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このディスク2017(国内編)No. 237

#11 『川島誠 / Dialogue』

Text by Akira Saito 齊藤聡

Homosacer Records HMSD-003

Makoto Kawashima 川島誠 (as)

1.Dialogue 19:03

Recorded on June 24, 2017 at Yamanekoken, Ogose, Saitama(埼玉県越生町・山猫軒)
Special Thanks to Toshiko Matsuzaka, Hideo Ikeezumi

川島誠というアルトサックス奏者は、少なからず異質な存在にみえる。

演奏のかたちとしては、ソロ、あるいはデュオが多い。かれのアルトが、さまざまなバンドサウンドの中でひとつの機能を負うことはない。そうではなく、徹底して自己を追及する演奏である。デュオの場合においても、そのことは変わらない。したがって、この作品が「Dialogue」すなわち「対話」と題されていることもなんら不思議ではない。

本盤は、川島がしばしば演奏を行う埼玉県越生町の山猫軒において録音されたソロ演奏である。自然に取り囲まれた山中のハコだという。ここで、かれは、自己の裡にあるなにものかとの対話を行う。覚悟のようなものを抱き、記憶の奥底に沈んだ残滓を手探りで掴んでは、体内とアルトの中で増幅させ、放出する。この音楽化のプロセスは、過去の『HOMOSACER』(2015年)や『浜千鳥』(2016年、西沢直人とのデュオ)、また数は多くはないが毎回のライヴ演奏についても同じにちがいない。しかし、音となって吐き出されたものは、形式上のクリシェがあったとしても、まるで異なっている。

この10月に、川島とともに、故・阿部薫の家を訪れた。いまは阿部のお母様が住んでおられるその部屋の壁には、五海ゆうじにより撮影された阿部薫の写真が飾られている。阿部は多摩川の六郷橋の近くで、アルトを片手に持ち、どこかを見つめている。

現在活動中のインプロアルト奏者の誰もが互いに似ていないように、阿部と川島も、音楽そのものは似ていない。あるとき、私が阿部の演奏について「壁のしみを視ているようなものだ」と否定的に言ったところ、川島は、「いや、壁のしみの向こうがある」と呟いた。多摩川の虚空は「向こう側」だったのかもしれない。そして、川島の「向こう側」は、かれの内奥にあるように感じられてならない。

(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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