#162 来日直前インタビュー:クリス・ピッツィオコス Chris Pitsiokos

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Interview: クリス・ピッツィオコス Chris Pitsiokos
Interviewed via email Aug. 7th – 23rd, 2017
Questionnaire by 剛田武 Takeshi Goda & 齊藤聡 Akira Saito
Translation by Yoko 剛田武 Takeshi Goda
Photos by 齊藤聡 Akira Saito(March 2015 New York)

 

クリス・ピッツィオコス Chris Pitsiokos (as, etc.)

1990年ニューヨーク生まれ。高校時代にクラッシック・サックスの第一人者フレデリック・ヘムケに師事し高度な演奏テクニックを身につけ、コロンビア大学時代に前衛ジャズと電子音楽に傾倒。2012年大学卒業と同時にブルックリンの即興シーンに登場。ノイズと同質のノンブレス奏法の高速タンギングで数多くの前衛ミュージシャンと対等に渡り合い、ソロ、デュオ、トリオで完全即興作品をリリース。一方では様々な音楽要素を融合し既存の枠組に捕われない作曲能力を発揮、「Chris Pitsiokos Quartet」「Chris Pitsiokos Trio」「CP Unit」といったリーダー・グループを率いて、作曲と即興、そしてジャンルの境界を超えた新たな音楽領域に挑戦している。2016年11月にはジョン・ゾーンが経営するニューヨークの伝説的ライヴハウス“The Stone”で1週間のレジデンシー・コンサートを行った。活動範囲はアメリカに留まらず、2度に亘るヨーロッパ・ツアーで現地のミュージシャンと共演している。

Chris Pitsiokos .com

Chris Pitsiokos bandcamp

2012年ニューヨーク・ブルックリンの即興音楽シーンに彗星のように登場したクリス・ピッツィオコスの初の単独来日ツアーがまもなくスタートする。さらに10月10日リリースの、巻上公一率いる曲者バンド、ヒカシューの新作『あんぐり』にゲスト参加したという驚きのニュースも。アメリカのみならず、ヨーロッパのミュージシャンとも共演し、徐々に世界的に注目を浴びつつあるピッツィオコスだが、その一方で、今年の春頃突然フェイスブックやツイッターのアカウントを閉鎖し、SNS経由の情報発信を辞めてしまった。以前掲載したJazz Right Nowのシスコ・ブラッドレーによるインタビューから3年が経ち、ピッツィオコスを取り巻く環境や彼の活動精神はどう変わったのだろうか。来日直前のピッツィオコスにEメールによるインタビューを行った。


●これまでの活動について

JazzTokyo(以下JT):あなたが2012年にブルックリンの即興音楽シーンに 登場してから5年が経ちました。あなた自身の意識はどう変わりましたか。

Chris Pitsiokos (以下CP):僕の美学は大幅に変化しましたが、芸術的目標はそれに比べて一貫しています。僕は本質的にアナルコ・ロマンチック(無政府主義の空想家)なのです。 芸術家は強烈な内省と直観を通して普遍性を得ることができると信じています。その意味で、個人と普遍(宇宙)はほぼ同じものだと信じています(現在の人類学や社会学、アイデンティティ・ポリティクス(*)に憑りつかれた左翼政治学の傾向を考えると、これは支持を得られないスタンスですが)。

グループ演奏に於いては、楽曲には、それぞれの演奏者が独自の音楽話法を最大限に表現できる自由度が無ければなりません(これは無政府主義的立場です)。こうして、各演奏者が自立し、音楽を通して個人と普遍(宇宙)に対する自分自身の解釈を表現することを求められるのです。もし1人のパフォーマーがこれに失敗すると、全部失敗することもあります。これが過去5年間の僕の基本的な目標であり、これからも目標であり続けると思います。

【訳注】アイデンティティ・ポリティクス(identity politics)
主に社会的不公正の犠牲になっているジェンダー、人種、民族、性的指向、障害などの特定のアイデンティティに基づく集団の利益を代弁して行う政治活動

JT:ニューヨークの音楽シーンの変化は感じますか。

CP:現実に対して常に楽観的であり続けることは簡単ではありません。悲惨な憤りや自己憐憫に浸るより、楽観的になる方が望ましいのですが、正直言って現時点でニューヨークが本当に何をするべきかを見極めるのがとても困難になっています。若い世代、つまり僕の同世代のメンバーの多くは擦り減っていく一方です。日常の仕事や数多くのギグやツアーで忙し過ぎて、考えたり、進歩したり、成長したり、挑戦したりする時間がほとんどないからです。実務面では、1回のリハーサルを行うために、数週間かけて数十回ものEメールのやりとりが必要な場合もあります。

草の根的な会場はほとんど無くなってしまいました。“Roulette”、“Issue Project Room”、“The Stone”といった会場は営業を続けていますが、そこは物事が生まれ、物事が成長し、若い世代が新しいことに挑戦できるような場所ではありません。完成したプロジェクトを発表する為に年に1回か2回ライヴを開催する会場です。本当の創造的活動はアンダーグラウンドで行われる必要がありますが、僕が知る限り、アンダーグラウンドはすっかりなくなってしまいました。ライヴに来る観客もいなくなりつつあります。なぜこんなことが起こったのでしょうか?

この問題についての僕の考えをすべて書き記すと一冊の本になってしまいそうですが、ここでは推測をいくつか話しましょう。ソーシャル・メディア、ネットフリックス(動画配信サービス)、中産階級の消滅、音楽ストリーミング・サービス、食品配送サービス、不動産価格の上昇、冷笑、虚栄心 、インターネットの魔女狩り ― これらはすべて、成されるべきで未だ成されていない本当の創造的活動への目くらましです。その多くはお互いに関連しています。例えば、ソーシャル・メディアは虚栄心や自己中心主義や冷笑主義を助長していると思います。現実の創造的活動に集中できないので、僕はそれらについてできるだけ考えないようにしていますが、それに頼らなければ処理できない実務的な問題があるのも事実です。何とかしなければなりません。

JT:宜しければ、過去5年間に失われた草の根/アンダーグラウンドの会場を教えてください。

CP:“Freedom Garden”は毎週ライヴが行われる地下室の会場でした。僕は何度もライヴをして、2枚のアルバム『Unplanned Obsolescence』と『Maximalism』をレコーディングしました。

“Death By Audio”ではほぼ毎日ライヴがあり、インディー・ロック、ノイズロックからノイズ、フリー・ジャズまで数多くのバンドのホームベースでした。Vice Magazineに買収されて無くなってしまったとき、取り返しようのない大きな穴が空きました。

約1年の間、お互いに徒歩10分の距離にある“Muchmore’s”、“Manhattan Inn”、“Rye”の3つの会場で、定期的に新しい音楽シリーズを開催していました。僕が“Muchmore’s”で、ジェイミー・ブランチとブランドン・ロペスが“Manhattan Inn” で、そしてサム・ウェインバーグが(他のアーティストと共に)“Rye”で、それぞれライヴを企画していました。各シリーズの正確な目標は微妙に異なっていましたが、大部分が重なり合っていました。しかし、これらの3つの場所は、それぞれの理由で、もはや新しい音楽をやっていません。すべて同じ時期に終りを迎えたのです。そして、今ではたるみを引き締め、活を入れる場所はほとんどありません。

JT:今年の6,7月にソロやCP Unitでヨーロッパをツアーしましたが、ヨーロッパの音楽シーンをどう思いますか?

CP:複雑な感情を抱いています。確かに、ヨーロッパには素晴らしいミュージシャンがいて、エキサイティングな活動をしています。しかし、全体的にシーンは保守的だと感じます。そこで「アウト(外)」、「前衛」、「実験」と見做されているものは、実際にはそうではないのです。フリー・インプロヴィゼーションは、現在では歴史的なイディオムです。何の革新性も加えず敬虔な方法でそれを実践する人たちは、クラシック音楽や歴史的スタイルの音楽に多くいます。古いイディオムを演奏する人に対して文句はありませんが、人々がそういう歴史的な音楽を「新しい音楽(New Music)」と呼ぶようになると問題が生じます。なぜなら、新しい音楽が生まれる余地が狭められ、新しさを装ったものに締め出されてしまうからです。

例を挙げましょう。コペンハーゲンを拠点に数多くのコンサート組織に携わっている著名なミュージシャン(名前は伏せます)から、コペンハーゲンでアンダーグラウンド・ミュージック・シーンが育っていると聞きました。それは素晴らしいことです、ただ一つの問題を除いては。コペンハーゲンでアンダーグラウンド・ミュージック・シーンと呼ばれているのは、実際には70年代スタイルのロフト・ジャズと80年代初めのニューヨーク・ダウンタウンの即興音楽なのです(おそらく70年代の英国即興音楽の影響も少なからずあるでしょう)。これは大問題です。なぜなら彼ら“ジャズ通”は自分で作ったケーキを自分で食べている-つまり、実際は既存の確立されたイディオムで活動しているのに、新しいことをしていると評価され、さらにその活動に対して政府からお金を受け取っているのですから。

以前も言いましたが、もう一度言わせてもらいます:何かが新しいとか、前衛的とか、実験的とか呼ばれるや否や、それは即ち新奇性、前衛性、そして実験性の終わりを意味するのです。ニューヨークでも同じことが起こっていますが、おそらくヨーロッパほど進んではいません。

もう一つはヨーロッパの基金の問題です。政府基金による芸術には問題があります。それは定義上アウトサイダーでもアンダーグラウンドでもありません。誰かのために働いて、相手から支払を受ける場合、あなたは相手の利益に奉仕していることになります。そうでなければ彼らがお金を支払う理由がありません。政府から小切手を受け取っておきながら、自分自身をアンダーグラウンド・アーティストと呼ぶことはできません。
まだ話し足りませんが、これくらいでやめておきましょう。

CP Unit – at The Stone, NYC – November 26 2016

 

●自分のグループについて

JT:Chris Pitsiokos QuartetとCP Unit、両方ともギタリストが参加していますが、どのような意図があるのでしょうか?

CP:ギター自体が本質的に重要な訳ではありませんが、僕の作曲的な野望を実現するには、少なくとも4つの楽器が必要だと感じています。僕の音楽の多くは、2組のユニゾンに2つのパートの対位法を伴っており、最小限4つの楽器でのみ実現可能なのです。

JT:オーネット・コールマンのプライム・タイムを思わせる所謂「フリー・ファンク」の要素を感じますが、オーネットのハーモロディック理論を意識していますか?

CP:まさにその通りです。ここ数年、オーネット・コールマンのプライム・タイムのバンド演奏、特にライヴ・パフォーマンスでのアプローチ方法が、僕のグループ音楽に大きな影響を与えてきました。YouTubeのケルン・スタッドガルテンでのライヴ・パフォーマンスは本当に素晴らしいです。とりわけ、それぞれの演奏者が独自の音楽語法で自主性を保ったまま、一堂に集まってコレクティヴ・ミュージックを創り出すことは、たいへん難しい挑戦です。その点でプライム・タイムと同じレベルの完成度を成し得たグループはほとんどいません。

ハーモロディック理論については、コールマン氏によっていくつかの方法が記述されています。Atlanticのボックス・セット(*)の解説書でひとつの方法を語り、『ダンシング・イン・ユア・ヘッド』のLPジャケットの裏に別の形で書いています。また、インタビューでも語っています。必ずしも一貫しているわけではありませんが、ハーモロディック理論について彼が言わずにいられなかったことは、常にインスピレーションを与えてくれます。

【訳注】Atlanticのボックス・セット
『Ornette Coleman / Beauty Is A Rare Thing: The Complete Atlantic Recordings』6CD Box Set (1993 / Rhino Records R2 71410)

Ornette Coleman & Prime Time feat Jamaaladeen Tacuma – Cologne 1987

JT:一方で80年代No Waveや90年代のジョン・ゾーンの影響は?

CP:ジョン・ゾーンは私に大きなインスピレーションを与えてくれます。彼は異なるコミュニティの影響や人々を集めて同じステージに乗せる才能を持っています。同じことをすべきだと口にする人はたくさんいますが、実際に行う人はほとんどいません。障壁を壊すとか、ジャンルの境界を曖昧にするとか、様々な議論がなされますが、ジャーナリストがこれについて語るときは、たいていまったくの“戯言”です。ゾーンは実際にその作業を実行している数少ないミュージシャンの一人です。僕は大いに勇気づけられます。

JT:1980・90年代のNYシーンについての見方、そして現在のNYシーンへの影響について。

CP:80・90年代と現在にははっきりとした繋がりがありますが、不幸なことに、当時のミュージシャンの活動精神を引き継ぐのではなく、スタイルをコピーすることを重視した系譜だと思います。言い換えれば、音楽のスタイルは同じように聴こえるかもしれませんが、発明・実験精神はほとんど失われているのです。

僕は幸運なことに、70年代後半のスタジオ・ヘンリーやスタジオ・リヴビー、90年代初めのニッティング・ファクトリーなどのプライベート録音をたくさん聴きました。ニューヨークの70年代後半の即興音楽の多くは、今行われている何よりもずっと進歩的で面白いです。今の即興音楽の大部分は、せいぜい、その頃のものを忠実に再現しているだけで、広い視点で見たらほとんど進化していません。 ティム・ダール、ヘンリー・フレイザー、ネイト・ウーリー、C・スペンサー・イー、フィリップ・ホワイトなど、素晴らしい活動で新たな地平を切り開いているミュージシャンはもちろんいますが、全体としては新しいことが起こっているとは思えません。一般的にニューヨークは、好みに於いてかなり保守的だと思います。僕が知っている最高のアメリカ音楽のいくつかは、全米ツアー中に行き当たりばったりで訪れた小さい町の、あまり知られていないミュージシャンが演奏している音楽です。

テキサス州デントンで何が起きているのかを―基本的にリック・アイ (*)が関係しているプロジェクトなら何でも―チェックするようお勧めします。インターネットで情報にアクセスし易くなったことにより、今ではいくつかの小さな町が、風変わりな音楽の要塞になっています。多くの点で、テキサス州デントン発信のものは、ニューヨーク発信のものよりも新鮮です。また、ブエノスアイレスでも本当にクールなことが起こっているようです。

【訳注】リック・アイ Rick Eye:
テキサス州デントン出身のマルチミュージシャン(g, b, synth, ds, vo, etc.)。2013年頃からBukkake Moms、Problem DOGG 、Flesh Narcなど数多くのバンドに参加し、Noise, No Wave, Experimentalシーンで活動する。

JT:リック・アイのバンドBukkake Momsのことは聴いたことがあります。彼らがやっている音楽は、ニューヨークのような大都市の音楽よりプリミティヴで、ローファイで、調子外れで、No Wave的だと感じます。それは60年代後期にアメリカ全土のローカル・シーンで起こった“ガレージ・パンク”を思わせますが、いかがでしょうか。

CP:確かにニューヨークにもノイズロックやローファイのシーンがありますが、全般的にデントンで起こっているほど興味深いものはありません。表面的なジャンルに基づいて音楽を分類することに、僕はまったく関心がありません。春に一緒にツアーをしたBukkake MomsやGay Cum Daddiesの興味深い点は、情報の密度の濃さと、同時に共通の目標に向かって自己表現していく複数の音楽的人格の強烈な存在感と、本当に新奇なものを創り出そうとする演奏者たちの献身性です。これは、膨大な作業が集団的に行われた場合にのみ現実に創り出せるのです。音楽とは滑らかで耳当たりがよいものではありません。音楽とは、有機的で、生々しく、カタルシス的で、決して妥協しないものです。

Bukkake Moms – Last song at their last show.

 

●ソロ活動について

JT:最新ソロ・アルバム『Valentine’s Day』の「Four Alto(dedicated to Anthony Braxton)」で聴ける一人多重奏は何にインスパイアされたのですか?

CP:僕は“差音”(difference tones)に興味を持っています。これは、2つの周波数の音が音響空間で相互作用して第3のトーンを作り出す現象です。僕のサックス・ソロ演奏で、あなたに聴こえる羽ばたきのような音は、差音によって引き起こされます。複数のサックスがオーバーダビングされると、効果はさらにはっきりします。

JT:「Four Alto」を含めて『Valentine’s Day』は、1stソロ・アルバム『Oblivion/Ecstasy』に比べて、よりメロディアス、アンビエント、ドローン、静謐な作品です。そのようなスタイルに変遷した意図と動機は?

CP:たぶん人生の中で今僕がいる場所を示しているに過ぎません。自分自身が旋律主義や宇宙や平和などにどんどん惹き寄せられていくのを感じています。最近、ニール・ヤングとボブ・ディランをたくさん聴いています。

JT:収録曲の「Kettle of Birds」などには、フレッド・ヘムケ先生に師事したクラシック・サックス奏法の経験が反映されているように思います。それを活かそうという考えはありましたか?

CP:僕は音楽を書いたり演奏したりするとき、内側から作業します。外側から取り入れるのではありません。言い換えれば、生の素材から始めて、直感的な方法でそこから何かを創り出すのです。物事がどこから来るか考えることは殆どありません。マクロ・フォームについて考えることは殆どありません。ジャンルのことは考えません。私はコンセプチュアリスト(概念至上主義者)ではありません。そういう意味で、僕の意図は、自分の独自の語法を表現し、他人もそう出来るように促すシステムを創ること以外にありません。

Chris Pitsiokos solo @ The Stone 11-25-16 1/3

 

●コラボレーションについて

JT:他の人のリーダー・グループに参加する際の意識は?

CP:僕はあまりサイドマンの活動はしていません。ネイト・ウーリーの場合は、僕のヒーローの一人であり、彼の音楽の方向性に満足できると信頼しているから参加したのです。誰かにライヴ演奏に雇われた場合、単なるサックス奏者ではなく、クリス・ピッツィオコスというアーティストを望むならば、僕はそれに報いるつもりです。望むのがアーティストではなく、上手なサックス奏者なら誰でもいいのだと感じたり、彼ら自身のヴィジョンを押し付けたいだけだと思ったら、興味を持ちません。

JT:ネイト・ウーリーの『Knknighgh(ナイフ)』には、伝統的なフリー・ジャズ・カルテットを更新するというネイトの意図がありましたが、あなたもそれに共感しますか?そうだとしたら、カルテットに限らず、伝統的なフリー・ジャズだと思うアーティストを教えてください。

CP: 『Knknighgh』に関して興味深いのは、相互作用のモードです。 詳しくは触れませんが、基本的に演奏者の誰でも作品のマクロ・フォームの決定に貢献できるのです。言い換えれば、私やブランドン・ロペス(b)やドレ・ホチェヴァー(ds)などサイドマンに、リアルタイムで音楽の正式な決定を下す権限を与えるのです。このようにして、通常の作曲者と演奏者の関係を覆すこと。それは作曲家としての私の目標にピッタリ合致しています。ネイトと僕は、二人だけのプライベートな会話と、公開インタビューやその他の出版物(これから出るジョン・ゾーンの著書『Arcana VIII』の記事を参照のこと)の両方で、このテーマについて幅広く話し合いました。彼が言う“伝統的なジャズ・カルテットの更新”が何を意味するのか、僕には正確には分かりませんが、個人的には古い形式の音楽を更新する必要はないと思います。フリー・ジャズという言葉は好きではありません(オーネット・コールマンも好きではありませんでした)。

JT:Cutout Loverで共演したペイジ・ジョンソン=ブラウンや、リディア・ランチなど、ヴォーカリストとのコラボレーションについては?

CP:ヴォーカリストと共演する際の僕のアプローチは相手によって異なります。ペイジとコラボしたときは、表現スタイルについて多少の音楽的方向性を示しますが、歌詞の内容については何も指示をしませんでした。ところで、音楽的な相違のために、今は彼女と一緒にやってはいません。

JT:リディア・ランチとコラボレーションする予定はありますか?

CP:今のところ予定はありません。前回共演したのは、マンハッタンのロキシー・ホテルのレジデンシーでした。ウィーゼル・ウォルター(ds)とティム・ダール(b)と僕で、彼女が書いた四人の演奏家のためのスポークン・ワードの間奏曲を演奏しました。楽しかったです。

JT:白石民夫と共演した感想を聞かせてください。

CP:白石さんと共演するのはひとつの挑戦ですが、満足の行くものです。彼のプレイはとても限られていますが、他の誰にも出来ない専門分野を見つけて、聴いてすぐ彼だと判るやり方を体得したという意味で、非常に特別な演奏家です。彼の演奏には多くの陰影がありますが、現代の演奏家のほとんどが、単一の技術を完成させることよりも、多機能性と熟練性を重視しているために、多くの人がそれを見逃しています。それは後期のロスコ(*)とピカソを比較するのと同じです。 ロスコは非常に特殊なスキルを持っていて、それを実際に完成させました。一方ピカソはたくさんのことができて、すべてに優れていました。どちらも偉大な芸術家ですが、ひとつのことに集中する人と、多くのことに取り組む人の、どっちがより重要ということはありません。万能じゃないと不安に駆られがちですが、万能自体は美徳でも何でもありません。

【訳注】マーク・ロスコ(Mark Rothko, 1903年9月25日 – 1970年2月25日):
ロシア系ユダヤ人のアメリカの画家。キャンバス全体を色数の少ない大きな色彩の面で塗りこめる「カラーフィールド・ペインティング」というスタイルを確立した。

JT:日本ツアーの後10月にマット・ネルソン、ルイーズ・ヤンセン、白石民夫とのサックス・カルテットでデンマーク・ツアー が予定されています。とても興味深いのですが、このカルテットについて教えてください。

CP:このサクソフォン・カルテットは、今まで聴いた中で、最も聴くにたえない音楽のひとつ― 僕にとっては褒め言葉 ― です。ボルビトマグースよりもずっと不快で耳障りです。アルトサックスはとてもうるさい楽器です。4人のアルトサックス奏者が一斉に大音量でプレイすると、途轍もなくうるさい。だからこそ、このサクソフォン・カルテットが僕にとって面白いのです。元々はヨーロッパ・ツアーを企画したルイーズ・ヤンセンの発案です。

Nate Wooley Quartet: Knknighgh – at Spectrum, NYC – October 18 2016

 

●日本について

JT:日本の音楽シーンをどう思いますか?

CP:メルツバウにはずっと前から大きな影響を受けてきました。もちろん、吉田達也さん、巻上公一さん、大友良英さんの音楽も好きです。他にも何人でも名前を挙げられます。全般的に日本は、国の大きさに比べて、驚異的な数の素晴らしいアーティストを生み出してきました。僕が最初に注目したのは、文化的に見ると保守主義と進歩主義の奇妙なミックスだということです。日本のミュージシャンは、他の文化から借用して独自のものを作りだすことへの抵抗はありません。もちろん巻上公一さんはその達人です。9月のツアーで日本についてもっとたくさん学びたいです。また、日本の若い人たちの活動についてももっと学びたいと思っています。今回のツアーで日本の前衛音楽の創設メンバーと共演することをとても光栄に思います。ですが、最終的には若い世代のミュージシャンと知り合うことも僕にとっては重要です。ぜひ紹介していただきたいと願っています。

JT:ニューヨークでヒカシューのニュー・アルバムのレコーディングに参加しました。どのように実現したのですか?共演した感想は?

CP:とても面白い話なのです。巻上さんからニューヨークへ来ると連絡があったのです。ただし目的や理由は言わずに。彼がNYに来てから、メールで何をしているのか、会うことが出来るかと尋ねました。すると「僕らは今スタジオにいるんだけれど、ここへ来て演奏しない?」と返事が来たのです。もちろん「はい」と応えました。そして、翌日一緒に音楽を作ったのです。9月17日に“Jazz Artせんがわ”で共演します。とても興奮しています。

JT:吉田達也と一緒に日本をツアーしますが、彼については?

CP:吉田達也さんは驚異的なドラマーであり、芸術、作曲、リズムの複雑さ、ノイズなど多くの点で同じ興味を分かち合えそうです。お会いしたことは一度もありませんが、大いにリスペクトしています。一緒に演奏するのが待ちきれません。

JT:他の共演者について。

CP:
・大友良英
大友さんが世界で最も重要な実験音楽家の一人であることは間違いありません。あらゆるコミュニティやジャンルの人々を結集させるというジョン・ゾーンについての僕のコメントが、彼にも当てはまります。 彼と一緒に演奏することはとても名誉です。

・Sachiko M
Sachiko Mさんと共演できることはとてもエキサイティングです。僕がサックスを、特に高い音域でプレイするとき、常に純音(Pure Tone)のような音を出そうとしています。最近はサイン・ウェーヴのドローンを使う曲もやっています。だから彼女との共演は素晴らしいと思います。

JT:日本でも「Four Alto」のような多重録音ソロを演奏する予定ですか?

CP:ソロ・セットで何を演奏するかは決めていません。僕のソロ・パフォーマンスは、崖から飛び降りるようなものです。やるまで何をするか決めないままで、一旦始めたら後戻りはできません。どうなるかお楽しみに!

●一般的な質問

JT:音楽には進化が必要なのか、それとも過去の焼き直しでもいいのか、という議論についてどう思いますか。

CP:これは主に意味論的な議論です。もちろん、過去からの影響を逃れることはできませんが、だからと言って、新たな地平を切り拓き、新たな光景を導くことが僕たちに出来ない訳ではありません。ポップ・ミュージック界では、かなり意図的にリバイバルや古い音楽の再利用への関心が起こります。ピート・シーガーに始まり、ボブ・ディランとニール・ヤングへと続く、50・60年代のフォーク・リバイバルがその一例です。現在、ダフト・パンクのようなバンドは、クラフトワークやタンジェリン・ドリームといった70年代エレクトロニック・ミュージックのサウンドを使っています。ジョン・ゾーンは、歴史全般からの影響を取り入れて、自分の音楽に使用することで知られています。自分の創造的な目的のために素材として使用することと、過去の音楽を単純に再現し、それが新しいものだと思い込むこととの間には大きな違いがあります。何を使うかは必ずしも重要ではありません。 ボブ・ディランとニール・ヤングは、フォーク・ミュージックに全く新しい視点を提示しました。彼らは天才です。どのようなイディオムであっても、彼らは良い音楽を作るでしょう。

JT:ロバート・グラスパーやフライング・ロータスなどの“新世代ジャズ/R&B/ヒップホップ”と呼ばれる潮流をどう思いますか?

CP:まったく興味がありません。だから僕には判断はできません。おそらく良いものもあるでしょうが、興味を惹かれないのです。

JT:ツイッターやフェイスブックなどSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)をすべて辞めた理由を教えてください。

CP:ソーシャル・メディアは、現実世界からの狡猾な目くらましです。僕はスマートフォンの画面を見つめるよりも、実際に人と会うことを好みます。SNSには心理的な危険性があります。なぜなら、社会と繋がっているという錯覚を与える一方で、SNS上のウェブサイトが関心を持っているのは、実用的な製品を提供することではなく、企業広告だからです。例えば、フェイスブックの投稿を見る人が多ければ多いほど、広告収入は増えます。従って、彼らの目標は、見る人を幸せにすることではなく、習慣性の高い製品を生み出すことなのです。しかも残念なことに、それはうまく機能しています。彼らが提供するものは無料に見えますが、そうではありません。実際には、私たち自身が製品なのです。(アクセス数という)私たちの目が、公開市場で販売されているのです。最近の研究によれば、たとえ使っていない時でも、スマートフォンが人間の記憶と問題解決能力を如何に低下させているかが発表されています。脳が機能する能力に永続的な影響を与えているのです。とても恐ろしいことです。

また、個人的には、SNSを使うと吸い込まれていくような気がします。そして些細な思考プロセスと競争心が煽られます。SNSを辞めてから、ずっと気分が良くなりました。

 

●今後の活動について

JT:今後もニューヨークを活動拠点にするつもりですか?

CP:いいえ、多分そうしません。何処へ移るか判りませんが、この先ずっとニューヨークに留まることはないと思います。

JT:ヨーロッパや日本の他にアジア、アフリカ、オセアニアなど他の国のミュージシャンとコラボレーションしたいですか?

CP:ぜひコラボしたいです。特にラテン・アメリカのミュージシャンに関心を持っていて、ブエノスアイレスに行きたいと思っています。来年2018年に実現することを願っています。メキシコシティでも面白いことが起こっているようですよ。

JT:ありがとうございました。日本ツアーを楽しみにしています。

 

  

 

クリス・ピッツィオコス日本ツアー2017
CHRIS PITSIOKOS JAPAN TOUR September 2017

9月17日(日) 東京 Jazz Art せんがわ 2017
ヒカシュー×クリス・ピッツィオコス
・ヒカシュー[巻上公一(vo,theremin,cornet)、三田超人(g)、坂出雅海(b)、清水一登(pf,synth,bcl)、佐藤正治(ds)] ・Chris Pitsiokos クリス・ピッツィオコス(as)
http://jazzartsengawa.com/

9月18日(月) 静岡 FREAKYSHOW
クリス・ピッツィオコス(as) + 吉田達也(ds)
http://freakyshow.net/index.html

9月19日(火) 名古屋 なんや
Sax Ruins: 小埜涼子(as) 吉田達也(ds)
クリス・ピッツオコス(as)
http://www.nanyagokiso.com/

9月20日(水) 大阪 Studio T-BONE
クリス・ピッツィオコス(as) + 吉田達也(ds)
http://www.tbone.jp/

9月21日(木) 和歌山 MOMENTS
クリス・ピッツィオコス(as) + 吉田達也(ds)
https://moments-wakayama.tumblr.com/

9月22日(金) 高松 TOO NICE
クリス・ピッツィオコス(as) + 吉田達也(ds)
http://impulse-records.main.jp/toonice/

9月23日(土) 愛媛 松山 音溶
クリス・ピッツィオコス(as) + 吉田達也(ds)
http://www.oto-doke.com/index.php

9月24日(日) 広島 福山 BOOM BOOM BAR
クリス・ピッツィオコス(as) + 吉田達也(ds)
http://boomboombar.net/

9月25日(月) 兵庫 神戸 BIG APPLE
クリス・ピッツィオコス(as) + 吉田達也(ds)
http://www.geocities.jp/kbigapple/

9月26日(火) 札幌 PROVO
大友良英スペシャル3days
・Filament:大友良英 (g)、Sachiko M (signwaves)
・大友良英 (g) × 山崎比呂志 (ds)
・大友良英 (g) × クリス・ピッツィオコス (as)
・大友良英 × Sachiko M × 山崎比呂志 × クリス・ピッツィオコス
http://provo.jp/

9月27日(水) 札幌 くう COO
大友良英スペシャル3days
・クリス・ピッツィオコス (as)
・ショロー倶楽部:大友良英 (g)、不破大輔 (b)、芳垣安洋 (ds)
http://www.sapporo-coo.com/

9月28日(木) 千葉 稲毛 CANDY
クリス・ピッツィオコス(as) + 吉田達也(ds)
http://blog.livedoor.jp/jazzspotcandy/

9月29日(金) 東京 千駄木 Bar Isshee
クリス・ピッツィオコス(as) SOLO
http://www.bloc.jp/barisshee/

9月30日(土) 東京 秋葉原 Club Goodman
<CHRIS PITSIOKOS JAPAN TOUR>
クリス・ピッツィオコス 吉田達也 広瀬淳二 JOJO広重 スガダイロー
http://www.clubgoodman.com/blog/?p=14111

 

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剛田武

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら、「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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