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Reflection of Music 横井一江特集『クリス・ピッツィオコス』No. 234

Reflection of Music (Extra) Vol. 55 JAZZ ART せんがわ 2017

JAZZ ART せんがわ 2017
JAZZ ART SENGAWA 2017
Photo & text by Kazue Yokoi 横井一江


「JAZZ ART せんがわ」がスタートしたのは2008年、今年遂に10周年を迎えた。商業主義とも単なる街興し的なお祭りとも一線を画した独自の路線を持つフェスティヴァルが続いたことは嬉しい。まずはひとこと、おめでとう!

私が観てきたのは第2回からだが、国内外で活動する日本のミュージシャンをコアに、JAZZとARTという2つのキーワードから他にはないプログラムを呈示してきた。それは現代のプログレッシヴな音楽シーンの一部であり、また海外のミュージシャンも出演するなど開かれたものである。そこには言い出しっぺの当時のせんがわ劇場芸術監督ペーター・ゲスナーと3人のプロデューサー、巻上公一、藤原清登、坂本弘道の志向がよく表れている。ただ、誰もがイメージするジャズとは一線を画している音楽が中心になっているので、前衛的でわかりづらいから市主催のイベントには馴染まないなどという茶々が入ってもおかしくないが、プログラミングのスタンスはブレていない。それだけに大変だろうということは想像がつくが…。

地域住民がどれだけ観客としてせんがわ劇場に足を運ぶかどうかはさておき、今では街の空気にとけ込んでいることは間違いない。最初の頃は道を行く住民の「コレナニ?」という冷ややかな視線を浴びていた「CLUB JAZZ 屏風」も今ではすっかり面白スポットになっており、「公園イベント」でも子供達が楽しんでいたりと、地域にすっかり馴染んだ感がある。そしてまた、時々自動による「子どものための音あそび」、「サンデー・マティネ・コンサート」(今年は沖至によるお話と演奏)やプレイベントとしてヒカシューの清水一登、巻上公一による「即興演奏入門WS」や「CLUB JAZZ 屏風」をデザインした長峰麻貴による「じゃずあーとモンスターを作ろう!WS」というワークショップが行われている。特にワークショップはまだ頭の柔らかい子供達に即興演奏やアートに触れてもらう貴重な機会だ。しかも、「即興演奏入門WS」はジョン・スティーブンスの『Search & Reflect』 (rockschool) をベースにしたもの。スティーブンスはイギリスのフリージャズのパイオニア、「スポンテニアス・ミュージック・アンサンブル」で知られているが、日本でこの本についてはあまり知られていない。ついでながら、よい教材だけに、他の機会でもこのようなワークショップをやってほしいものである。

「JAZZ ART せんがわ」のプログラミングは、メインとなるコンサートと参加型プログラムであるワークショップや「自由即興ZOO」などと、オルタナティヴなプロジェクト「CLUB JAZZ 屏風」や同時開催の「LAND FES」が絶妙なバランスで組まれている。だからこそ、独自性を持った市のイベントとして10年継続したのだろう。2001年に文化芸術振興法が出来て以来、自治体が関わる文化イベントは増えた。ビエンナーレ、トリエンナーレ形式の芸術祭は、瀬戸内芸術祭の成功にあやかろうという気運なのか今では40くらいあるとどこかで読んだ記憶がある。つまり、ハコモノ行政に対する批判もあって、アート・プロジェクトによる地域活性化を期待しているということだ。自治体が主催となると、当然その結果が俎上に上がる。文化イベントを定量的に測ること自体無意味だと私は思うが、入場者数や経済効果といった数字によって、その行方が左右される。芸術祭としての質が伴わないものはいずれ淘汰されるだろう。そういう意味でも、「JAZZ ART せんがわ」は小さな音楽イベントではあるが、等身大で上手くマネージメントされていることを評価したい。

最後に巻上公一が言っていた調布市の文化交流の相手であるケベック州のヴィクトリアヴィルにあるFestival International de Musique Actuelle Victoriaville (FIMAV) との交流も是非本格化させてほしい。 ローカルが繋がることでネットワークが出来ていく。そこから得られるものも多い筈だ。さらなる10年に期待しよう!


 

「じゃずあーとモンスター」 & 「CLUB JAZZ 屏風」

会場となったせんがわ劇場のホワイエの壁には、子供達がワークショップでつくったモンスターの切り絵がペタペタと貼り付けられていた。そのどれもが個性的でカワイイ…

9月17日は雨が降っため、「CLUB JAZZ屏風」はせんがわ劇場内へ移動。ホワイエに居た観客がぐるりと取り囲む中、最後のパフォーマンスは扉を開いて行われた。

 

 

 


5日間の期間中に観ることの出来たステージを、それぞれスライドショーでまとめてみた。

9月13日(水)

藤井郷子オーケストラ東京 feat.アリスター・スペンス

早坂紗知 (as)  泉邦宏 (as, 尺八)  松本健一 (ts, 尺八) 吉田隆一 (bs)
田村夏樹 (tp) 福本佳仁 (tp) 渡辺隆雄 (tp) 城谷雄策 (tp)
はぐれ雲永松 (tb) 古池寿浩 (tb) 高橋保行 (tb)
藤井郷子 (p) 永田利樹 (b) 堀越彰 (ds)
アリスター・スペンス (comp, cond, p)

演奏曲目
1. Peace (藤井郷子)
2. Imagine Meeting You Here (アリスター・スペンス)
3. Jasper (田村夏樹)
4. Begin Nummer Eins (藤井郷子)

「JAZZ ART せんがわ」の最初のステージ。1曲目は2010年に藤井オーケストラのメンバーとして共に出演した故ケリー・チュルコに捧げた<ピース>。アリスター・スペンスの<Imagine Meeting You Here>での ミニマルな展開を含んだ緻密な作曲と即興演奏部分の自由度のコントラストが絶妙だった。押さえるところは押さえた上での踏み外しもまたこのオーケストラのサウンドの一部なのだろう。それもまた愉し。

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9月16日(土)

【藤原清登ディレクション】

BASUYAスピンオフユニット「大福星」
斎藤和志 (fl, b-fl, cb-fl, sampler) 福田亜由美 (fl, b-fl)

現代音楽/クラシック音楽をベースに幅広い活動をしている斎藤和志と福田亜由美によるユニット「大福星」は、バス・フルートやコントラバス・フルートも用い、現代曲をメインにスクリーンに画像を映しながらファミコン・ゲームの曲をアレンジしての演奏も。最後に斎藤はサンプラーも用いてひとり<ジャイアント・ステップス>を披露した。

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板橋文夫 (p) 藤原清登 (b)

プロデューサーとしてだけではなく、演奏家としても「JAZZ ART せんがわ」でチャレンジングな試みを続ける藤原清登は板橋文夫とのデュオで登場。2人のオリジナル曲を演奏したが、板橋の疾走ぶりに藤原も呼応し、エキサイティングな展開に。デュオは<渡良瀬>で閉め、斎藤和志と福田亜由美も加わって最後にもう一曲演奏した。

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9月17日(日)

【藤原清登ディレクション】

松本治 Musica Immaginaria

曽根麻央 (tp)  山拓海 (as, ss)  平山順子 (as, ss)  松本治 (tb)
山田あずさ (marimba)  片野吾朗(el-b)  野崎くらら (per)  山田玲 (ds)

今回、私が観た「JAZZ ART せんがわ」のプログラムの中では最もジャズらしい演奏。ベテラン松本治が率いるMusica Immaginariaのメンバーは、力量のある若手ミュージシャンが揃っている。松本やメンバーの曲を演奏したが、松本のアレンジはひねり具合といいやはり冴えていた。

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坂田明 (as, cl, etc)  ピーター・マドセン (p)  藤原清登 (b)

坂田明の存在感が抜きん出ている。サックスやクラリネットもさることながら、坂田のヴォイス・パフォーマンスは、マドセンの内部奏法、藤原のベースとの絡みで、これまでにない凄み、独自の境地を見せていた。最も印象に残ったステージ。

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9月17日(日)

【巻上公一ディレクション】

クリス・ピッツィオコス (as)

ニューヨークから来た最注目のサックス奏者クリス・ピッツィオコスによるソロ演奏。(別稿で取り上げたので、そちらをお読みいただきたい。→リンク

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ヒカシュー ×  沖至 ,  クリス・ピッツィオコス

ヒカシュー: 巻上公一 (vo, theremin, cor)  三田超人 (g)  坂出雅海 (b)  清水一登 (p, syn, bcl)  佐藤正治 (ds)
沖至 (tp)
クリス・ピッツィオコス (as)

トリは毎年出演しているヒカシュー。途中から「サンデー・マチネ・コンサート」に出演した沖至が入り、さらに新譜『あんぐり』にも3曲参加しているというクリス・ピッツィオコスも加わる。ヒカシューはアヴァン・ロック・バンドだが、即興演奏を取り込むフレキシビリティを遺憾なく発揮していた。

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【関連記事】

Live Report #971 JAZZ ART せんがわ 2017  Reported by 剛田 武, 齊藤聡
https://jazztokyo.org/reviews/live-report/post-20041/

横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。ドイツ年協賛企画『伯林大都会-交響楽 都市は漂う~東京-ベルリン2005』、横浜開港150周年企画『横浜発-鏡像』(2009年)、A.v.シュリッペンバッハ・トリオ2018年日本ツアー招聘などにも携わる。フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)、共著に『音と耳から考える』(アルテスパブリッシング)他。メールス ・フェスティヴァル第50回記。本『(Re) Visiting Moers Festival』(Moers Kultur GmbH, 2021)にも寄稿。The Jazz Journalist Association会員。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

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