よしだののこのNY日誌 第7回(最終回)

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text and photos by 吉田野乃子 Nonoko Yoshida

日が暮れると一気に気温が下がるNY、冬がやってきました。

11月は自分のストーン・レジデンシーがあり、いろいろなプロジェクトで6夜連続のライヴを行いました。無事に終了してほっとしております。見に来ていただいた方々、応援してくださったみなさん、どうもありがとうございました。

私事ですが、11月いっぱいでNYを離れ、実家のある北海道に帰ることにいたしました。18歳で単身渡米してから、たくさんの人に支えられての、約9年半のNY生活、とんでもない(とても良い意味で!)体験をたくさんさせていただきました。お世話になった方々に心から感謝します。

今月見た、とっても素敵なライヴをふたつご紹介いたします。

<宇宙で一番好きなバンド>

■ 2015年11月3日(火)エレクトリック・マサダ@ヴィレッジ・ヴァンガード
John Zorn (sax) Marc Ribot (guitar) Jamie Saft (keyboards) Ikue Mori (electronics) Trevor Dunn (bass) Cyro Baptista (percussion) Kenny Wollesen, Joey Baron (drums)

ジャズライヴハウスの老舗、ヴィレッジ・ヴァンガードに、数年前にジョン・ゾーン一族が(ようやく!)初登場し、ほぼ全公演ソールドアウトになるという快挙をぶち上げてから、ゾーン師匠は、何度かヴァンガードでレジデンシー・ウィークを行っています。

前回の日誌で紹介もいたしましたが、エレクトリック・マサダは、ゾーン師匠の楽曲集『マサダブック』からの曲を演奏するマサダ・プロジェクトのバンドの一つで、その中でも「メンバーが豪華すぎてなかなかライヴができない」という贅沢なバンドです。私は、このバンドが宇宙一大好きで、ヨーロッパまで追っかけに行ったこともあるほどなのですが、帰国前にまた見られて本当に幸せでした。

基本的にはジャズバンドのように、作曲されたテーマを序盤と終盤に演奏するマサダ・プロジェクトですが、エレクトリック・マサダのライヴで注目すべきことのひとつは、ゾーン氏による即興演奏の指揮です。ゾーン氏の有名なゲームピース『コブラ』を、簡易化したようなハンドキュー(身振り手振りで合図を行うこと)を利用し、即興演奏を指示、リード、まとめるのです。例えば、まず指を指された数人が演奏を開始、途中、また違う数人が指名され、ゾーン氏が手を振り下ろしたら、次のグループが演奏開始(最初に演奏していた数名は止める)というのが基本形。演奏中の指示では、手のひらをひっくり返す動作は「今やっている演奏と違うことをやる」、手のひらをゆらゆらと波打たせる動作は「リズムのないノイズ即興」、ビートをカウントする仕草は「速いスウィングで即興」、物を書くような仕草は「今やっている即興を覚えておく(あとで「あれをやれ」という指示がでます)」、人差し指をクイクイ曲げる動作は「この人のやっている演奏を真似る」などなど、いろいろな合図があります。このような指示によって、即興演奏がオーガナイズされ、ゾーン氏がその場で演奏家と共に作曲をしているようになるのです。長年ゾーン氏と一緒に演奏しているこのバンドの人たちは、この複雑な指示の中でも楽しげに、自由自在に、スリリングな演奏を繰り広げ、観客は、矢継ぎ早に展開される即興演奏に、まるで、超人アスリート達によるスポーツの試合を見ているかのような気分にされるのです。まさにゲーム感覚です。この日一番面白かったシーンは、モリ・イクエさんのラップトップ・エレクトロニクスのノイズを「真似しなさい」という指示が出て、他のメンバーが自分の楽器でそれに近い電子音を出そうとしていたところでした。

“超人アスリート”と比喩しましたが、このバンドのメンバーはみなさんまさに超人ミュージシャン。それぞれのソロでもマジックが起こりまくります。マーク・リボー、ジョーイ・バロン両氏の各ソロでは演奏途中で大歓声があがりました。ゾーン師匠も絶好調で、絶叫ノイズから特殊奏法による変な音まで、縦横無尽のソロは圧巻です。ですが、私が一番好きな瞬間は、わけのわからないノイズをめちゃくちゃに繰り出したあと、とても綺麗なメロディーを、遠くまで突き抜けるような音色で師匠が吹く時なのです。ゾーン氏がサックスを吹く機会が年々減っていっているので(作曲やプロデュースの方が多くなっています)また見られてよかったです。「やっぱり師匠はすごい…」と思わされました。

2セット目ではまさかの、なにやら複雑なリズムの新曲披露もあり(恐らくこの豪華メンバーでは、当日リハしかしていないはずです)メンバーのみなさんが若干ドキドキしながら演奏している様子を見てこちらもなんだか緊張しました。

エレクトリック・マサダはやはり、宇宙一かっこいいバンドです。このバンドが生で見られたことは私の音楽人生にとって最大の幸福です。

ドラムのジョーイとエレクトロニクスのイクエさんがいませんが、一番お気に入りの動画を参考にご紹介いたします。
>> https://www.youtube.com/watch?v=pJkmTdoYQYE

写真はヴァンガード外の看板、これって、いつもこうやって手書きでしたっけ。なんだか良いですよね。

<れまさんのLPリリース記念ライヴ>

学生ビザを取得し、長期でNYにいられるようにするためという、若干不純な動機で通い、なんとか卒業できた、ハーレムにあるNY市立大学シティカレッジ校ですが、そこで、素敵なピアニストのお姉さん、蓮見令麻(はすみれま)さんに出会えたことは幸運でした。在学中はバリバリとビバップを演奏されていたれまさんは、卒業されてからNYの即興シーンのミュージシャンとたくさん共演され、ジャズを越えた、ご自身の言語を確立されています。

近くに住んでいると変に油断(?)してしまい、数ヶ月前にれまさんにお会いした時には実に2、3年振りの再会になってしまったのですが、私のストーンのライヴに来てくださったりと、また最後にNYで交流ができたことを大変嬉しく思っています。そんな、大好きなれまさんのLPリリースライヴに行ってまいりました。

■11月20日(金)UTAZATA@iBeam, Brooklyn
Rema Hasumi(piano/voice) Todd Neufeld (guitar) Thomas Morgan (bass) Billy Mintz (drums) Ben Gerstein (trombone) Sergio Krakowski (pandeiro)

即興演奏と楽曲の境目が見えないようなれまさんの音楽は、まるで水が流れるようです。ガツガツとリズムを刻んでいくのではなく、詩を読むように、歌うように、紙の上に筆で滑らかな線を描くように流れるのです。普段、個人的に、禅のスピリットに基づいて演奏されるような、ビートを極力避けるような即興を聞く時「なんだかダラダラしていて飽きてしまうなぁ…」ということもあるのですが、れまさんのこのバンドは、大きく緩やかに流れていくにも関わらず、常に緊張感とスピード感に溢れています。前へ前へと進む、強靭で俊敏なフレーズが、そこかしこにアクセントのようにちりばめられ、それが本流と交ざり、大きな河になり、渦巻いて流れていくようなのです。メンバーそれぞれの情熱的なパフォーマンスはとてもエネルギーがあり、それをまとめあげていくれまさんの楽曲は素晴らしかったです。途中で不意に聞こえてきたれまさんのボーカルにもうっとりしてしまいました。穏やかな優しさの中にも力強い意志と主張が聞こえる、とてもれまさんらしい素敵なライヴでした。今後、れまさんは、NYのライヴレポートもこちらに寄稿してくださるようなので、読者として楽しみにしています。

<最後のご挨拶>

完全帰国にあたり、このNY日誌も今回が最後になります。短い期間ではありましたが、書かせていただき楽しかったです。寄稿にあたりお世話になった剛田武さん、齊藤聡さん、本当にありがとうございました。つたない文章でしたが、NYでの楽しい音楽体験が、少しでもみなさまにお伝えできていれば幸いです。12月からは北海道を拠点に活動をして参ります。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。読んでいただき、本当にどうもありがとうございました!

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吉田 野乃子

1987年生まれ。北海道岩見沢市出身。10歳からサックスを始め、高校時代、小樽在住のサックス奏者、奥野義典氏に師事。2006年夏、単身ニューヨークに渡る。NY市立大学音楽科卒業。ジョン・ゾーンとの出会いにより、前衛音楽の世界に惹かれる。マルチリードプレイヤー、ネッド・ローゼンバーグに師事。2009年、前衛ノイズジャズロックバンド"Pet Bottle Ningen(ペットボトル人間)"を結成し、Tzadikレーベルより2枚のアルバムをリリース。4度の日本ツアーを行う。2014年よりソロプロジェクトを始動。2015年10月、ソロアルバム『Lotus』をリリース。現在、活動拠点を北海道に移す。

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