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Live Evil 稲岡邦弥No. 222

#21 村上 寛トリオ

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text & photo by Kenny Inaoka 稲岡邦弥

2016年9月22日 駒込教会会堂

村上 寛トリオ
村上 寛 (d)
楠 直孝 (p)
鈴木克人 (b)

Bud Powell (Chick Corea)
Summer Night (Harry Warren)
While My Guitar Gently Weeps (George Harrison)
All That Left (A.C.Jobim)

Say It Again And Again (Michel Petrucciani)
You Are My Everything (Harry Warren)
おうち(楠 直孝)
Metroid(鈴木克人)

Amazing Grace
It Never Entered My Mind (Richard Rodgers)

 

久しぶりに村上寛のドラミングの真髄を聴いた気がする。野球で言えば“シュア”なバッティング。ツボを外さず、ここぞという時に必ず決めてくれる信頼の置けるバッター。本田竹広から始まって菊地雅章、渡辺貞夫、ジャズ・フュージョンではネイティヴ・サンで一世を風靡、峰厚介らとのFour Sound、そして今、冨樫雅彦に代わってJ.J. Spiritsのリユニオン・バンド。フライヤーのキャッチにある通り「王道を歩んできた」ドラマーである。ジェントルマンの彼に“カリスマ”という言葉はふさわしくないかも知れないが、初めて聴く楠、鈴木という若手ふたりに存分に実力を発揮させるリーダーシップはさすがヴェテランならではである。100席ほどの教会の会堂で開かれた手づくりコンサートにも妥協はもちろん、遠慮や手加減は一切なし。セットリストを一瞥すれば本気度は一目瞭然だが、会場の音響に気を良くしたバンマスがフル・ヴォリュームで叩けば、煽られたピアノとベースが120%でそれに応えるのは当然の成り行きだ。瞬く間に会場いっぱいに熱気が横溢していく。

アタマ2曲はチック・コリアのレパートリーからの選曲でピアノの楠のフェイヴァリットなのだろうか、流麗なフレーズが迸り出る。<サマー・ナイト>、チック、ヴィトウス、ロイ・ヘインズのライヴ演奏(ECM)が頭をよぎる。定石通りピアノ〜ベース〜ドラムスとソロが周り、快調な滑り出しだ。次は一転、ピアノのアルペジオに導かれベースがアルコでメロディを演奏。村上がブラシで刻む。ジョージ・ハリスン(ビートルズ)の親しみやすいバラード。ベースはピチカート、ドラムはスティックに持ち替えた後半は盛り上がりを見せジャズに昇華。ジョビンをサンバで聴かせ、2ndセットに大いに期待を持たせつつ1stセットを終える。
ペトルチアーニのオリジナルで2ndセットを開けたのには唸ったが、3曲目の<おうち>には仰天。ピアノがいきなりフリーとも言えるアブストラクトなイントロをかまし、そのままトリオがオープン・リズムで演奏を展開したからだ。教会での手づくりコンサート、<おうち>=<お家>、まさにアット・ホームな曲調を想像していたからだ(終演後確認したところ、おうちは樗=船団を指すとのこと)。後半、イン・テンポになったが意表を突く前半に思わず周りの座席を見渡したほど。ジャズ・ファンク調で教会がグルーヴした<アメイジング・グレース>のアンコールでは治らず、リチャード・ロジャースのバラードで興奮を鎮められやっと納得した聴衆だった。

このコンサートを主催した「おうごんのコンサート委員会」(代表:藤沢輝忠)は、10回目で初めてジャズ・バンドを呼んだそうだが、これだけ充実したレヴェルの高い演奏を聴かされた聴衆の要望に応えて、次回もまたジャズ・コンサートを開く羽目になるのではないだろうか。耳の超えたクラシック・ファンは上質なジャズに何の違和感も感じないのだ。

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稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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