INTERVIEW #174 武田理沙

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photo:(c)栁澤和美

ソロ・アルバム『Pandora』リリース記念
武田理沙 Risa Takeda pf,dr

Interviewed by Makoto Ando 安藤誠 @目黒 2018年7月

ピアノとドラム、狂躁と覚醒、破天荒と調和の間を縦横無尽に行き来する21世紀のスキッツォイド・ウーマン武田理沙が、満を持してのデビュー作『Pandora』を8月8日にリリースする。ライヴでは即興性を押し出した超絶プレイでその特異な才能の片鱗を見せてきた彼女だが、本作はインタヴューでも語っている通り、第1作にしていきなりミュージシャンとしての総決算を果たしたかのような濃厚な内容。作曲や全楽器の演奏はもとよりプロデュースからミックス、録音まで全て自分でこなしたというあたりからは、プリンスもびっくりの完璧主義者ぶりが窺える。そんな武田に、出生からミュージシャンとしての黎明期、そして今回の新作に至る過程を語ってもらった。

映像が浮かんでくる音楽を求めて

—北海道生まれなんですよね。ピアノを始めたのはいくつ頃?
武田:3歳から17歳くらいまで習ってました。母がもともと音楽の方に行きたかったみたいで、子供に夢を託すみたいな。母は独特の感覚を持ってて、演奏はできないんだけど、音楽を聴く耳はすごくある人でしたね。全国学生ピアノコンクールみたいなのにも何回か出たんですけど、その頃はピアノと自分との距離感があまり好きじゃなくて。自分が持ってる(楽器の)イメージが、ピアノじゃないっていうか。どっちかというとドラムやギターの方が近いって思ってました。思春期になってくると特にそういう気持ちが強くなって。特にやってたのが受験仕様というか、音大に受かるためのレッスンだったから、余計につまらなかった。

—最初に聴いたのはどんな音楽だったんですか。
武田:ストラヴィンスキーの「春の祭典」、あとムソルグスキーの「展覧会の絵」とか。クラシックを聴いてると、映像が頭の中に浮かぶんです。それが面白くて、3歳から小学校卒業あたりまではクラシックばかり聴いてました。ドビュッシーがいちばん映像が浮かんでくるんですよ。いつもドビュッシー弾きたいのになーって思いながらレッスン受けてました。

—3歳くらいで、既にそういう感覚を自覚してた?
武田:そうですね。ポップスは映像が頭に浮かんでこないから、好きじゃなかった。中学生くらいになってくると、流行りの歌もの、当時だったら宇多田ヒカルとかも聴き始めるんですけど。流行りものっていうのはメロディに中毒性があって、それに自分もだんだんハマり始めていくんだけど、その分小さい頃に持っていた霊感というか想像力を失っていったっていう気持ちもすごくあった。自分の中では停滞期ですね。小学生のころは周りの子たちとは違う音楽を聴いている自覚があったんです。ホルストの「惑星」がすごいよ!とか言ったりして。他の子たちはこの人何言ってんの?っていう(笑)。

ドラムに目覚めたジャズ研時代

—流行り物以外の、普通のジャズとかロックは聴いてなかったんですか。
武田:大学でジャズ研に入るまでは全く聴いてなかったですね。ジャズ研に入ったのが転機でした。17歳のときに一回、それまでの諸々に反発したくなって、音大じゃなくて医療系の大学に行くことにしてピアノは止めたんです。でもいざ止めてみたら、自分にピアノ以外何もないんだっていうのが分かって。穴の空き方が尋常じゃなくて。それで、もう一回音楽をやるんだって思ってその大学のジャズ研に入りました。

—で、またピアノを始めたと。
武田:いや、それが……大学に入って一人暮らしを始めて、アパートには生ピアノがなかったんで、最初はどこかピアノを弾けるところを、という一心でジャズ研に入ったんですよ。ところが先輩たちの演奏を見てるうちに、ドラムの魅力に取りつかれちゃって。さっきも話したように元々ドラムが合ってるんじゃないかというのもあったし、もし初心者から楽器を始める機会があるとしたら、人生で今が最後の機会だ!みたいな気持ちもなぜかその時は持ってて。なので、ジャズをやりたくてジャズ研に入ったわけじゃ全くないし、今もジャズ的な素養って特にないんです。居た人は変な人ばっかりで、大学中の変な人の巣窟みたいで、面白かったんですけどね。今の試聴室その3※みたいな。
※横浜・長者町のライヴスポット。前身の「試聴室その2」時代から地元のインプロ系ミュージシャンの拠点となっている。

—でもまあジャズ研なんだから、ジャズはやらされる訳でしょう?
武田:まあそうなんですけど、最初サークル内でバンドを組むじゃないですか。私、ドラマーとしては結構ハードヒッターだったんで、梅津和時KIKI BANDのコピバンとかに誘われて、そうなるともうロックなんですよね。同期にジャズ・ドラムが上手い女の子がいて、スタンダードっぽいのは彼女が一手に引き受けてて、私はほとんどロックみたいな(笑)。その頃は1日6時間くらい練習してたのかな。まあもちろん普通に、メソッド通りにスタンダードの曲をやって、ソロ回しして、4バースやって、最後にアドリブやって終わるという一連の流れをやったりする機会も多かったんですが、それには全然高揚しなくて。逆にライブ本番とかで、頭に血が上ってそれこそ自分が誰かもわからないくらいに滅茶苦茶叩いて、アドレナリンが出まくった状態になったときこそ、自分の音楽だなって思えるところがあったんですね。今やってることと同じなんですけど(笑)。

—その頃にはもう、この先も本気で音楽をやっていこうという気持ちはあった?
武田:大学に入ってしばらくは、普通に地元に帰って就職するつもりだったんです。でも3年生の冬だったかな、家でご飯食べてるときに、急に卒業したら東京で音楽をやるんだという意識になって。で、東京で就職先を見つけて、震災があった直後の11年4月に東京に出てきたんです。私、結構ライヴ受けがよかったので自分なりに勝算はあって、東京でもやってみる価値はあるぞ、みたいに思っちゃったんですね、その時は。

(c)木村雅章

プログレとザッパと即興演奏

—少し話が戻りますが、ジャズ研時代には、やっぱりフリージャズ的なものに惹かれるところはあったんですか。
武田:リスナーとして聴いたときに、自分がライヴ演奏をしてるときと同じようなアドレナリンが出まくる音楽を探し始めた時期に、フリージャス的なものに惹かれたのは確かです。無闇に暑苦しい感じのもの、ともかく熱気が凄いものが好きでしたね。ただその頃から、自分が追求したいと思ってる音楽が、実はプログレって呼ばれてるジャンルのものなんだってことに気づいて。いわゆる「プログレ四天王」、キング・クリムゾンとかイエスとか。ノリが独特で暑苦しいもの(笑)をよく聴くようになりました。

—たとえばクリムゾンだったらどの辺り?
武田:初期と「レッド」、あと2000年代に入ってからのヌオヴォ・メタルと呼ばれてたころのとか。80年代頃の、ミニマルっぽいのはあまり好きじゃない。一時期はとにかくプログレって検索して引っかかるもの全部、聴いてたときもありましたね。特にイタリアとか北欧とか。ジャーマン・プログレはあんまりよくわからないんですけど。クラシック的な要素があって、それでいてなんか熱いのが好きなのかな。カンタベリー系も大好きなんですけど。ハットフィールド&ザ・ノースとかヘンリー・カウとか。フランク・ザッパとの出会いもそのあたりを通じてですね。

—ザッパのアルバムをまるごとピアノだけのライヴで再現したり、かなり無茶なことをされてますけど、ザッパからの影響はやはり大きかったんですか。
武田:ザッパを聴いてれば、すべての音楽のジャンルを網羅できるんじゃないかな。そのくらい凄い人ですよね。ただ、最初に聴いたときには難しすぎて全然わからなかったんです。で、ここからちょうど東京での活動とつながるんですけど、上京して押上に住んでたときに、錦糸町のPAPPY’Sというライブハウスでよく朝まで音楽の話をしながら飲んでて、その時の飲み仲間の人からザッパのコピバンに誘われるんです。以前からやってたのが中断してて、ちょうど再開しようというタイミングだったらしくて、鍵盤で加わることになって。私の鍵盤デビューもそのバンドなんですよ。1年半くらいやってました。私、東京に出てきてからしばらくはドラマーとしてしか活動してなかったんですが、ちょうど鍵盤をやりたくなってた時期だったんで、タイミングもよかった。そこでようやく鍵盤弾きとして陽の目をみたというか、徐々に知られるようになってきて、今鍵盤でメンバーとして加わってるアルゴノーツなどのバンドにも誘われるようになったという流れですね。

—それまでドラマーとしてはどんな活動を?
武田:PAPPY’Sで最終水曜の夜にブルース・セッションをやってたんですが、それで叩いたのが最初です。その後は東京中のブルース・セッションやジャズ・セッション、もう少ししてからはインプロのセッションなんかにも出るようになって。荻窪ベルベットサンのOKHP JAMとかにも行ったのかな。そういうのに腕試しで、道場破りみたいに行ってて、それなりに経験値は上がったと思います。

災いの箱を内蔵までぶちまけたデビュー作

—今回の新作「Pandora」ですが、出来上がってみて満足感はありますか。
武田:やりたかった音楽が全部一人で実現できて、実は喜びと同時に絶望してて。もう私、一人でいいじゃん、このままずっと一人で曲を作る人間になってもいいじゃん、って思ってしまってるんですよね。誰にも気を使わなくていいし(笑)。

—全ての楽器を一人でこなしてるのに加えて、デビュー作でプロデュースや録音、ミックスまで全部やっているというのは驚きです。
武田:私の理想としてる音楽、この先死ぬまで聴き続けていきたいものを今自分が持ってる想像力と技術で作る、っていうのが今回のコンセプトだったんですけど、それを9割方実現できたかなと。正直ここまで満足できる仕上がりになるとは思わなかったですね。即興演奏の現場で培ってきたものが今回かなり活かされたかなという実感もあって。ここはあと1秒長い方がいいとか、ここは打ち込みなんだけど、あえてクリック聴かずによれた感じにしたほうが面白いとか、自分の中で「これが正解だ」というものがはっきりわかる感覚がありました。MIDIピアノで即興で弾いて、気に入った部分だけつなげていく形で作った曲も結構あったのかな。ある意味、曲なんだけど即興みたいな。

—これだけのボリューム(CD2枚組・130分)となると、演奏家としてはともかく、プロデューサーとしては難しい部分もあったのでは。
武田:でも、人の意見が入った時点で私のソロじゃないと思っていたので。今回、最初から最後まで好きにやらせてもらえたのは、本当に有り難かったですね。

—Disc1の収録曲は比較的穏やかな印象ですが、Disc2の方は音圧が凄まじいですね。普通のエンジニアだったらまずOKが出ない作り方。
武田:音圧高すぎで、波形真っ黒(笑)。絶対それがカッコいいと思ってて。マスタリングのときに「これ、いじりようがないからこのままでいいですか」なんて言われたんですよ。実は自分で少し音圧下げてミックスしてみたりもしたんだけど、これやっぱ違うなと思って。私、クリムゾンの「アースバウンド」がすごく好きで、あれくらい滅茶苦茶にしたかったんですよ。音割れギリギリまで音圧上げてる、耳痛くなる感じ。あれが好きで。やっぱり一人で作ってると、絶対好きな方に行っちゃうじゃないですか。もう、快適に聴いてほしいなんてある意味思ってないですから。アルバム通して情緒不安定というか、音量差も激しいし、世界観も全然違うっていう。たとえばCD2の1曲目は先にドラムを録って、2曲目は後で録ったりとか、曲によって録った環境とかマイクとかも全部違うんですけど、なんとか奇跡的にうまくいった感じですね。

—Disc1は英語のタイトル、Disc2は日本語のタイトルが付いていますが、これは意図的なものなんですか。
武田:Disc1は自分の中の理想的な人物像というか、人からよく見られたい方の自分で、Disc2は本性というか、根っこにあるドロドロした部分(笑)。誰でもそうだと思うんですけど、私の中にもいろんな面があるんで、とりあえず2枚にまとめてみたという感じですね。全部出しちゃうと10枚組ボックスとかになっちゃうので。

—アルバムタイトルの「Pandora」については?
武田:これは、最初の方ですんなり決まりましたね。私の中では災いの箱を全部、内臓までぶちまけたという(笑)。ジャケ写も本当は、裏面の方が自分のイメージに近いんですよね。でもサイケなイメージになっちゃうかもって言われて、シンプルに顔出しアップになりました。ま、これはこれでいいかなと。知り合いが見たら笑うと思うんですけど。

 

CD2枚組130分という大ヴォリュームの作品ではあるが、本作はまずは曲順通りに、全編通して聴いてみることをお勧めしたい。幽玄かつオーガニックな空気感が立ち上がってくる冒頭から、しばらくは音に身を任せたくなる優美な時間が続くのだが、その流れを侵食するかのように内なる破壊衝動が徐々に増殖してき、Disc2ではドラムが暴れまわり、アナキックな世界観が一気に前景化。その狂騒を少しずつ飼いならしていき、やがては調和と不調和の中間地点に着地していく—-そんなトリッピーな体験が楽しめることだろう。次から次へと提示される音絵巻は、武田自身が幼い頃から彼女の内部で描いてきた映像のサウンドトラックなのかもしれない。本作で彼女を知ったリスナーは、ぜひライヴでもその超絶プレイに触れてみてほしい。

 

タイトル : Pandora
アーティスト: 武田理沙
価格 : 2,500円 + 税
発売日 : 2018/08/08
レーベル/品番 : MY BEST! RECORDS (MYRD124)

Live schedule(ソロワンマン)
8月21日(火) 渋谷7thフロアー
9月22日(土) 横浜日ノ出町試聴室

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安藤誠

安藤 誠(あんどう・まこと) 広告制作オフィス代表。NPOアクセプションズで障害児向け音楽関連イベントやワークショップの企画・運営、LAND FESではアートディレクションを担当。

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