INTERVIEW #163 ヒロ・ホンシュク

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ヒロ・ホンシュク  flute, piccolo, EWI

本宿宏明。東京で生まれ、鎌倉に育ち、ボストンに生きる。日大芸術学部を卒業後渡米、バークリー音大とニュー・イングランド音楽院(NEC)に学び、両校を同時卒業。NECではジョージ・ラッセルに師事、彼のリヴィング・オーケストラの正式メンバーとなり、アシスタントを務める。作曲、演奏を通じて彼の「リディアン・クロマチック理論」を実践、継承。「Racha For a」(ハシャ・フォーラ)を率い、ボストン、NY、日本で演奏。2015年のツアーでは「東京JAZZ」に出演、新作『Happy Fire』リリース記念の今年のツアーでは「阿佐ヶ谷ジャズ・ストリート」に出演予定。現在、サイト管理者を務めるJazzTokyoに「楽曲解説」を好評連載中。

 マイルス流に音楽の方向を発展させてみた

Jazz Tokyo:新作『Happy Fire』についてですが、Racha For a(ハシャ・フォーラ)としては何作目ですか?

ヒロ:『Racha Fora』(2011)、「Racha S’Miles」(2015) に続く三作目になります。

JT:前作とはメンバーが変わっていますが、その意図は?

ヒロ:前作までナイロンギターを務めたマウリシオ・アンドラージは、参加中のロックバンドとの契約問題でハシャ・フォーラを続けられなくなり、ベースのハファエル・フッシのロックバンド、RANNのギタリスト、アンドレ・ヴァスコンセロスを起用しました。アンドレはブラジル人ですが、ロックのイディオムをたくさん持っており、それだけでなく彼のエフェクターの使い方に惚れました。その後ハシャ・フォーラ結成を決意させたハファエルが結婚やその他の諸事情で参加継続が不可能になり、いい機会なのでマイルス流に音楽の方向を発展させてみようとベースレスを決意。その時点で低音域をカバーするためにパンデイロからカホンに変えました。

JT:新メンバーを紹介してください。

ヒロ:ギターのアンドレは2015年の東京ジャズ・フェスティバルからの参加です。非常にクリエイティヴなやつで、一旦こちらが書いた譜面の要求を理解すると、こちらが予想もしなかったサウンドを作り出す天才です。しかもグルーヴ感はピカイチ。

カホンは2人レコーディングに加わっています。一人目はハービー・ウイルト。彼はぼくが80年代終わりから始めたA-NO-NEバンドのオリジナル・ドラマーで、ピアノの山中千尋さんと共に90年代半ばまで正規メンバーでした(http://h-hon.link/a-no-ne-band)。1994年に開かれた京都1200年祭に連れて行った20人編成のジャズ・オーケストラのメンバーでもありました。しかしその後千尋さん同様世界的に活躍するようになり、脱退。ハービーはアンジェリカ・キッジョーの専属ドラマーとしてグラミーに2度出演しています。

先にお話したように、ハシャ・フォーラからベースのハファエルが脱退し、音楽の方向を変えようとしていた時に偶然ハービーがミノ・シネルとカホン・バトルを繰り広げているのを目撃し、誘ったところ二つ返事で了承。これが去年2016年です。丁度リカ・イケダも他の仕事でハシャ・フォーラのギグに出られないことが続き、ハシャ・フォーラをトリオとして再編成し、今回リリースの『Happy Fire』の録音を始めました。ハービーは南アメリカ、スリナムの出身ですが、ブラジル音楽を深く理解しており、反面タイム感はカリブに近いので、オリジナルのハシャ・フォーラのサウンドから一歩踏み出せました。

ところが心配していた通りハービーのスケジュールが急に忙しくなり始め、長期海外ツアーで不在のため急遽新しいカホン奏者を探し、ニューヨークで飛ぶ鳥を落とす勢いの若手ドラマー、セバスチャン・Cバス・チリボガを起用した経緯です。彼はブラジリアンではなくラテンのタイム感なので、ハシャ・フォーラの音楽がかなり違った方向に動けるようになりました。

 ドラムスを外してパンデイロに、さらにカホンに変更した

JT:去年の来日からパンデイロがカホンに変わっていますね?

ヒロ:ハシャ・フォーラを始めた当時はぼくの長年にわたるブラジル音楽への想いからで、どうしてもカポエラ系のパンデイロである必要がありました。しかしカポエラ系のパンデイロ奏者はまず譜面を読まないので、適任者を探すのがいつも問題になっており、一度カホンで代用したことがあります。自分にとってそのサウンドは「流行っているカホン」にしか聞こえなかっただけではなく、ベースと音域が干渉するのがとても嫌でした。

ところが、ベースレスになり、一旦音楽の方向を変えようと思ったら、カホンがグルーヴするサウンドが簡単に見えてきたのです。それにハービーとCバスという2人の特殊なグルーヴ感を持ったカホン奏者に出会ったということも幸運でした。2人ともまったく違うグルーヴ感を提供しますが、どちらもぼくが行きたい方向にぴったり合っていたからです。

JT:一時、ドラムスを使っていたこともあると思いますが、ドラムスを外してパンデイロやカホンに変えた理由は?

ヒロ:さて、正直に答えていいものかどうか(笑)

ハービーがA-NO-NEバンドを脱退して以来、どんなドラマーとやっても満足しなくなってしまったのです。そして今また同じことが起こってしまいました。ベースのハファエルが脱退し、他のベーシストを起用する気になれないのです。最高だった彼女にフラれて、もう女なんかいらない、っていうのと似ているかもしれません。

 最高のグルーヴをクリエイトするアンドレとCバス

JT:このバンドでのギタリストのポジションとアンドレ・ヴァスコンセロスの人となりについて紹介してください。

ヒロ:当然ですが、ベースレスになった当初は苦労しました。何せギターが低音域をカバーしなくてはいけないのと、ベースが担うグルーヴもカバーしなくてはいけないからです。しかしアンドレは、我々が目指す音楽は最高のグルーヴを発展させることで、ソロで目立つ必要がないことをしっかり理解しています。反対にトリオでのインプロで絡む時は、彼の真のインプロ能力を堪能させてくれます。2ヶ月ほどのリハーサルでぼくの描いているサウンドを消化してくれました。

JT:セバスチャン・Cバス・チリボガはどうですか?

ヒロ:セバスチャン(以下Cバス)は、ラテン系らしくオン・トップ・オブ・ザ・ビートでぐりぐりグルーヴします。このタイム感でブラジルのリズム・パターンをやっても、不可解なラテン・ジャズになってしまわないのは、アンドレのネイティブなブラジルの血のおかげです。ただしかなりすれすれのところにいるので、スリル満点です。Cバスは実に楽しそうにグルーヴを提供してくれ、ステージにいる全員と聴衆を幸せ気分にしてくれます。

 

 コンセプトもレパートリーもマイルスがらみの新作

JT:新作のアルバム・コンセプトは? “New Kind of Jazz” とサブタイトルがついていますが?

ヒロ:ハシャ・フォーラはどこに行ってもブラジリアン・ジャズと誤解され続けて来ました。もちろんそういう看板の方がお客さんに理解されやすいのでしょうが、ぼくとしてはあくまでもジャズのつもりでいます。チンチキのライド・シンバルがなくとも、ジャズの最重要要素であるオン・トップ・オブ・ザ・ビートとビハインド・ザ・ビートのタイムの幅を活用し、マイルスの教えである、常に新しい方向に進むということをモットーにしています。だから、これはジャズです、と強調したかったわけです。そして『Kind of...』はマイルス引っ掛けです。

JT:レパートリーはジャズ・スタンダードが7曲、ブラジル系2曲、本宿さんのオリジナルが1曲ですが、この構成のポイントとは?

ヒロ:まず、前作の『Racha S’Miles』同様、今回もかなりマイルス絡みです。オリジナルでタイトルソングの<Happy Fire>とブラジルのスタンダード、<Estamos Aí>以外は殆どマイルスが演奏した曲です、が、例外が2曲、<Blues In The CLoset>と<A Foggy Day>。この2曲はレッド・ガーランドがマイルスのギグやレコーディングの最中に披露した曲です。当時マイルスは自分のレコードやショーでレッド・ガーランドをフィーチャーした曲を入れていました。

オリジナルの<Happy Fire>は、今までのハシャ・フォーラの目的であった、ネイティブなブラジルのリズム・パターンを使って、しかし今回はブラジルでないタイム感に発展させるよう工夫してみました。まず基本はバイヨンですが、Cバスがカホンをラテンのタイム感で駆り立てるのでバイヨンには聞こえません。そしてブリッジでいきなりブラジルのストリート・リズムであるバトゥーカーダでストップタイムを作り、ブラジルのストリートを想わせたところで一気にハードロックに乱入するという構成です。そしてインプロは当然ジャズのタイム感で、という趣向です。

スタンダードですが、今回の新しい試みは、以前のようにアイデンティティを誇示したアレンジを強調するだけでなく、ジャズの本質であるジャムの要素も混ぜました。<オール・ザ・シングス・ユー・アー>と<ブルース・イン・ザ・クロゼット>は譜面なしの一発撮りです。

 

♩ 初のピッコロを生かした<ナルディス>、ロック色の強い<サマータイム>

JT:そのアイデンティティの強い<ナルディス>と<サマータイム>について具体的に説明して下さい。

ヒロ:<ナルディス>は、エヴァンスには関係なく100%マイルス作、<サマータイム>はマイルスの演奏の印象が強力な曲、どちらも半端なアレンジはできないという意気込みがありました。

<ナルディス>は元々ジョージ・ラッセルがマイルスに教えたリディアン・クロマチック概念で書かれているのですが、コード進行はさらに重力感を増すように一部変更してあります。そして、なぜピッコロなのか。答えは単純で、新しいピッコロを購入したからです(笑)。購入したいと思う楽器を見つけるのに数年かかりました。気に入った楽器がなく、随分と苦労した末、ようやく自分の求めていたサウンドの楽器、エマーソン作のボストン・レガシーに巡り合えたので、どうしてもこの楽器で1曲録音したかったわけです。

ピッコロというとヒューバート・ローズのビ・バップを思い浮かべるのですが、そういうサウンドにはしたくなかった。せっかくアンドレが素晴らしいロック・イディオムを提供してくれるので、ピッコロとハードロックのサウンドを合わせて、今まで聞いたこともないサウンドを作り出そうと思ったのです。ぼくがギター小僧だった時代に愛聴したレッド・ゼッペリンの<天国への階段>をイメージしました。

<サマータイム>は元々はハシャ・フォーラ結成当時の、ブラジル色を強調するサウンドのためにXote(シャチ)というグルーヴで書いたものでした。それをXoteからバック・ビートに変更してロック色を強くしてみました。特徴は、オリジナルの16小節フォームを11小節フォームに変更していますが、まったく違和感がないように工夫されています。これは起承転結の「結」の部分をストップタイムにしており、その後のターンアラウンドの部分をヴァンプにしています。このヴァンプの4小節は、踏み台として盛り上がるもよし、ソロの終わりのフェード・ダウンに使うもよし、というコンセプトです。この踏み台4小節を有効にするためにソロのセクションでも常に「結」の部分でストップタイムを維持します。

ぼくの書く譜面はソロ・セクションにも必ず細かく指定があります。ジャズの歴史を考えると、元々は歌謡曲のコード進行の上でインプロをして楽しむというスタイルで始まった音楽ですが、そういう手法は偉大なジャズ・ミュージシャン達がすでにやり尽くしており、マイルスの教えに従うなら我々がそれを踏襲すべきではないと。反対に、フュージョンで流行った、ソロ・セクションが一発オープンで、その曲のテーマと全く関連性がないやり方にも抵抗を感じるのです。ですから、ぼくはソロ・セクションの構成は、テーマとまったく同じか、その曲のテーマに基づいて新しく細かく書きます。しかし、その細かく書かれた柵の中で毎回ハプニングがないといやだ、というとても理不尽な要求を出します。これはメンバーにとってかなりの負担になりますが、幸いなことにぼくが選ぶメンバーは、皆、新しいインプロの遊び場を喜んでくれ、リハーサルにも根気よく付き合ってくれます。一旦この書き込まれた約束事が身につくと、その間のセクションでどんなに羽目を外しても崩壊しないのです。

JT:エルメート・パスコアールの楽曲が1曲入っています。彼は“異才”として知られていますが、彼の魅力は?

ヒロ:これはなかなか言葉では言い表せないですね。彼は手を振ると五本の指の先からあれよあれよと不思議なサウンドが流れ出てくるというような天才です。彼に会ってサインを求めたら、サインではなくその場で1曲書いてくれました。所要時間16分。その模様はこのビデオに収められています(http://h-hon.link/hermeto-yuka-hiro)。

 

 二人の師、ジョージ・ラッセルとマイルスの教えを反映させた

JT:ヒロにとってジョージ・ラッセルが師匠、マイルス・デイヴィスが心の師だと思いますが、二人から受けた最大の影響は?

ヒロ:これは簡単に答えられます。リディアン・クロマチック概念を創案したジョージからは調整の重力という概念を教えられ、音楽の一般概念の5度解決、またはトライトーン解決という和声進行を綺麗さっぱり忘れることを教わりました。

マイルスはぼくにとって救世主です。ぼくはキリスト教の家庭に育ったので、元クリスチャンですが、アメリカに移住して、ジョージにマイルスの存在を知らされてからマイルス教に回心しました。キリスト教では、信徒はキリストの足跡を歩む努力を続けるように、ぼくはマイルスが示した、ジャズは常に変わり続けなくてはいけないという教えに従いたいと思っているだけです。

JT:それがどのように演奏やアルバム制作に生かされていると思いますか?

ヒロ:ぼくの各曲はすべてジョージのリディアン・クロマチック概念の調整の重力を使用しており、例えば II – V – I などという進行は出てきません。同様にダイアトニック・コードという概念も否定しています。しかし耳には奇天烈にならないように最大の努力が払われているのもジョージのテクニックから教えられたことです。

そしてバンドのメンバー・チェンジやアルバム制作に当たっては、常に草葉の陰のマイルスに、認められないまでも怒られないようなものを作りたいと心がけています。

JT:このバンドのNYでのギグの評判はどうですか?

ヒロ:アメリカはありがたいことにジャズだとかブラジルだとかレッテルを気にしないので、アンドレやCバスのようなエキサイティングなグルーヴを出すミュージシャンを歓迎してくれ、またフルートやバイオリンなどの楽器で誰も予想していないだろうパワフルなサウンドを提供するので、とくに若い世代に受けがいいですね。

JT:10月に来日予定がありますが、日本のファンに期待してほしいところは?

ヒロ:我々のウリである、まず今まで聞いたことがないようなグルーヴ感と、変幻自在なジャズのインプロを楽しんでいただきたいですね。まずジャズとかブラジルとかラテンとかの既成概念を捨てて、楽しい、エキサイティングな音楽という期待だけで聴きに来ていただければ嬉しいです。

   

「E.S.P.」@ Tokyo JAZZ 2015

Making of「Happy Fore~New Kind of Jazz」 2017

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