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InterviewsNo. 218

#147 マーシャル・アレン Marshall Allen (サン・ラ・アーケストラ)

 

2016年5月4日(水) 新木場 STUDIOCOAST

インタヴュー:剛田武、齊藤聡
Interview by Takeshi Goda , Akira Saito
撮影:齊藤聡 Akira Saito
Photos by Akira Saito
ライヴ写真提供:株式会社フロンティアインターナショナル
Live Photos by the courtesy of Frontier International
翻訳:剛田武
Translation by Takeshi Goda

 

マーシャル・アレン Marshall Belford Allen  (reeds, fl, piccolo, oboe, EVI, kora etc.)
1924年5月25日ケンタッキー州ルイスビル生まれ。母が歌手で幼い頃から音楽的環境に恵まれて育つ。10歳のときクラリネットを始める。第二次大戦中18歳のとき「第92歩兵師団」に所属し、軍楽隊でクラリネットとアルトサックスを演奏する。パリに駐在中にアート・シモンズ、ドン・バイアス、ジェームス・ムーディなどと共演。名誉除隊後、パリ音楽院で学ぶ。1951年米国に帰国しシカゴを拠点に自分のバンドを率いてクラブやダンスホールで活動。同時に作曲やアレンジを始める。1956年にサン・ラと出会い、彼の音楽コスモロジー(宇宙学)の学徒となり、1958年サン・ラ・アーケストラに参加。それ以来アーケストラのリード・セクションのリーダーとして活躍。1993年サン・ラ、1995年ジョン・ギルモアの没後、サン・ラ・アーケストラのリーダーとなり、現在まで精力的に活動中。


春一番を思わせる強い風が吹く晴天のみどりの日、新木場STUDIOCOASTの楽屋では、リハーサルを終えたアーケストラのメンバーが寛いでいた。本番前の緊張感は感じられず、ウイスキーのグラスを手に歓談するメンバーもいる。インタビューは共同エリアのテーブルで行われた。マーシャル・アレンは始終上機嫌で、しばしば身振りを交えて歌を歌い、ほとんどひとり語りのように話してくれた。

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Takeshi Goda (TG)  昨日来日したばかりですが、ご気分はいかがですか?

Marshall Allen (MA)  日本の休日は静かでいいね(フーッと満足そうなため息)。私たちが住んでいる国はいつも忙しくて騒がしいけど、日本は海のように落ち着いていてリラックスできる。昨日と今日の二日間、とても気分がいいよ。

TG 今回が4回目の来日ですね?

MA いいや、5回目になる。アーケストラと3回来日した以外に、(2006年に)ジェームス・ハーラーと一緒に日本のクラブをツアーしたんだ。トリオ編成で映画との共演だった。山口の美術館(山口情報芸術センター YCAM)で演奏したのを覚えている。ジェイミー(ハーラーのこと)と出会ったのは、彼がオルブライトカレッジの学生だった時。映画の背景で音楽を演奏するというアイデアを持ってきて、私に手伝って欲しいと言うので、「いいよ」と引き受けた。若い人たちをサポートしたかったからね。ジェイミーはアメリカインディアンの、名前は忘れたけど小さな部族の出身なんだ。そして、映画と音楽を組み合わせるこのプロジェクト(Cinema Soloriens)を二人でスタートした。いろんなミュージシャンが参加している。時に4〜5人、2人、私とジェームスだけの時もある。

コンセプトはとてもシンプル。サイレント映画を観て、過去を回想したりして、映画が表現しているものを感じる。それを単純化して、木々、風景、風、鳥などのサウンドとして演奏する。観たもの、感じたものを瞬時にプレイするんだ。

『Cinema Soloriens / Cult of Saint Margaret』(2015 Soloriens Media) James Harrar, Marshall Allen, Rogier Smal, Graham Massey, Paddy Steer, Richard Harrison, David Birchall ‎
『Cinema Soloriens / Cult of Saint Margaret』(2015 Soloriens Media)
James Harrar, Marshall Allen, Rogier Smal, Graham Massey, Paddy Steer, Richard Harrison, David Birchall ‎

私の演奏はいつもそうだ。型に嵌めて四角四面に考えるのではない。同じものを見ても、日によって、時間によって感じ方は異なる。それをそのままプレイするんだ。同じことでも今日はこう感じるし、明日はこう感じる。飛行機に乗って飛び去る風景を見るように次々変化する。渦巻きのように飛んでくる。

ヨーロッパツアーでは、7日間で7カ国に行くこともあったりして、緊張、緊張また緊張の連続だけど、ステージでは今感じていることをダイレクトにそのまま表現するんだ。今日はこう感じるから、今日はこう演奏する。昨日したことを模倣するのではなく、今日は今日感じるやり方で演奏するんだ。

TG それこそJAZZの本質ですね。今日感じたことを感じたままに演奏する。

MA 基礎となるメロディーは、君が今日感じたことに従って変えていいんだ。だから、ジャムセッションはとてもいい。いろんな種類の人が集まって一つの曲を演奏する。彼らは(ヒューとため息)いろんな違ったものをくれるから、あらゆることが起こりうる。それが私の演奏姿勢なんだ。同じ曲を演奏する、だけどいつも違う。だって今感じていることだから。新しいメロディーを作っても、内側ではすべてが変わって行くんだ。

TG それはアーケストラを指揮するときのアプローチでもあるのでしょうか?

MA アーケストラのリハーサルでは、サン・ラは決して過剰に演奏することはなかった。彼はメロディーを提示するだけ。そこから始まるんだ。同じ曲でもたくさんのスペースがあり、たくさん異なるアレンジがある。だからアーケストラの演奏は、同じ曲でも毎回演奏のたびに違っているんだ。僕が曲を書くときも(ラララルルルと歌う)これが今日の感じ方。(ダダディディディディ〜 ダンダンドゥンドゥンドゥンと歌いながら、机でリズムを叩く)こんな風に行ってもいい。感じるままに、歌ってもいいし踊ってもいい。構造がゆるいから何でもできるんだ。

TG 60年代の話を聞かせてください。

MA 60年代は大爆発の時代だった。あらゆる新しいことが起こった。何百人ものミュージシャンが一斉に新しい創造を始めた時代だった。何でもかんでも演奏したよ。ニューヨークにグラス博物館があって、いろんな種類のワイングラスがあった。グラスの縁を親指で擦るとプイーンときれいな音がする。そこへ行ってレコーディングした。日本、アラブ、ギリシャ、様々な国の楽器を持ち寄ってみんなで演奏した。名付けて「ストレンジ・ストリングス」。バンドのみんなが別々の楽器を持って一緒に演奏した。音が鳴るものなら何でも演奏したよ。すべてをミックスして特別なフィーリングでジャズを奏でた。

サン・ラのアイデアで、アーケストラのメンバーは複数の楽器を演奏しなければならなかった。私はオーボエ、ピッコロ、クラリネット、フルート、サックス、バスーンなど、いろんな種類の楽器を使って異なるサウンドで異なる曲を演奏した。その頃は、異なる楽器を持ったたくさんのミュージシャンと、2〜4の楽器を演奏するレギュラー・メンバーとが一緒になって刺激的な毎日を過ごした。初期の頃は、電子楽器がポピュラーになる前だったので、エレクトロニック無しでサウンドを創造し、リズム楽器で電子的なサウンドを再現しようとした。

カリフォルニア大学デイヴィス校で研究していたオルガン・サウンドの開発をサン・ラが手伝った。また、ムーグ(MOOG)はサン・ラに特別なシンセサイザーを作ってくれた。そのように異なる新しいサウンドがすべてサン・ラの元に集まってきた。

だから僕にとっては、お金がなくて特別な楽器はなかったけど、手に入る普通の楽器を使って、異なるサウンドを模倣・再現することは特別なことではなかったんだ。

TG 当時の録音はポール・ブレイ・クインテットの『BARRAGE』がありますね。ポールとの出会いは?

MA ポール・ブレイに会ったのは、トランぺッターのデューイ・ジョンソンを通してだった。素晴らしいミュージシャンだね。エディ・ゴメス、ミルフォード・グレイヴス、みんないいプレイヤーだ。このクインテットでカーラ・ブレイやポール・ブレイの曲をいろいろ演奏した。アーケストラのメンバーとは別のミュージシャンと活動することで、新しい世代(New Age)に属していることを実感した。

Paul Bley(p), Marshall Allen(as), Dewey Johnson(tp), Eddie Gomez(b), Milford Graves(ds)
『Paul Bley Quintet ‎– Barrage』(1965 ESP Disk) Paul Bley(p), Marshall Allen(as), Dewey Johnson(tp), Eddie Gomez(b), Milford Graves(ds)

TG 最近もいろいろなミュージシャンとコラボレーションしていますね。ドラマーのLou Grassi、トルコのKonstrukt、クラブミュージックのCaribou Vibration OrchestraやThe Heliocentricsなど様々です。コラボレーションのきっかけは?

MA ツアーで訪れる先々でいろんなミュージシャンと出会う。「一緒に何かやりませんか」と誘われたら「OK」と言うんだ。「コラボできるようにアレンジして、何をやってほしいか言ってくれれば、僕はそこへ行って、やってほしいことをやるよ」とね。そしてベストを尽くしてエンジョイするんだ。ミュージシャンとして生きるためにはそうやらなければならない。

自分の音楽を追求するために、国籍やジャンルやスタイルに関係なく、誰とでもコラボレートし、何でもやってみようと思っている。私は音楽において我が侭でも意地悪でもない。創造とはスピリット(精霊、魂)の技であり、何かを創造することは、一つのところから別のところへ行って、違う人や違うアイデアをミックスすることなんだ。自分にはない誰か他の人のアイデア、他の人の世界。サウンドのサイクルの一部になることで、普段は自分が持っていない新しいサウンドを人々に聴かせることができる。

TG サン・ラの音楽は現在の音楽シーンにとても大きな影響を及ぼしています。それはなぜだと思いますか?

MA サン・ラの本質はメロディーだと思う。基礎となるメロディーがあってこそ、その上に摩天楼を築くことができる。メロディーが基本であり基礎だ。イマジネーションは魔法の絨毯。月の上でも他の世界でもどこでも行ける。想像力を広げながら、自分が持っているものを使って音楽を作り出す。自分が新しいものを持っていなければ、新しいものは何も作り出すことはできない。創作の元になるのは、今日は今日のアイデア、明日は明日で別のアイデア。

『Marshall Allen presents Sun Ra & His Arkestra / In The Orbit Of Ra』(2014 Strut) Compiled by Marshall Allen
『Marshall Allen presents Sun Ra & His Arkestra / In The Orbit Of Ra』(2014 Strut)
Compiled by Marshall Allen

TG 日本のミュージシャンを知っていますか?

MA 渋さ知らズとは何度も共演したことがあるよ。彼らがヨーロッパに来た時はもちろん、私が来日したときには1週間滞在して一緒に演奏した。思い出すのは日本でのライヴの夜に彼(不破大輔)が急病になって、私にバンドのリーダーになってくれ、と頼まれたこと。「よし、わかった!」と引き受けたけど、リーダーがライヴ当日に病気になるなんて大変だったね。忘れないよ。

ヨーロッパでは一緒にツアーもした。ダンサーを含めた27ピースのオーケストラ編成から、9人組や3人組編成で。ハープ、チェロ、トロンボーン、ビオラ、バイオリン、ピアノなどいろんなミュージシャンが参加して30〜40公演。本当のショーバンド&劇場音楽だった。

『渋さ知らズ / 渋星 Live』(2004地底レコード) Featuring Marshall Allen(as), Walti Bucheli(fl), Michael Ray(tp) of Sun Ra Arkestra
『渋さ知らズ / 渋星 Live』(2004地底レコード)
Featuring Marshall Allen(as), Walti Bucheli(fl), Michael Ray(tp) of Sun Ra Arkestra

TG 作曲はどのようにするのですか?

MA 私は毎日作曲している。いつも何かを作曲している。バンドと演奏するときには、スポンテニアスに作曲している。今日感じるものを。バンドのメンバーはそれを理解していて、僕を見て、今度はどこへ行くのか?と問いかけてくる。だから私はここからスタートして、ひとりが何か加え、他の人が何か加え、みんなが何を加えていって、今までやったことないことをやってみよう、と導くんだ。

Akira Saito あなたにとって作曲と即興は同じものなのでしょうか?

MA それこそ私が今日どう感じているか、ということだよ。バンドのリハーサルでは、なにが正しいか、ではなく、今日は何が正しいと感じているか、ということを考える。秘訣は正しいときに正しいことをやることだ。正しいことでも、間違ったときにやれば間違いだからね。とてもシンプルだ。やりたいこと、やろうと思うこと、それは我々次第。スポンテニアスな精神でやること、それが重要だ。今まで知っていること、練習したこと、学んだこと、それは役に立たない。時々は役に立つけど、たいていは無用だ。

リハーサルでこうはじまった(歌ってみせる)としても、どこへでも行ける(歌い続ける)。やってみればとてもシンプル。メロディーがあるから、瞬時にアレンジできるんだ。(実例を歌ってみせる。途中からビバップ風のリズムが入る)どこへでも行ける。

基本的にサン・ラの音楽にはすべてにメロディーがある。どの曲にも明確なメロディーがあるから、自由にリズムやカウンターメロディーを付けられる。こんな簡単なことはない。何度考えても、音楽を創造するのに、これ以上いい方法はないと思う。

一方には自分が知っていることがあり、もう一方にはスピリットがある。スピリットの領域は自分には判らない。今この瞬間感じていることだから。どんなに知識があって事前にどんなに善し悪しを考えていても、演奏の瞬間に自分が何を感じるかは、そのときにならなければ判らない。それはスピリットの仕業であり、逃れることはできない。だから自分自身を頼りにしなさい。自分を頼ることを恐れてはならない。すべてをきっちり完璧に事前に用意しても、本番では機能しない。自分にできることをしなさい。自分の知らないところへ導いてくれるのはスピリットなのだから。

正しいやり方をすると、終った後とても気分がいい。なぜなら自分の知らなかったことをしたから。正しいことを正しいときにしたから。それによってハッピーになりエネルギーを得る。

TG ステージでは演奏や指揮をするだけではなく、踊ったりしていますね。

MA 自分がステージで何をやるかは判らないよ。前もって考えるのではなく、その場で感じるままにやっているから。何が正しいかは考えない。何が正しいか気にしてたら型に嵌ってしまう。型に嵌ったら何も面白いものは生まれない。やることすべて間違いにしてしまうから。すべてスピリットから生まれるんだ。正しいかどうかは、創造されたサウンドの中に答えがある。

正しいと判っていることをするのではなく、スピリット側の自分が知らないことをすることで、まさかできるとは思っていなかったことを成し遂げることができるのだから。

私はそんな風に考えている。だから今までやってきた。ステージに上がったら、どこに音楽があると思う?自分の中にあるんだ。それに従って演奏するんだ。スピリットに従ってダンスするときもあるだろう。そのようにして、演奏できる限り演奏して行くんだ。今年で92歳だけど、私はまだ演奏している。やりたいことをやっているし、まだまだ知らないことがある。スリリングだよ。

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TG 最後に長生きの秘訣を教えてください。

MA 音楽を演奏するとき、名声やお金や女のためではなく、幸福(Well-Being)のために演奏すること。自分の幸福のための音楽。幸福であれば素晴らしい日を送ることができる。大切なのは自分自身であることだけ。でも、お金のため、愛のため、憎しみのため、何かのために音楽を演奏する人が多い。

自分が幸福であるために音楽を演奏することで、力が漲り、人生が楽しくなり、感動を得て、創造的になり、知らないことをやって、正しいことをするスピリットの力を得られる。

女やお金や名声が欲しくて音楽をやっているんじゃない。お金がもらえない?それがどうした。音楽で自分の気持ちがよくなるなら、他のことは気にしない。もし演奏をやめて、音楽をやめてしまったら、生きる理由はない。音楽を演奏するために生きているのであって、生きるために音楽をやるなんて、退屈でしかない。自分自身の幸福のために演奏しなさい。それが第一だ。売れるか売れないかは関係ないんだ。

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剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。サラリーマンの傍ら「地下ブロガー」として活動する。著書『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰、即興アンビエントユニット「MOGRE MOGRU」&フリージャズバンド「Cannonball Explosion Ensemble」メンバー。

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