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Jazz and Far Beyond

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GalleryNo. 222

#34 『JAZZ』1969.6  創刊号

一九六九年五月二五日発行 創刊号

発行所 Jazz People
編集人 杉田誠一
発行人 石上拓麿
定価  200円

 

本誌で連載が100回を目前に控えるフォト・ジャーナリスト杉田誠一が1969年6月に立ち上げた月刊「JAZZ」創刊号。月刊「JAZZ」、知る人ぞ知る、今やレジェンダリーな存在ではある。

創刊号の表紙は故富樫雅彦、ネガを反転使用したと思われる杉田の思い入れ横溢する写真。続く巻頭写真は杉田の師匠・故朝倉俊博撮影の吉沢元治。さらに本文に朝倉による沖至と高木元輝。当時の杉田の大いなる関心の所在の証である。杉田はイントロダクションで創刊の意図を「われわれは、われわれとジャズとの距離を直視しつつも、ジャズを芸術ジャンルの一つと規定し、同時にジャズ・ジャンル・プロパーのみに固執する閉鎖的思考を打破し、ジャズに巣食っている主体性欠落のジャズ・ジャーナリズムと決別することからスタートさせた」と高らかに謳い上げている。「ジャズ・ジャンル・プロパーのみに固執」しないことは我がJazz Tokyoのモットーとする「jazz and far beyond」と志を同じくするものである。杉田はさらに10pに及ぶ高木元輝に関する一大論文を発表、加えて7pにわたる高木へのインタヴューを掲載した上に、高木作曲4曲のメロ譜で締めるなど、高木への入れ込み方は尋常ではない。反対に、表紙に登場させた富樫をカバーストーリーでフォローしないというのも尋常ではない。

他には、「JAZZ」誌創刊の5年前1964年に設立されたESP diskへの目配りも充分で、6pにわたるMovement Soulの翻訳紹介、New York Art Quartet、ファラオ・サンダース、アルバート・アイラー盤のディスク・レヴュー、当時ESP diskの日本のディストリビュータであった日本ビクターの広告(レコード会社としては1社のみ)でまとめた。

他に、書評(リロイ・ジョーンズ『ブルースの魂』、ライヴ・レポート(ジョージ大塚、日野皓正、学生バンド)、マンガ評など一通りのメニューは揃えているが、何れにしても杉田誠一が個人のリスクで立ち上げた雑誌だけに、杉田の体臭が隅々まで染み込んでおり、それが読者を選ぶことになるのだろう。

何れにしても、東大安田講堂封鎖が象徴する学生運動華やかなりし1969年(昭和44年)にジャズの定期刊行誌を創刊した杉田誠一の英断は高く評価されて然るべきだろう。
杉田は30年後の1999年11月に出資者を得て月刊のジャズ誌「out there」を創刊するが、こちらは編集部の内部分裂が原因で創刊号を刊行したのち、編集長の座を降りることになる。(稲岡邦弥)

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稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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