連載第12回 ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報

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text by シスコ・ブラッドリー (Cisco Bradley)
translated by 齊藤聡 (Akira Saito)

チェス・スミス Ches Smith『The Bell』

『The Bell』(ECM、2016年)は、チェス・スミス Ches Smith、クレイグ・テイボーン Craig Taborn、マット・マネリ Mat Maneriのグループによる最初の作品であり、掛け値なしの傑作、2016年のベスト上位に入ってくることは確実だ。ドラマーであり作曲も手掛けるチェス・スミスがリーダーを務め、とても野心的なプロジェクトとなっている。

スミスはNYシーンにおいて同世代でもっとも優れたドラマーのひとりだ。さらに、いま全世界を見渡しても最も成熟し独創的なピアニストのひとりだと言えるクレイグ・テイボーンと、ジャズでも即興音楽でも似た者がいない、信じられないほどディープなヴィオラ奏者のマット・マネリとが参加している。彼らの幅広さと能力は、お互いのプレイを補い合っている。また、スミスの巧く複雑なポリリズムが、控えめながら音楽を推進している。そして、彼らはこのグループでさらなる成熟をみせる。

テイボーンは、サックス奏者ティム・バーン Tim Berneとの共演や彼自身の先鋭的なグループにおける演奏での長い経験を持ち込んでいる。いまの彼には、洗練されたアーティスティックなヴィジョンを表現にまで昇華する仲間がいるのだ。この盤の演奏においては、音楽性が、またさらに高いところへと持ち上げられ続けている。

リード奏者のレジェンドたるジョー・マネリの息子マット・マネリは、この4年ばかり、彼の代名詞とも言える微分的な音での演奏や、ヴィオラ仲間のタニヤ・カルマノーヴィッチ Tanya Kalmanovitchと組んでの洗練された作曲や、比肩する者のないヴィオラの即興演奏の能力によって、シーンに再登場してきている。彼がいるだけで、不確実さと不安定さのクスリが投与され、リスナーの期待感が高まるのである。

『Bell』では、スミス、テイボーン、マネリがお互いに深くリスペクトしあっていることがわかる。お互いにじっくりと、発展し、変貌し、結びつくためのものを与えあっているのである。曲はゆっくりと展開しては引き、自然に流れてゆく。その間、各々のプレイヤーには、思い思いの演奏ができる自由がある。彼らがやっていることは、普通でないアイデアの上に稀有な美しさを構築することであり、ときには、対位する要素を入れ替えたものであったりもする。スミスは特に我を通すでもなく、パーカッションを叩いていても、他のふたりにスポットライトが当たるように図ったりしている。

本盤を聴き逃してはならない。耳が肥えたジャズ・即興音楽のファンの注目も集めてしかるべき作品である。

 

マイケル・フォスター Michael Foster+レイラ・ボルドレイユ Leila Bordreuil『The Caustic Ballads』

愉しさと苦痛との関係というものが、サックス奏者マイケル・フォスター Michael Fosterとチェロ奏者レイラ・ボルドルイユ  Leila Bordreuilとの新しいデュオ盤の焦点である。ふたりとも、この数年間にNYシーンに登場してきて、予想を裏切りしきたりを打破する勇気あるアーティストだと見なされている。フォスターもボルドルイユも、即興シーンで活動してはいるのだが、ノイズ・ミュージックからの影響も受けている。ふたりはバード大学在学中に出会い、8年もの間共演してきていた。『The Caustic Ballads』(Relative Pitch、2016年) はその最初の作品だ。

表面的には、とても親密に聴こえる。多くの小さな音が、不協和音として散りばめられて、よじれ、構築され、クライマックスを迎え、音楽のムードを抑えていく。ふたりは、短い曲において、素早く展開し、相互作用できないかと模索しながら、じっくりと演奏している。

しかし、その下では、獰猛な美しさやナマの欲望にともなう緊張感が常にあり、お互いに押しのけつつ、ときに爆発したり、ときに無視したりしている。曲のタイトルは割と明快で、たとえば「楽しさと残酷さ」、「あなたの一撃、わたしの恐怖」、「鞭打ちと身体」、そしてタイトル曲「辛辣なバラード」といった具合。

フォスターとボルドルイユとは、創りだす音楽において極めて想像力豊かであり、人間の欲望、サドとマゾ、さまざまな禁断の性的表現、愉しさと苦痛といったものに恐れることなくアプローチしている。

以上が、最新のNYシーンである。

シスコ・ブラッドリー
(Jazz Right Now http://jazzrightnow.com/


【翻訳】齊藤聡 Akira Saito
環境・エネルギー問題と海外事業のコンサルタント。著書に『新しい排出権』など。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley

ブルックリンのプラット・インスティテュートで教鞭(文化史)をとる傍ら、2013年にウェブサイト「Jazz Right Now」を立ち上げた。同サイトには、現在までに30以上のアーティストのバイオグラフィー、ディスコグラフィー、200以上のバンドのプロフィール、500以上のライヴのデータベースを備える。ブルックリン・シーンの興隆についての書籍を執筆中。http://jazzrightnow.com/

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