#06 挾間美帆 Miho Hazama m_unit ブルーノート東京
  林 正樹 他 『オーランドー』

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text by Hideo Kanno 神野秀雄
photo by Takuo Sato 佐藤 拓央 (その他、クレジットを写真下に記載)

 

2017年の活躍が目覚ましかった”ジャズ作曲家”挾間美帆に注目したい。ブルーノート東京での13人編成のジャズ室内楽団m_unitをハイライトととしつつ、活動の場を大きく拡げた1年間を追ってみたい。

この他、特筆すべきパフォーマンスとしては、ヴァージニア・ウルフ原作、白井晃演出『オーランドー』において、林正樹(作曲, p)、鈴木広志(sax他)、相川瞳(perc)による舞台上での演奏が美しいテクスチャーと空間を提供し、多部未華子、小日向文世らとともに素晴らしい舞台を創り上げたことを挙げておきたい(概要をこの記事の下に)。音楽はアルバムとしてリリースされる予定。


挾間美帆 Miho Hazama m_unit

2017.10.27 ブルーノート東京 Blue Note Tokyo

挾間美帆(comp, cond)、土井徳浩(as, cl, fl)、庵原良司(ts, ss, cl)、竹村直哉(bs, bcl)、田中充(tp)、林育宏(horn)
真部裕(vn)、沖増菜摘(vn)、吉田篤貴(va)、島津由美(vc)、香取良彦(vib)、佐藤浩一(p)、Sam Anning(b)、Jared Schonig(ds) ※浜松・名古屋では、井上陽介(b)

Dizzy Dizzy Wildflower
Run
Blue Forest
What will You See When You Turn the Next Corner
いま、ここに立って、風を感じるの
Il Paradiso del Blues
Magdalena
All composed by Miho Hazama

挾間美帆は、2016年ダウンビート誌の「25 for the future」、つまり「ジャズの未来を担う25人」にも選ばれているように、マンハッタン音楽院大学院留学を経て、すでに大きく飛躍し、ニューヨークと日本、世界を行き来しながら作編曲家としての卓越した才能と可能性を認められて来たが、2017年は内外でその活動の大きな広がりを見せた。ベストライブに選んだのはその1年間を包括しているので敢えてタイムラインを紹介させていただきたい。

1月25日、ニューヨーク、ジャズ・アット・リンカーン・センター内、ディジーズ・クラブ・コカコーラにおける「m_unit」のデビュー。会場にはマリア・シュナイダーや、ギル・エヴァンス・プロジェクトのライアン・トゥルーデル、山木秀夫の姿も。

4月28日、国際ジャズデイを記念した無料ジャズフェス「Jazz Auditoria」に「挾間美帆plus+」で出演しハービー・ハンコックの『Mayden Voyage』を50周年記念でアルバムまるごと編曲した<The Maiden Voyage Suite>を中心に演奏。

最大のサプライズとなったのは、ルネ・マルタンのプロデュースで東京でも開催されて来た日本最大級のクラシック音楽祭、ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン(LFJ)への出演だった。2月14日「ルネ・マルタンのトークサロン」でLFJ2017の聴きどころを発表した際に、スクリーンにバルトークらとともに挾間の名前が出た瞬間の衝撃は忘れられない。LFJでは、5月4日、シェナ・ウインド・オーケストラとともに、組曲「The DANCE」を初演した。これは3月17日〜18日にニューヨークで、アシュレイ・ボールダー・プロジェクト、ニューヨーク・ジャズ・ハーモニックにより、バレエとビッグバンドで初演された作品の吹奏楽版となる。当日、挾間がシェナのコンポーザー・イン・レジデンスに就任したことが発表された。

東京JAZZも初出演を飾り、「JAZZ100年プロジェクト directed by 挾間美帆 with デンマークラジオ・ビッグバンド featuring リー・コニッツ、日野皓正、山下洋輔、リー・リトナー、コーリー・ヘンリー、トレメ・ブラス・バンド、アモーレ&ルル」として、ジャズレコーディング100周年を祝い、ジャズの名曲を豪華なソリストと演奏したが、挾間流に曲を作り替えるのではなく、意図的にすでにある名編曲や名ライブを活かすことで、歴史と観客の記憶を巧みに繋いでいた。特筆すべきはLFJと東京JAZZに同年両方出演できているのは、小曽根真と挾間美帆しかいないことで、そのジャンルを超える活躍と評価を表している。今後、本家ナントのLFJ出演も期待したいところだ。

ノース・シー・ジャズ・フェスティバルでもお馴染みの名門メトロポール・オーケストラ。そのビッグバンド編成でセロニアス・モンク生誕100周年を記念するプログラムに、挾間が作編曲・指揮で大抜擢され、10月12日〜15日にオランダツアーを行った。2月にはそのライブアルバム『The Monk: Live at Bimhuis』も発売される。

さまざまなイベントや特別コンサートへの出演を果たしながら、2017年のハイライトは、ホームである13人編成のジャズ室内楽団「m_unit」によるブルーノート東京でのライブであり、今回初めて、浜松、名古屋、東京のツアーとなったために、より密度の高い演奏が実現された。この編成は、ストリングスカルテットとホーンアンサンブルにも重点を置き、マイケル・ブレッカー・クインデクテット(共同編曲者にギル・ゴールドスタイン)との関連が想起され、挾間も『Wide Angle』には大きな衝撃を受けたと語っていたし、ギル・ゴールドスタインとの共演も実現している。ただクインデクテットに比べ、”木管”よりもサックス側に重心があり、またトロンボーンがいないことでサウンドは異なる。挾間の音楽を日本で演奏するにあたり、”ニューヨークのミュージシャンでなければ出にくいグルーヴ”を意識せざるを得ないが、そのためドラムスとベースを招聘(浜松・名古屋はニューヨーク帰国組の井上陽介)する一方、ヴァイオリンの真部裕、サックスの庵原良司、ピアノの佐藤浩一をはじめ、挾間の信頼できるミュージシャンが集結し、素晴らしい切れとグルーヴの演奏を聴かせた。その中で挾間が心からリラックスし、ブルーノート東京をホームと感じながら、満席の観客とともに充実した時間を創り出していた。

『Time River』に収録された<Dizzy Dizzy Wildflower>から始まり、シームレスに描き出されて行く挾間の色彩に溢れた音楽。『Journey to Journey』から、故郷・青森を歌い上げる<Blue Forest>では出だしのストリングスアンサンブルにやられるし、新しい局面に挑むイメージの<What will You See When You Turn the Next Corner>の軽快な展開はまさに2017年の挾間につながる。アルバム未収録の<Run>、<いま、ここに立って、風を感じるの>、<Il Paradiso del Blues>が披露され、『Time River』から<Magdalena>で大きく盛り上がり締め括った。

こうして聴いて行くと、マリア・シュナイダーのサウンドが繊細に壮大に広がって行く感覚に比べて、挾間も広がる豊かなイメージはもちろんだが、高度な曲想・アレンジの中にあっても、ジャズの100年以上持ち続けて来た躍動感やグルーヴを常に強力に保ち続けるところに持ち味があり、いやそれはジャズに限らずバッハやモーツァルトの真髄でもあるけれど、音楽の歓びがダイレクトに伝わり、それがニューヨークで、世界でオンリーワンとして評価されるところだと気付く。

即興性と言う議論をさておいても、ジャズの創って来たグルーヴと世界観をクラシックオーケストラのフォーマットで本質的に演奏できる作品は、<ラプソディ・イン・ブルー>とレナード・バーンスタインを別格として未だ存在せず、デューク・エリントンもマリア・シュナイダーでも実現できていない。過大な期待をさせてもらえば、挾間はそこに少しづつでも近づいて行ける特別な作曲家ではないかと思っているし、それは遠い目標としても、2018年にどんな新しい音を生み出すのか、どんな出会いがあるのか、活躍を楽しみにしている。


KAAT×PARCOプロデュース「オーランドー」(音楽:林正樹)

神奈川芸術劇場(KAAT) 9月23日〜10月9日、
東京国立劇場 中劇場 10 月26日〜29日
まつもと市民芸術館10月18日
兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール 10月21日〜22日

演出:白井晃
原作:ヴァージニア・ウルフ、翻案・脚本:サラ・ルール、翻訳:小田島恒志 小田島則子
出演:多部未華子、小芝風花、戸次重幸、池田鉄洋、野間口徹、小日向文世
演奏:林正樹(作曲、p他)、相川瞳(perc他)、鈴木広志(sax他)
音響:佐藤日出夫 、美術:松井るみ、照明:高見和義、衣裳:伊藤佐智子、ヘアメイク:川端富生
振付:スズキ拓朗、映像:宮永亮、栗山聡之、歌唱指導:満田恵子、 舞台監督:福澤諭志、演出助手 : 河合範子
プロダクション・マネージャー:安田武司(KAAT)、宣伝:る ひまわり 、制作:三宅 彰(PARCO)
プロデューサー:田中希世子(PARCO)/石井宏美(KAAT) 、企画製作:KAAT神奈川芸術劇場/株式会社パルコ


【関連リンク】
挾間美帆 公式ウェブサイト
http://www.jamrice.co.jp/miho/
ブルーノート東京 挾間美帆 m_unit
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/miho-hazama/
挾間美帆 m_unit at Dizzy’s Club Coca Cola, 1/25
http://www.jazz.org/dizzys/events/174288/miho-hazama-and-m-unit/
Jazz Auditoria 4/28
http://jazzauditoria.com
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 2017 #142 5/4
https://www.lfj.jp/lfj_2017/performance/timetable/detail/142_modal.html
東京JAZZ 2017 「JAZZ100年プロジェクト directed by 挾間美帆 with デンマーク・ラジオ・ビッグバンド featuring リー・コニッツ、日野皓正、山下洋輔、リー・リトナー、コーリー・ヘンリー、トレメ・ブラス・バンド、アモーレ&ルル」 9/3
http://www.tokyo-jazz.com/jp/program/program_hall0903d.html
Metropole Orchstra Big Band Plays Monk directed by Miho Hazama, 10/12-15
https://www.mo.nl/en/agenda/2017-en/mo-big-band-plays-monk

KAAT×PARCOプロデュース「オーランドー」(音楽:林正樹)
http://www.parco-play.com/web/play/orlando/
http://www.kaat.jp/d/orlando_kaat
林正樹 公式ウェブサイト
http://www.c-a-s-net.co.jp/masaki/
鈴木広志 公式ウェブサイト
http://suzuki-hiroshi.com/
相川瞳 公式ブログ
https://ameblo.jp/do-rry/

【JT関連リンク】
林正樹Pendulum
http://www.archive.jazztokyo.org/best_cd_2015a/best_cd_2015_local_05.html
大友良英 with あまちゃんスペシャルビッグバンド~アンサンブルズ・パレード・プレ・コンサート
(鈴木広志、相川瞳が参加)
http://www.archive.jazztokyo.org/live_report/report542.html

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。東京JAZZ 2014で、マイク・スターン、ランディ・ブレッカーとの”共演”を果たしたらしい。

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