合った3者の感性とテクニックも見事なものだった。ムキムキの肉体美を誇示しながら庄田は主力のアルトサックスとポケットトランペットに加え、懐かしのビニールホースは言わずもがな、さまざまなパーカッションを繰り出し“70年代フリージャズ”の精髄を今に伝える。唯一電気の力を借りない庄田の生(ナマ)のパワーの存在感はそれはそれで際立ったものである。内外に活躍の場を求める“ローンウルフ” 蜂谷は、ナマのヴォイスに加え、マシンでエフェクトをかけたり、ピアノにも立ち向かうなどパフォーマーとしての豊富な技を見せつけた。彼女が発する蜂谷語はとくに意味を持つものではないが、言語以上に説得力を持つ不思議さがある。2ndセットでは頭髪をキリリと蜂谷巻きに整え、舞台女優さながら。時により何者かが憑依するその 演劇的なパフォーマンスは独特の魅力を発していた。「あうん」のヴォーカル 赤い日ル女もまた日常から非日常の世界へ容易に超越できる才能の持ち主である。機関銃のように短いシラブルで言語を速射する蜂谷に対して、マシンを操りながらどこまでもスペイシーな世界を現出させていた日ル女(ヒルメ)が終演間際、満を持してTommyTommyと創り出した「あうん」の濃艶な世界は圧巻だった。オフステージではカマトト的な言語を弄していた彼女が見事に日ル女に変貌し、ベテランの庄田と蜂谷が一瞬手を止めるほど場を支配した。マシンの力を借りているとはいえ、そのオペラチックな朗唱は息を呑ませ、機会があれば「あうん」だけのステージを聴きたいと思わせるに充分だった。「あ・うん」こそ“ポスト・ノイズ”の一翼を担うべき存在ではなかろうか。また、庄田次郎と父娘ほどの年齢差のある日ル女とのスリリングな共演こそポジティヴな意味でのジェネレーション・ギャップと呼ぶにふさわしい内容で、モーション・ブルーでの不完全燃焼が思いがけず解消される楽しい一夜となった。
なお、当夜の模様の一部は4Kのカメラを持ち込んだ渡邊聡によって記録されている。ワンカメとはいえ、当夜の雰囲気を知る貴重な手がかりにはなろう。(初出:2015年3月29日 JT#206)

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関連リンク;
https://www.youtube.com/channel/UCw4657GS1qhuIg_9BH4CmVQ

 

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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