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Interviews~No. 201

# 115 岡部源蔵 Genzo Okabe (サックス奏者/作曲家)

東京都出身。20才の時に渡欧、イタリアのペルージャ国立音楽院にてクラシック・サックスを学んだ後オランダに渡りハーグ王立音楽院にてジャズ・サックス科を卒業。ハーグに居住し、自身がリーダーとして作曲・アレンジをすべて手掛けるカルテット「オカベファミリー」(Okabe Family)を中心に、様々な分野で活動を行っている。今年3月、デビュー・アルバム『Okabe Family』をオランダOAP Records社からリリース。
http://www.genzookabe.com/

Interviewed by Kenny Inaoka via e-mails, May, 2013
Photo:Courtesy of Genzo Okabe
Portrait:Diablo Azul

♪ デビューCDはすべての人に楽しんでもらいたい

Jazz Tokyo(JT):アルバム『Okabe Family』のコンセプト、狙いは?

岡部:作曲を手がけ始めたのはイタリアに住んでいた頃で、自分なりにジャズを表現したいというのがきっかけでした。普段ジャズ若しくは音楽を聴かない方から専門家やミュージシャンなどすべての人に楽しんでもらいたい、というのが全体のコンセプトとしてあります。

JT:メンバーの国籍がマルチ・ナショナルですが意図的ですか?

岡部:オランダに移住したのは経済的にも文化的にもヨーロッパの中心にあり世界中から様々な人が集まる場所であるのが一つの理由でした。音楽院もイギリスを除いては唯一授業のすべてが英語ですし、他のヨーロッパの国々に比べて自国の言葉を話せない人にもそれほど厳しくないのが現状です。メンバーの選択は自分の音楽に合った人たちを自然なかたちでしました

JT:どのような経緯で4人が集まりましたか?

岡部:メンバー全員がハーグに在住していて、ピアノのミゲル以外は同じハーグ音楽院に在籍していたのがきっかけとなりました。ドラマーのフランチェスコがミゲルのバンドで演奏していたのが縁でミゲルと知り合いました。

JT:それぞれのメンバーについて簡単に説明して下さい。

岡部:ピアノのミゲル・ロドリゲスはマドリッド出身のスペイン人で、オランダではとても評判の良いピアニストとしてBenjamin Herman(アルト)などと共演しています。彼も最近スペイン人ならではのフラメンコ・ジャズ中心のCDをリリースしたばかりで、バンドリーダーとしても活躍しています。(www.miguelrodriguezmusic.com) ベースのスティーブ・ズワニンクはカナダ出身で父親はオランダ人。彼も若手の中で頭角を現し、Martijn van Iterson(ギター)やJasper Blom(テナー)などと共演しています。 ドラムのフランチェスコ・デ・ルベイスはイタリアにいた頃から一緒に活動していて、イタリアでも「カポリネア」というファンク・ロックバンドで2枚CDをリリースした仲です。

JT:グループ結成4年目ということですが、ライヴの頻度は?

岡部:まだオランダ在住5年目で知名度はそれほど高くないですが、ハーグ近郊ではほぼ全てのクラブで演奏しました。CD発売をきっかけにこれからは他の都市やヨーロッパ中を周れればいいと思っています。

JT:アルバムに収録されている曲は、ライヴで何度も演奏していますか?

岡部:最後の2曲はレコーディング直前に書いたものでまだライヴで演奏したことはないですが、それ以外は普段演奏しています。できるだけカバーはやらないようにしているので。

JT:いつも岡部さんのオリジナル曲をしているのですか?

岡部:特別な機会がない限りは今までどおり自分が作曲・編曲を担当するつもりです。

 

♪ CDでは予定通りのイメージが具現できた

JT:各曲についてtime(拍子)を含めて簡単に説明願います。

岡部:1曲目の<スカラムーシュ>(4/4拍子)はフランスの作曲家ダリウス・ミヨーの同タイトルから取ったもので、メロディーも少しだけ拝借しました。チック・コリアの”Three Quartet”のようなモーダルな雰囲気、クラシック・ハーモニーのパロディーのようなもの、ソロの前のラテンなど色々な要素が凝縮されてます。 2曲目の<ブラック・ポープ>はコルトレーンの”A Love Supreme”をイメージしたサスコードを駆使した曲です。(9/8拍子)メロディーはデジタル音楽のようなループとクラスターを意識しました。 3曲目の<エイシスト>はリズム遊びのようなものです。(12/8拍子) 4曲目の<アメダス>は雨が降るようなエフェクトをピアノに弾かせたバラードです。エンディングはお解りだと思いますがマイルスの”Walkin'”を引用してます。(7/4拍子-6/4拍子) 5曲目の<ブロークン>は3拍子と4拍子を行き来するような曲調です。12ある16分音符を3で割るか4で割るかの違いです。 6曲目の<イエロー・アンド・レッド・ジャケッツ>はその名のとおりYellow Jacketsを意識して作りました。4/4拍子と4/3拍子を混ぜています。因みに黄色と赤はセリエAのサッカーチームで自分が熱狂的にサポートするA.S.Romaのチームカラーです。 7曲目の<キャント・スタンジャ>はちょっとファンキーなリズムチェンジで 8曲目の<赤とんぼ>は前半のメロディーと後半のクライマックスが対照的になるように心掛けました。

JT:今回のアルバムの出来には満足していますか?

岡部:自分が満足しない限りメンバーにさえ曲を聴かせる事はないので、録音する前にすでにどういう内容になるか大概の想像はついていましたが、ジャズの醍醐味であるインプロヴィゼーションの部分でメンバーが皆とてもいい演奏をしてくれました。パフォーマンスの良い悪いも大事ですが、それよりもエネルギーを溜めテンションを高めてそれを放出するというイメージが具現できたと思っています。

JT:OAPというのはどういうレーベルですか?

岡部:オランダ・ハーグで主にジャズやワールドミュージックを扱うレーベルで、サウンドエンジニアーのバリー・オルトフ氏がプロデューサです。

 

♪20才の時にあこがれのイタリアに留学した

JT:日本からヨーロッパへ出た理由は?

岡部:もともとイタリアに憧れていて、日本でも中退しましたが大学でイタリア語を専攻していました。イタリア語を理解するにはイタリアに行ったほうが早いと思って20歳のときに留学することに決めました。

JT:イタリアのペルージアの音楽学校を選んだ理由は?

岡部:9年間ローマに住んでいましたが、ローマ音楽院は年度によっては生徒募集がないこともあり、サックス科の生徒数の多いペルージャに行く事に決めました。

JT:ペルージアで専攻した内容は?

岡部:クラシック・サックスです。

JT:デン・ハーグの学校を選んだ理由は?

岡部:先述のとおり、ヨーロッパ内でイギリスを除き唯一レッスンが全て英語で行われるのがオランダで、特にハーグは伝統的にジャズが愛されている都市だったからです。

JT:ハーグ音楽院で専攻した内容は?

岡部:ジャズ・サックスです。

JT:クラシックからジャズに移行した理由は?

岡部:もともとジャズをやりたかったのですがイタリアでは当時音楽院にジャズ科がなかったのです 。

JT:自身の楽曲にクラシックで学んだことが反映されていると思いますか?

ものすごく影響を受けました。特に和声やアレンジ能力にそれが現れていると思います。

JT:日本製のカスタム・メイドのリードを使用しているようですが?

岡部:いえ、現在はリコーのジャズ・セレクト・ミディアムハードを使っています。
マウスピースは日本の職人後藤氏によるゴッツマウスピース・セピアトーンVIを使用してます 。

JT:デン・ハーグあるいはオランダのジャズ・シーンの状況は?

岡部:ハーグにはオランダのトッププレイヤーがたくさん住んでいて、ジャムセッションなどで超大物に会うことも頻繁にあります。
オランダのジャズ・シーンはトラディショナルかコマーシャルなものが多く、オリジナルでもいわゆるヨーロッパ系の内省的なジャズが主流です

JT:今後もヨーロッパを中心に活動を展開していく予定ですか?

岡部:ヨーロッパは生活にゆとりがあるので自分の性格に合っていると思います。
日本でも1年に何度か一時帰国して活動してみたいです 。

 

♪高校に入った頃からジャズや電子音楽を聴き出した

JT:音楽環境に恵まれた家庭でしたか?

岡部:両親とも教育者だったので音楽環境というより単純に環境に恵まれていたと思います。

JT:いつ頃から音楽を意識して聞き出しましたか?

岡部:高校に入った頃から自分でジャズや電子音楽のCDを買うようになりました。

JT:楽器は何をいつ頃から?

岡部:5歳くらいから母親の真似でピアノを弾くようになり、大学に入るまでレッスンに通っていました。サックスは高校に入ってから始めました。

JT:どのようなクラシックあるいはジャズを聴いていましたか?

岡部:日本の大学に通っていた頃はジャズ研に所属していたのでビバップやハードバップを中心にCDを買い漁っていました。
イタリアの音楽学校に通っていた頃はフュージョン系のもの、音楽院に入ってからはクラシックに没頭し教会音楽から現代音楽まで様々なものを絶えず聴いていました。

♪今現在のアイドルはプエルトリコのミゲル・ゼノン

JT:アイドルとしていたジャズ・ミュージシャンは?

岡部:やはりアルトの人たちが主で、パーカー、キャノンボール、ケニー・ギャレットがアイドルと言えます。マイルス、トレーンとハービー・ハンコックにはとても影響を受けました。ハーグ音楽院ではソニー・スティットとジョニー・ホッジスを研究したりしました。今現在のアイドルはプエルトリコ出身のミゲル・ゼノンです。

JT:渡欧後、日本の音楽シーンはどのように見えていますか?

岡部:イタリア在住時は日本の事を完全に忘れ、年に一度実家に帰る以外に日本語を話す事がないほどでした。Youtubeなどで日本のジャズを検索すると知名度と実力が合ってないひとがたくさんいるな、という印象を受けましたが、やっと去年2ヶ月ほど一時帰国した際若手からベテランまでとても優れたミュージシャンと演奏する事ができ、レベル自体はとっても上がっていると思いました。

JT:アメリカ、とくにNYのジャズ・シーンは?

岡部:別次元ですね。質にしろエネルギーにしろビジネスとしても学ぶ事だらけです。
やはり本場といった感じです。いつか向こうでも演奏できるように頑張ります。

JT:とくに共演してみたいミュージシャンはいますか?

岡部:自分のバンドにはアイデンティティーがあるのでそれを無理に変えようというつもりはないですが、サックス奏者としてはできるだけ多くの人と共演したいです。あと何枚か「オカベファミリー」としてCDをリリースした後は他のジャンルにも挑戦してみたいです。特に電子音楽は若い頃からずっと聴いているので是非何かやってみたいです。

JT:今後の活動の予定は?

今スウィング以前のジャズを研究中で、どう自分の音楽と結びつけるかを考えています。曲がそろったらまたスタジオに入ってレコーディングをするつもりです。

JT:最後に、夢も語って下さい

岡部:できるだけ多くの人に自分の音楽を伝えたいです。
音楽を通じて世界を周って色々な出会いがあれば良いと思います。

 

*初出:Jazz Tokyo #186       2013年5月31日

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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