連載第11回 ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報

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text by シスコ・ブラッドリー (Cisco Bradley)
translated by 齊藤聡 (Akira Saito)

クレイグ・テイボーン Craig Tabornというピアニストの2つの側面
The Stoneにおいて、1月の最終週、クレイグ・テイボーンが6夜の演奏を行った。待望のレジデンシーである。テイボーンが、90年代半ばの登場以来もっとも才能があり革新的なピアニストだということは、多くが認めるところだ。ここでも、魅惑的な幅広いパフォーマンスをみせた。毎晩異なるバンドをフィーチャーし、ニューヨーク・シーンの多くの卓越した演奏者たちとの長い関係を引き出すとともに、何度かは、その場限りの新しいフォーメーションを創ったりもした。この週は大成功で、さまざまな音楽的なアイデアのショーケースだった。以下に、そのなかから2回のセットを見てみよう。

1月27日―「The External」:クレイグ・テイボーン、メッテ・ラスムッセン Mette Rasmussen、チェス・スミス Ches Smith
水曜夜のセカンド・セットは、テイボーンとドラマーのチェス・スミスをフィーチャーした。ふたりは、スミスのトリオで何度も共演している。さらに、デンマークのアルトサックス奏者メッテ・ラスムッセンが加わった。4曲の激しいエネルギー・ミュージックは、それぞれ異なる形を取った。かれらは初っ端からがっちりと美的に融合したため、前々から共演してきたユニットだと思う者もいただろう。テイボーンは恐れ知らずの光速プレイで知られている。スミスは多彩なポリリズムを繰り出すドラマーであり、強度と、想像力のあるインプロヴィゼーションとが両立していた。そして、ラスムッセンは果敢で自信満々、焼け付くようなサックス奏者であり、他のふたりと噛み合ったり、前面に立って先導したり。最初の曲は可能な技を尽くした禁じ手なしの演奏としてはじまり、テイボーンの短いソロで締めくくられた。2曲目は一転し、ときに演奏者が各々のカラーを発散して、ダークな背景とのコントラストをくっきりと描き出した。
3曲目は、ラスムッセンとスミスとの長い瞑想的なデュオではじまったが、テイボーンが加わるや、演奏が沸騰して前に進み始め、がっちりと融合し、長いクライマックスに向けてどんどん強くなっていった。最初のピークのあとは、次の波に備えたインタリュード。時が来た。エネルギーが奇跡的にフリージャズ・即興音楽と噛み合ってエクスタシーにまで到達し、そして、流れるような、ソウルフルな音の魔法へと溶けていった。スミスが整然としたリズムで入ってきて落ち着かせ、最後はサックスとピアノのデュエットで終わった。テイボーン、スミス、ラスムッセンは、この夜を洗練された即興で締めくくった。美的なパレットの中で各演奏者が言いたいことを言い、そのエネルギーの上で、ふたたびピークに突き進んだ。このセットを通じて、バンドは融合し、奇跡的なほど親密になり、ためらわずお互いの感情を喚起するように呼応しあい、インタラクティヴなインプロヴァイザーとしてのポテンシャルを余すことなく発揮した。信頼、決断、外に向けられたエネルギーで聴く者を抱擁せんとする欲望が、かつてないほど酔いしれる夜を生み出したのだった。最初の音から、テイボーン、スミス、ラスムッセンは深く融合し、決して後ろを振り返らなかった。

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photos by Peter Gannushkin

1月29日―「Otherworldly」:Farmers by Nature

金曜日の夜は、テイボーン、ベーシストのウィリアム・パーカー William Parker、ドラマーのジェラルド・クリーヴァー Gerald Cleaverによる「Farmers by Nature」が、先のセットとは実に対照的な音楽を提示した。Farmers by Natureは10年近く活動しているバンドであり、メンバー3人の多忙さゆえ、ライヴ演奏は珍しい。しかし、いざ3人が一堂に会するや、誰かが演奏すると他が呼応するという緊密な関係が披露され、実に悦びに満ちた演奏となった。かれらはお互いに深くリスペクトしあっており、それぞれのアイデアを出して発展させるだけではなく、音楽のヴィジョンを持ち寄って結実させることにより、この音楽を成立させている。
ファースト・セットでは、かれらは長い即興を演奏した。セット全体を通じて、各人による展開が持ち込まれては昇華され、音楽が直感的なコラボレーションで満ちていた。瞬間ごとに、3人の匠たちはお互いを認識しあい、深く強い音楽的な対話をしているのだった。テイボーン、パーカー、クリーヴァーは、信頼と親密さによって緊密な関係を持ちつつ、それぞれソロを繰り出した。この音楽には強く堅固な中心があって、それが変貌しようとも、絶えず前進しようとする力によってなのか、あるいは粘り強い展開によってなのか、常に地に足が着いている。テイボーンは、グループをピークに向けて引っ張るエキサイティングな演奏をみせた。クリーヴァーの直接的ながら控えめなスタイルは、光の明滅のように進むべき道を示した。パーカーは、2本の弓がそれぞれ音楽の別の側面を示すような、独創的な演奏を見せた。かれらが創り出す音楽は、揺らめくカーテンのように空中に漂い、われわれが触り、聴き、視ることのできる閾と、さらにその向こうに存在するものを現出させた。かれらは、深遠で正直な音楽の身振りによって、断崖絶壁を歩き、聴く者を旅に連れ出し、望む者にはヴェールの向こうを垣間見せることさえもするのだった。

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Farmers by Nature at the Vision Festival, photos by Peter Gannushkin

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Farmers by Nature 『Love and Ghosts』

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以上がニューヨーク・シーンの最新動向である。

シスコ・ブラッドリー 2016年1月31日
(Jazz Right Now http://jazzrightnow.com/


【翻訳】齊藤聡 Akira Saito
環境・エネルギー問題と海外事業のコンサルタント。著書に『新しい排出権』など。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley

ブルックリンのプラット・インスティテュートで教鞭(文化史)をとる傍ら、2013年にウェブサイト「Jazz Right Now」を立ち上げた。同サイトには、現在までに30以上のアーティストのバイオグラフィー、ディスコグラフィー、200以上のバンドのプロフィール、500以上のライヴのデータベースを備える。ブルックリン・シーンの興隆についての書籍を執筆中。http://jazzrightnow.com/

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