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このパフォーマンス2017(国内編)No. 237

#05 Bitches Brew10周年記念コンサート

フォト・ジャーナリスト杉田誠一が主宰するカフェ・バーBitches Brew for hipsters only(横浜・白楽)が10周年を迎え、記念コンサートが2日間にわたって開かれた。店名のBitches Brewはもちろんマイルスのアルバムから取られたものだが、Bthces Brewを堂々と名乗れるのは開店にあたって商標登録をしたから、と聞いた。カフェ・バーと言ってもバーテンダーがいて酒がふるまわれるわけではなく、狭いスペースながらほとんど創造の場と化していた。むしろ狭いが故にパフォーマーとリスナーがひとつの場を共有しながら互いに切磋琢磨し合う、そんな場だったように思う。当初はジャズ中心のプログラミングだったが、まもなくジャンルの垣根が取り払われ、杉田の美意識と見識でキュレートされたパフォーマーが登場するようになった。
紀念コンサートは2日間にわたって行われたが、僕が聴けたのは2日目のマチネー、庄田次郎のニュー・ジャズ・シンジケイトと纐纈雅代のアルトサックス・ソロの2アクトだけだった。庄田次郎と纐纈雅代は親子ほど年齢が違うが、両者ともBitches Brewを象徴する存在で、毎年イン・レジデンスとして5日間にわたってキュレイターを任させる存在だった。下田に住む庄田はその間文字通りカフェに起居していたし、纐纈はBitches Brewに限ってソロを演奏していた。そしてその成果を紀念コンサートで披露した。ふたりのキャリアにとってBitches Brewは特別の存在だったのだ。もちろん。この両者以外にもBthces Brewで定期的にチャレンジングなパフォーマンスを披露していたアーチストはいる。僕が紀念コンサートで聴けたのがこのふたりだけだったというに過ぎない。
艱難辛苦の連続だったろうがある意味で贅沢極まりない10年間の主宰を終えて杉田は後継者にバトンタッチするという。Bithces Brewの次の10年に胸が踊る。

https://jazztokyo.org/column/live-evil/post-20717/

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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