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このパフォーマンス2017(海外編)No. 237

#05 このライヴ/コンサート 2017(海外編)

text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

2017年9月17日
巻上公一ディレクション
ヒカシュー xクリス・ピッツィオコス@せんがわ劇場(Jazz Art せんがわ)

2017年10月20日
オカベ・ファミリー (Okabe Family)@PitInn新宿

2017年10月28日
ヒロ・ホンシュク&ハシャ・フォーラ(Racha Fora)@新東京会館 高円寺
(阿佐ヶ谷ジャズ・ストリート)

残念ながら年々ライヴに出かける機会が減っている。今年聴いた中で海外編として3本取り上げたが、いずれもJazzTokyoがらみで気がひけるが、音楽にかけるひたむきさ、真摯な態度が共通してみて取れ、心打たれた。9月17日のJazzArtせんがわの巻上公一ディレクションでヒカシューとコラボしたNYの若きインプロヴァイザー、クリス・ピッツィオコスはJazzTokyoのコントリビューター剛田武が早くから目をつけ様々な形で誌面を通して紹介の労を取ってきた。そのクリスのプロとしての初来日がベストの形で実現し剛田も感無量だったに違いない。アルトのインプロヴァイザーで同時代を生きたスタイリストは、阿部薫、ペーター・ブロッツマン、アンソニー・ブラクストン、姜泰煥、坂田明、ジョン・ゾーンなどと少なくないが、クリス・ピッツィオコスはもちろんそのどれとも違う。せんがわJazzArtでのクリスはパイプ椅子に座りアルトを斜めに構えいきなりマルチフォニクスを循環呼吸で高らかに奏し始めた。パイプ椅子に腰をかけたのには驚いたがその耳をつんざくようなファンファーレのようなハイトーンの持続音の洗礼にはもっと驚いた。後半ではビットのような単音の速射砲を浴びせかけられもしたが、僕には終始ゲーム音楽のようなイメージがまといついて離れなかった。2部ではヒカシューのゲストとして参加したが、クリスについて知るためにはもっと様々なセッティングで聴いてみる必要があると思った。もちろんその卓抜な技術は端倪すべからざるものがあることは充分承知した上でのことだが。

オカベ・ファミリーは、オランダ・ハーグから来日した岡部源蔵率いるスペイン、カナダ、イタリア出身ミュージシャンからなるマルチ・ナショナル・カルテットで、3作目のアルバム『ディスオリエンタル』リリースに際しての日本ツアー。傑出した個々のテクニックとグループとしての8年間のキャリアがものを言い、水も漏らさぬ緊密なアンサンブルを聴かせる。そのゆるぎのない緊密さとセッションを通じて持続される緊張感が心地良い反面、ある意味での破綻や遊びが恋しくなるというリスナーのわがままにどのように応えてくれるか。ちなみに新作のタイトルは『Disoriental』で、“見知らぬ”という意味を持つ。岡部によれば、“極東の小さな島国で生を受けた作者が、ほぼ人生の半分を母国から離れてマイノリティーとして生きる中で、アーティストとしての表現を模索した作品”。いわば、音楽を通した“自分探し”の旅で、同じような境遇のメンバー全員の強い共感を得たであろうことは想像に難くない。

ヒロ・ホンシュクこと本宿宏明はボストンに住むJazzTokyoの管理者で、コントリビューターとして毎号「楽曲解説」で独特の音楽観を披瀝している。「ハシャ・フォーラ」としては3度目の来日だが、フロントのヒロ・ホンシュク(fl)とリカ・イケダ(vln)を除いて毎回異なるメンバーを伴う。心の師マイルス・デイヴィス関連とオリジナルでレパートリーを固めながら、帯同するメンバーにより音楽の表情が変わっていく。オリジナルは現実の師ジョージ・ラッセルの理論(リディアン・クロマティック・コンセプト)に拠って作曲されており、同じくラッセルの理論に拠ったマイルスの楽曲と通底する。つまり、両者共通の師であるジョージ・ラッセルを通じてホンシュクとマイルスをつなぐリンクが完成したことになる。「ハシャ・フォーラ」の演奏は、バンドを構成するメンバーによって音楽の表情が変わってくる。ホンシュクがメンバーの技量や持ち味を引き出すアレンジをそのつど施すからだ。今回はロックにも通じたギタリスト(アンドレ・ヴァスコンセロス)とカホーンのエキスパート(セバスチャン ”Cバス” チリボガ)の参加を得て、表現の振り幅が飛躍的に拡大され、意外性も加味された。新作CD『Happy Fire』では<サマータイム>でその醍醐味がいちばん発揮されていたのだが、楽しみにしていたライヴではその<サマータイム>が演奏されなかった。ホンシュクによると夏でもないのに<サマータイム>はないだろうと、周囲の誰かにアドバイスされたのだという。そういう常識はずれとも言えるホンシュクの生真面目さが<ハシャ・フォーラ>のライヴにエンタテインメント性を欠く一因にもなっているのでは、と思ったりもした。

なお、それぞれの演奏の詳細については本誌に大変優れたレポートと分析が掲載されているのでぜひ参照願いたい。クリス・ピッツィオコスについては齊藤聡と剛田武、定淳志のライヴ・レポートが、Oakabe Familyの『Disoriental』については、悠雅彦主幹と金野吉晁のCDレヴューが、ハシャ・フォーラについては望月由美、小西啓一、今村健一のCDレヴューと淡中隆史のライヴ・レポート、横井一江副編集長のヒロ・ホンシュクのカバー・ストーリーに加えて、ホンシュク自身による楽曲解説まで。さらには、タワーレコードのフリー・マガジン「intoxicate」Vol.130に掲載された淡中隆史のCDレヴューまで目が通せれば完璧である。(稲岡邦彌)

♪ クリス・ピッツィオコス
https://jazztokyo.org/reviews/live-report/post-20041/
https://jazztokyo.org/reviews/live-report/post-21447/
https://jazztokyo.org/reviews/live-report/post-21362/
https://jazztokyo.org/reviews/live-report/post-21334/
♪ オカベ・ファミリー
https://jazztokyo.org/reviews/cd-dvd-review/post-16134/
https://jazztokyo.org/reviews/cd-dvd-review/post-16155/
♪ ハシャ・フォーラ
https://jazztokyo.org/reviews/cd-dvd-review/post-20474/
https://jazztokyo.org/reviews/cd-dvd-review/post-20486/
https://jazztokyo.org/reviews/cd-dvd-review/post-20682/
https://jazztokyo.org/reviews/live-report/post-22217/
https://jazztokyo.org/column/reflection-of-music/post-22388/
https://jazztokyo.org/column/analyze/racha-fora-happy-fire/

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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