Reflection of Music Vol. 50 JazzFest Berlin 2016

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アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハが13人編成のオーケストラを率いてベルリン・ジャズ祭に登場し、西ドイツの放送局RIASによる委嘱作品<グローブ・ユニティ>を演奏したのは、1966年11月3日のことである。その年のベルリン・ジャズ祭のプログラムにはマックス・ローチ、ソニー・ロリンズ、デイヴ・ブルーベック、デクスター・ゴードン、アルバート・アイラーなどの名前がキラ星のように並んでいた。しかし、話題をさらったのは28歳のシュリッペンバッハと若者たちによる<グローブ・ユニティ>の演奏だった。このオーケストラによるフリージャズは全く新しい試みだったからである。それはセンセーショナルな出来事で賛否両論、喧々諤々の論争を引き起こしたのだった。

それから半世紀、50周年記念コンサートをベルリン・ジャズ祭のステージで行うという。加えて、少し前から気になっていたフランスの若手ピアニスト、イヴ・リッサのホワイト・デザート・オーケストラも出演する。これは行かねばなるまい。11月のベルリンはどんよりとした雲の下、暗くて寒い。だが、プログラムに背中を押さるようにベルリンへ向かった。

 

*グローブ・ユニティ・オーケストラ

ステージに18人の猛者が登場する。50周年記念コンサートとはいえ、<グローブ・ユニティ>初演時のメンバーはマンフレッド・ショーフとゲルト・デュディックだけだ。もちろんこのオーケストラの長い歴史の中で主要なメンバーだったエヴァン・パーカーやパウル・ローフェンス、80歳を超えた旧東ドイツ時代からその地で活躍していたE. L. ペトロフスキーもいる。半世紀前にヨーロッパで興ったフリー・ムーヴメントを牽引した大御所にベテラン・中堅どころが加わった錚々たるメンバーがステージに並んだ様は壮観である。メンバーを記しておこう。ヘンリック・ヴァルスドルフ (as)、E. L. ペトロフスキー (as,cl,fl)、ダニエレ・ダガーロ (ts,cl)、ゲルト・デュデック (ss,ts,cl,fl)、エヴァン・パーカー (ss,ts)、ルディ・マハール (bcl)、アクセル・ドゥナー (tp)、マンフレッド・ショーフ (tp)、ジャン=リュック・カポッゾ (tp)、トーマス・スタンコ (tp)、ライアン・カルニォ (tp)、クリストフ・ティーヴス (tb)、ウォルター・ウィールボス (tb)、ゲアハルト・グシュロースル (tb)、カール=ルードヴィヒ・ヒュプシュ (tuba)、パウル・ローフェンス (ds)、ポール・リットン (ds)、シュリッペンバッハ (p)。国籍も住んでいるところもさまざま、各人の活動を考えると実にバラエティに富んだ顔ぶれである。

50年前と違い、弧を描くように並んだ彼らの前にもはや譜面などはない。演奏が始まるとまずそのサウンドに圧倒される。普通オーケストラが演奏する際、メンバーがステージに立つ位置は決まっているものだが、時に彼らはステージ上を動き、フォーメーションを変え、ユニットを新たに形成し、即興演奏を展開する。これは40周年の時には見られなかったので、割と最近の試みなのだろう。このようなアンサンブルの構成からもグローブ・ユニティ・オーケストラが有機的なオーケストラだということがわかる。各人がステージの真ん前にでてソロ、デュオを演奏するたびに拍手が起こった。私個人的には、チューバのヒュプシュの好演が印象に残った。この楽器で彼のように自在にサウンドを駆使して即興演奏するミュージシャンは少ない。エヴァン・パーカーがソプラノ・ソロをとった時、循環呼吸法とマルチフォニックスを融合させたそれに「待ってました」とばかりの喝采。即興を身上とする彼らの屹立した個々の表現があり、サウンド全体を見据えた構成があるからこそ、コレクティヴ・インプロヴィゼーションも含めたオーケストラとしてのトータルなサウンドが成立しているのだ。その根底に流れているのはコスモポリタニズムだろう。50周年にして今なお圧倒的な強度、密度の高い45分で、万雷の拍手がそれを讃えていた。

*イヴ・リッサ・ホワイト・デザート・オーケストラ

イヴ・リッサは1982年生まれのフランスのピアニスト。2009年から2013年にかけてフランス国立ジャズ・オーケストラのピアニストを務め、ユーコ・オオシマ (ds) とのデュオ「ドンキー・モンキー」、北欧のミュージシャンとのユニット「ザ・ニュー・ソングス」(ソフィア・イェルンベリ(vo)、ダヴィッド・スタケナス (g)、キム・ミール (g, zither))などで活動してきた彼女が、ホワイト・デザート・オーケストラを結成したのは作2015年。初演のバンリュー・ブリュー・フェスティヴァルに続いて、メールス・ジャズ祭に登場、昨年から今年にかけてフランス各地、またフィンランドのタンペレ・ジャズ祭などに出演している。ずっと気になるオーケストラだったのだが、やっとステージを観ることが出来た。

初演ではテンテットにアマチュア・コーラスや子供達、メールスでもコーラスを入れる構成だったが、ベルリン・ジャズ祭ではテンテットでの出演である。メールスの演奏をARTEのストリーミングで見ただけなのだが、テンテットのほうがこのオーケストラの音楽性が浮き彫りになったように思う。メンバーはイヴ・リッサと同世代、トランペット、トロンボーン、サックスに加えてフルートやバスーン、ギターが2人、ドラムスに彼女自身のピアノという非常にユニークな楽器構成。先に観たグローブ・ユニティ・オーケストラを剛とするならば、ホワイト・デザート・オーケストラは柔である。バンドらしい演奏も垣間見せるが、即興演奏も作品の中にとけ込み、会場全体を包み込むようなサウンド・テクスチャー、そこに入り込むノイズがイマジナティヴな空間を創出する。音響効果の巧みな用い方、多層的な構成は独自のもので、ピアニストとしてはプリペアード奏法も駆使する彼女の作品性、音楽的志向がオーケストラにもよく現れていた。その感性はこのオーケストラにも参加しているアイヴィン・ロンニング (tp) などの北欧の若手ミュージシャン達とも相通じるものがあるように思う。終演後の暖かい拍手とスタンディング・オーベーションが若手への大きな期待を伝えていた。

*ブルックリン~ベルリン・ダイアローグ

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本会場だけではなく、ジャズクラブAトレインをサブ会場として、「ブルックリン~ベルリン・ダイアローグ」と題した3つのデュオが行われた。

メアリー・ハルヴァーソン&イングリッド・ラウブロックのデュオはベルリン到着日だったこともあり、残念ながら観ることは出来なかったが、高瀬アキとイングリッド・ラウブロック、シャーロッテ・グレーヴェのライヴのセカンド・セットには駆けつけることが出来た。駆けつけると書いたのは本会場と同時進行だったため両方観ることは不可能、いかに効率的に動くべきか会場間の移動が至難の業だったのだ。高瀬がこの二人と演奏するのは初めてである。イングリッド・ラウブロックとのデュオは、Intakt Records のパトリック・ランドルトが今最も期待しているサックス奏者のひとりと言うように、彼女の柔軟で多彩な持ち味を高瀬が上手く引き出したよい出会いで、今後もこのデュオで活動してほしいと思わせるものだった。

今アクティヴなブルックリンのミュージシャンがベルリン・ジャズ祭に出演したことは意味があるが、出来ればもっと多くのミュージシャンを通してそのシーンを紹介してほしかったというのが正直な気持ちである。

*ニューヨーク~ドイツなど

今年はニューヨークのミュージシャンが多く出演した年で、ワダダ・レオ・スミスのグレート・レイクス・カルテット、ジョシュア・レッドマンとブラッド・メルドーとのデュオ、ジャック・ディジョネット/ラヴィ・コルトレーン/マット・ギャリソンのような著名なミュージシャンに加えて、今が旬のミュージシャンも出演していた。

メールス市の2008年年度インプロヴァイザー・イン・レジデンスだったアンゲリカ・ニーシャーはフローリアン・ヴェーバー (p) とのクインテットで出演。トランペットは彼女のプロジェクト NYC Five で共演しているラルフ・アレッシだが、ドラムスはジェラルド・クリーヴァー、ベースはエリック・リーヴァイスという編成。キレのある彼女のサックスとドライヴ感のある演奏で会場を沸かせた。また、最近頭角を現してきたステーヴ・リーマンもオクテットで登場。ジャズ・イデオムを駆使しつつもエレクトロニクスも用い、現代的なタイム感覚でイマドキの感性を表す。精緻な構成とスピード感、エッジのある演奏で俊才ぶりを聴かせてくれた。これからも注目していきたいミュージシャンのひとりである。

別会場のインスティチュート・フランセでは、昨年アルバート・マンゲルスドルフ賞を受賞したピアニスト、アキム・カウフマンのプロジェクト「SKEIN extended」の演奏があった。カウフマンとは長い共演歴をもつフランク・グラトコフスキ (cl, as) やウィレム・デ・ヨーデ (b) に、ポエトリー・リーディングのガブリエレ・グエンター、リズ・アルビー (tp)、ジェリー・ヘミングウェイ (ds)、リチャード・バレット (electronics)、内橋和久 (g, daxphone) による8人編成。詩的世界と、特殊奏法を駆使した即興演奏が自在に変化する様がSKEIN(綛=かせ)というプロジェクト名をよく表していた。

また、マーチン・グロピウス・バウでのピナ・バウシュ展開催に合わせてマタナ・ロバーツによるマルチメディア・プロジェクト「フォー・ピナ」がジャズ祭のプレ企画として行われた。これは日程的に観ることが出来なかったのがなんとも悔しい。本会場のホワイエでは、写真家ユージン・スミスと彼が一時期住んでいたLOFTについてのドキュメンタリー『The Jazz Loft According to W. Eugene Smith』の上映もあった。日本では水俣の写真で知られるユージン・スミスだが、彼がLOFTでの沢山の写真と録音テープを残していたとは。こういう企画があるところもベルリン・ジャズ祭ならではだろう。

実質的な滞在期間が3日間と限られていたために観ることが出来なかったが、ECMアーティストのユリア・ヒュルスマンやメッテ・ヘンエッテなども出演していた。出演者に女性が多かったのも今年のフィーチャー、開催前のプレス・コンファレンスでもジャズ界におけるジェンダーが話題になっていたという。皮肉にも直後のアメリカ大統領選挙の結果が示したように、確かにガラスの天井はある。ただこのような社会的テーマは音楽的なものを二の次にしてしまう危険性があるので難しい。とはいえ、ジャズ祭でジェンダーについて語られること自体、日本ではあり得ないことで、時代の変化を感じるものだ。だが、音楽家にとって第一義に問われるべきなのは、音楽そのものである。それを忘れてはいけないと思う。私にとっての理想は男性とか女性、あるいはLGBTというバイアス抜きで、個々の音楽が評価されることなのである。

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横井一江

横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。The Jazz Journalist Association会員。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。海外レポート、ヨーロッパの重鎮達の多くをはじめ、若手までインタビューを数多く手がける。 フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

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