ジャズ・ア・ラ・モード 2. ダイナ・ワシントンのサック・ドレス

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2. ダイナ・ワシントンのサック・ドレス  

Dinah Washington’s sack dress: text by Yoko Takemura 竹村洋子

photos: Used by permission of the University of Missouri-Kansas City Libraries, Dr. Kenneth J. LaBudde Department of Special Collections

1958年のアメリカ東海岸ニューポートで催された第5回ニューポート・ジャズ・フェスティバルを記録した『真夏の夜のジャズ(Jazz on A Summer’s Day)』(1960年公開)は出演者の顔ぶれ、演奏のみならず、編集、映像も素晴らしいドキュメンタリー映画(監督:バート・スターン)だ。観客も皆、お洒落だった。
ダイナ・ワシントンもこのフェスティバル出演者の一人だった。この映画の中には、何人かの素晴らしい女性シンガー達が登場するが、私が最初にこの映画を見たのは70年代に入ってからだったが、今でも個人的に一番ショッキングで好きなのはダイナ・ワシントンだ。

ダイナ・ワシントンは1924年8月29日生まれ(チャーリー・パーカーと同じ誕生日)でこの時、34歳。シンガー歴はすでに20年を超えていた。

映画の中では<All of Me >を大きなシルエットの白いサック・ドレス姿で歌う姿はとても新鮮で衝撃的だった。

映画では、ダイナの<All of Me >は彼女の登場と共に、この白いサック・ドレスの裾の方にアクセントでついている大きなリボンのクローズアップから始まる。そして観客の映像などを交えながらダイナの全体像を、途中からテリー・ギブスのマレットを持ち一緒に演奏を楽しんでいたダイナの様子まで捉えている。そしてパフォーマンスの終盤にドレスを上から下へ、最初に始まったリボンへ とカメラが追っていく。

サック・ドレス(sack dress)のサックとは、文字どおり袋のこと。農作物を入れたりする粗布や、厚紙でできたアメリカのスーパーマーケットでよく使われる大袋のことだ。
袋のようなシルエット、ウエストに切り替えがない袋型のワンピースを総称して言う。
サックドレスは1957年にバレンシアガやジバンシーがパリ・コレクションで発表した。それまでの50年代のドレスはウエストをマークしたフィット&フレアのドレスが主流で、このサック・ドレスはパリ・コレクションでも画期的なスタイルだった。

誰がこのドレスをダイナにコーディネートしたのだろうか?
ダイナのサック・ドレスはステージ・コスチュームなので、パリコレで発表されたシンプルなものより多少は装飾がある。裾のリボンだ。
この夜のこのドレス以前のダイナは、ほとんど肩を大きく開いたドレス、ローブ・デコルテを好み、アクセントに毛皮のショールやストールをよく纏っていた。アクセントというより体型カバーかもしれない。
彼女の体型はあまり素晴らしいとは言えない。歌の巧さで勝負していた人なのだから、体型云々をここで詳しく言うつもりはないが、はっきり言って、太め
彼女のアルバムカバーには全身を撮ったものがないのも解るような気がする。ほとんどが肩から上のポートレイトなのだ。

このダイナがサック・ドレスを身にまとい、体の欠点(?)を見事にカヴァーし、<All of Me >を熱唱する。そりゃ、堂々と歌えるでしょう!と思う。
動きやすさ抜群の最先端のデザイン、しかも体型をもカバーしてくれるドレスを着ているのだから。
ヘアー・スタイルにも変化が見られる。短くカットし、モダンに洗練された女性に大変身してしまっているのだ!アクセサリーはイヤリングのみ。ダイナは大きめのイヤリングがお気に入りだったようだ。これはずっと変わらない。大きくパッチリとした目のチャーミングな顔にどれもよく似合う。

ダイナ・ワシントンはシンガーとしてのキャリアもさることながら、プライベートでも波乱に満ちた生涯を送った。1942年から亡くなる1963年までの間に8回結婚し、7回離婚している情熱的な女性だ。何事にも物怖じしないでチャレンジして生きて行ったのだろう。
1958年のあの夜のサック・ドレスはそんなダイナ・ワシントンの大きなチャレンジのうちの一つだったかもしれない。この映画の中のサック・ドレスは彼女に大きな自信を与えたに違いない、と思う。

サック・ドレス自体は60年代にかけて大きな流行となっていき、日本でも大流行する。
その後の彼女の写真の中に、たった1枚 サック・ドレス姿があった。ロス・アンジェルスでサミー・デイヴィスJr.と一緒にダンスをしている写真だがジャズ・フェスティヴァルの映像で見た時の衝撃は全くない。

このコラムのシリーズを書くにあたり、 University of Kansas City of Missouri のチャック・ヘディックス氏とライブラリーの写真他資料の担当責任者のケリー・マーティン氏が写真提供を快諾してくれた。私がカンザス・シティにを訪れる際、毎回彼らの膨大な資料に目を通していた事もこのシリーズを書き始める大きなモチベーションになっている。その資料の中に面白い写真を見つけた。ダイナ・ワシントンがシリーズ1回目の『チャーリー・パーカーのストライプスーツ』で取り上げたストライプスーツのレディス・ヴァージョン(?)を着て歌っている姿だ。ダイナの写真はほとんどがちょっと垢抜けないドレス姿で、このようなスタイルの彼女は極めて珍しい。チャーリー・パーカーと同じ誕生日(8月29日)の彼女をバードの次に取り上げたのも、この写真がきっかけである。

 

*『真夏の夜のジャズ(Jazz on A Summer’s Day)』より

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竹村洋子

竹村洋子

竹村 洋子 Yoko Takemura 美術学校卒業後、ファッション・マーケティングの仕事に携わる。1996年より、NY、シカゴ、デトロイト、カンザス・シティを中心にアメリカのローカル・ジャズミュージシャン達と交流を深め、現在に至る。主として ミュージシャン間のコーディネーション、プロモーションを行う。Kansas City Jazz Ambassador 会員。KAWADE夢ムック『チャーリー・パーカー~モダン・ジャズの創造主』(2014)に寄稿。Kansas City Jazz Ambassador 誌『JAM』に寄稿。(2016)

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