Reflection of Music vol. 51 アリルド・アンデルセン(アーリル・アンダーシェン)

閲覧回数 5,209 回


アリルド・アンデルセン@新宿ピットイン 2017
Arild Andersen @Shinjuku Pit-Inn 2017
Photo & text by Kazue Yokoi 横井一江


アリルド・アンデルセンはノルウェーのジャズ・レジェンドである。

彼の60年代からのキャリアを辿ってみると、ノルウェーのジャズ受容史が見えてくる。第二次世界大戦後、多くのアメリカのミュージシャンがヨーロッパに渡り、演奏活動をした。その時に地元ミュージシャンがバックを務めることも少なくなかった。彼もまたそういう経験を持つ一人なのである。コングスベルグ・ジャズ祭50周年記念のドキュメンタリーにはソニー・ロリンズやディジー・ガレスピーと共演している姿が映っている。そのような中でもやはり大きかったのはドン・チェリーとジョージ・ラッセルとの出会いだろう。これについては本誌インタビュー(リンク: Part 1, Part 2)でアンデルセン自身が語っているので、そちらをお読みいただきたい。

アンデルセンの初期の活動といえば、ヤン・ガルバレク・カルテットである。約10年前に公開されたヨーロッパのジャズについてのドキュメンタリー映画『プレイ・ユア・オウン・シング Play Your Own Thing』で、ガルバレクはこう語っていた。「誰もチャーリー・パーカーのように吹くことは出来なかった。何百、何千の人達が試みたが無理だった」と。そして、ジャズはそれぞれが自身の表現をすればいいのだと結論づけた。この言葉は今でも耳に残っている。アンデルセンもまた、アメリカのジャズメンに憧れ、彼らのように演奏したいと思った時期を経て、自らの表現を見いだしてきた世代のミュージシャンなのだ。

そんな彼らのマイルストーンとなった作品は、アンデルセンも参加しているガルバレクの71年録音のECM第2作『SART』だろう。ヨーロッパにおいてフリージャズがまだ瑞々しかった時代の北欧からの回答である。その後、アンデルセンはニューヨーク滞在(72年~74年)を経て、「マスカレロ」を結成。そこでピアノを弾いていたのが、まだティーンエイジャーだったヨン・バルケだ。現代ジャズに繋がる流れが見えてくる。今のノルウェーにおけるジャズの隆盛は、アンデルセンのような先達がいて、若手ミュージシャンを育ててきたことも大きいといえる。80年代後半になると、ジャズ/即興音楽とフォークロアが相互に影響を与えている現象があちこちから伝わってきた。北欧も然り。アンデルセンが1990年に『Sagn』 (ECM) をリリースしたのも時代の必然だろう。こうして振り返ると彼の活動歴から、ジャズの変遷が浮かび上がってくるのである。

そんなアンデルセンの現在を見に1月17日に新宿ピットインに出かけた。この十数年、ノルウェーから日本にも数多くのミュージシャンが来日しているが、彼の来日は2010年以来2度目なのである。今回は70歳を記念した企画の延長線上でヘルゲ・リエン(ピアノ)とFOODで知られるトーマス・ストレーネン(ドラムス)との特別編成での来日である。アンデルセンとヘルゲ・リエンとは、ドイツのジャズ誌『Jazzthing』による企画「ヨーロピアン・ジャズ・レジェンド」による公演で共演し、それは『Rose Window』(Intuition) としてCD化されているが、この3人で演奏するのは日本ツアーが初めてとのこと。

そもそもこのツアーは、ストレーネンからトリオでの来日を持ちかけられた巻上公一の尽力で実現した。ライヴではまずツアーを企画した巻上公一(テルミン)とストレーネンによる短いデュオが行われ、続いてトリオの演奏となった。ベースの奥深くに谺するような音色に耳が拓かれる。前半は『Rose Window』収録曲などメロディアスで叙情的な展開が多く、アンデルセン特有のルーパーの使用も控え目で、アコースティックに近い演奏だった。アンデルセンといえばベース奏者でループなどエフェクトを用いることを最初に始めたひとりである。前半の演奏はクォリティは高かったものの、もう一歩先を行く演奏が聞きたいというのが贅沢な本音だった。後半になるとルーパーをより効果的に用い、リエンも内部奏法を行ったり、ストレーネンとのスリリングなダイアローグがあったり、とライヴならではの展開の中で、3者での演奏が見えてきた。リエンのリリシズム、ストレーネンの繊細かつ緻密なブラシワークが、アンデルセンの世界と絡み合う。トリオというフォーマットの中での自在な交歓は、現代のジャズを表象するものだった。今回、招聘した巻上はトリオとの演奏はアンコールのみと脇役に徹していたが、このような日本発の企画が出来るのであれば、コングスベルグ・ジャズ祭とJazz ARTせんがわとの交流だってあり得るのではないかと余計な期待がふと頭をもたげたのである。

何度もヨーロッパに出かけているのに、どこですれ違っているのか、観る機会を逸している彼の地のミュージシャンは少なくない。そんなひとりだったアリルド・アンデルセンを冬の東京で聴けたのは幸運だったと思いつつ、新宿ピットインを出たのである。

 


註:Arild Andersenはアーリル・アンダーシェンとカタカナ表記するのが正しいのだが、アリルド・アンデルセンという表記で何十年も通用しているので、こちらの表記を用いた。

 

【参考】

1.コングスベルグ・ジャズ祭50周年記念のドキュメンタリー
https://tv.nrk.no/program/mkmf26000014/kongsbergjazz-i-50-aar

2.1月17日のセットリスト

Date: January 17, 2017
Venue: Shinjuku Pit-Inn, Tokyo

Arild Andersen – bass
Helge Lien – piano
Thomas Stronen – drums
Guest:Koichi Makigami 巻上公一 –Theremin, vo

Opening act by Koichi Makigami and Thomas Stronen

Hyperborean (Arild Andersen)
Science (Arild Andersen)
Bella (Thomas Stronen)
Blussy (Arild Andersen)
The Day (Arild Andersen)

Outhouse (Arild Andersen)
Mira (Arild Andersen)
Venise (Arild Andersen)
Silver Pine (Helge Lien)
Saturday (Arild Andersen)

Dreamhorse (Arild Andersen) with Koichi Makigami

(提供:神野秀雄)

Share Button
横井一江

横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。The Jazz Journalist Association会員。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。海外レポート、ヨーロッパの重鎮達の多くをはじめ、若手までインタビューを数多く手がける。 フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

↓ ロボットでないかお知らせください。 * Time limit is exhausted. Please reload CAPTCHA.