Hiromi Inayoshi / 稲吉紘実

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追悼 ポール・ブレイ

私が武蔵野美術大学の学生時代[1970年代]、当時、国分寺にあった村上春樹のJazz Bar&喫茶 ピーターキャットに毎日のように通っていた。当時はキース・ジャレットを筆頭に、ソロピアノブームで、武道館でキースやチック&ハービーのソロピアノコンサートが開催されるほどであった。その中でも、ポール・ブレイは私にとって、とりわけ異色のピアニストだった。大学生の私にとっては、もう一段上の美意識への階段を上がるような、そんな感覚で、彼のアルバムを聞き、次第にポール・ブレイの虜になっていった。特に、Open, to love[ECM]はそのピアノの耽美的で、静謐な美しさに魅了された。それにもまして、私自身、美大でグラフィックデザインを学んでいたこともあり、そのレコード・ジャケットの線で表現されたグラフィカルなデザインの美しさにも衝撃を受けた。
このOpen, to loveのジャケットのデザインは当時のECMのジャケットの中でも、特に秀逸だった。

それから、20年以上の年月を経て、ポール・ブレイとの邂逅が訪れることになるとはその当時には夢にも思わなかった。それは、1999年に私のデザイン会社、スーパーグラフィックの創立記念式典として、ポール・ブレイのピアノソロ・コンサートをサントリーホールで開催したのだ。デザイン会社の創立イベントをポール・ブレイで、それもサントリーホールを借り切って開催するなど、前代未聞だった。そのプロデューサーは稲岡邦弥氏だ。当時、稲岡氏は私、稲吉紘実の個人プロデュースも予てくれており、この時期に、タイミングよくポール・ブレイの日本でのツアーを稲岡氏がプロデュースしていたことで、この歴史的な、創立記念コンサートが実現したのである。

サントリーホールのピアノはベーゼンドルファーで、リハーサルなしで、ポール・ブレイは弾き始めた。ポーンと一音鳴らした瞬間に、彼の顔が一瞬ほころんだ。最高の音色だ、そして一気に休憩なしに一時間以上、弾きまくった。見事だった。アルバムとはまた違う、勢いと迫力があり、リズミカルで、テンポも抜群だった。最後はポール・ブレイ風マイ・ウエイだ。私は20年以上憧れたピアニストが、それも私のために、目の前で弾いてくれているというだけで、涙がこぼれ、終始夢ごこちであった。会社の創立記念式典なのに、誰の挨拶も無く、ただ、ポール・ブレイが出てきて、拍手が沸き、ピアノを弾き終わり、拍手で終わるというCOOLな演出だった。

私はこのコンサートの御礼にと、ポール・ブレイのパーソナルマークをデザインした。パーソナルマークとは私の特許のようなもので、個人のシンボルマークである。見たままを描く肖像絵画の流れを変える、新たな芸術形態として、現在、ダライラマ法王、タイ王国国王陛下、ブルネイ王国国王陛下を始めとする国家元首や、ノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌスら、世界的VIP、文化人、アーティストと数百人のパーソナルマークを創作しているが、記念すべきパーソナルマークの第一弾、一人目がポール・ブレイであった。このパーソナルマークはポール・ブレイも大変に喜び、またアーティストであるポール・ブレイの奥さんも絶賛し、来日時に制作された、稲岡氏プロデュースの『ECHO-ポール・ブレイ with 富樫雅彦』のCDジャケットのアートにしたいということになり、そのCD ジャケットも全面的に私がアート・ディレクション、デザインすることになったのである。

先日、私の作品集の中に、このCDのアートワークを掲載しようと、久しぶりに取り出してきて、聞いていた矢先、ポール・ブレイの訃報を稲岡氏から聞き、大きな驚きとショックの中で、この追悼文を書いている。

しかし、憧れと尊敬のミュージシャンとこのようにコラボレーションできたという思い出は一生の宝であり、ポール・ブレイの音楽は永遠に不滅であり、これからも人類の美意識の進化への向上に、大いに貢献し続けていくと私は信じている。(ポーランド国立ストゥシェミンスキー美術大学教授)

1999年6月1日 サントリーホール ⒸSuper Graphic Co.,Ltd.

 


Hiromi Inayoshi / 稲吉紘実
マーク・ロゴデザインの第一人者であり、CI教科書「NEW DECOMAS」[三省堂]にて、世界を代表するCIデザイナーの一人に選出される。企業・団体のCIデザインを数多く行い、1990年代後半よりパーソナルマークという、グラフィックデザインと芸術の新たな分野を確立する。ニューヨークADCアドバタイジングポスター部門で日本人として初めて2つのゴールドメダルを同時に受賞した他、内外で数多くのデザイン賞を受賞している。
また、20代に、ジョン・コルトレーンの「私は聖者になりたい」に啓発され、現在ではソーシャルデザイン、ソーシャルアートの先駆者として、国連で「フィランソロピーシンボリック-稲吉紘実 展」が開催されるなど、デザインと芸術、そして社会貢献・平和活動における真のイノベーターとして、グローバルに活動している。

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