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このディスク2018(国内編)No. 249

#09 『廣木光一・渋谷毅/Águas De Maio 五月の雨』

text by Akira Saito 齊藤聡

hirokimusic  BIYUYA-008

廣木光一 (g)
渋谷毅 (p)

1. O Mundo É Um Moinho 人生は風車 (Cartola)
2. He Is Something (HIROKI Koichi)
3. Águas De Maio 五月の雨 (HIROKI Koichi)
4. Kozue (HIROKI Koichi)
5. On A Slow Boat To Taiwan (HIROKI Koichi)
6. Carinosa (Traditional)
7. Cíclame Branco
8. Frenesi (HIROKI Koichi)
9. Feitio De Oração 祈りのかたち (Noel Rosa)
10. Cooljojo (HIROKI Koichi)
11. Beyond The Flames (SHIBUYA Takeshi)
12. Sleeping Jojo (HIROKI Koichi)

プロデューサー:廣木光一
エンジニア:菅原直人
録音:2018年5月16日、17日 オルフェウス スタジオ
アートワーク:廣木光一

『So Quiet』(Mugendo、1998年録音)を、出た当時から今に至るまで繰り返し聴いている。本盤はそれ以来2枚目のデュオ作品であり、もう20年も経っているのかと驚かされる。

再演曲は2曲である。「He is Something」(廣木)は故・武田和命のために書かれた曲。新旧の演奏を比較してみると、新しい方がすこし溌剌としているように聴こえる。主旋律という物語の語り手が廣木であり、渋谷の合いの手を挟んで、また廣木へと戻る。

そして、多くの渋谷毅ファンが愛しているであろう「Beyond the Flames」(渋谷)、場合によっては「無題」。やはり、たゆたい循環する渋谷のピアノが中心にある。20年前の演奏では広くギターが重なっていたが、本盤では、主にピアノの節目においてギターが介入し、その呼吸と緊張とが動悸を引き起こす。2分過ぎにギターがピアノに重なる音を聴いてほしい。筆者はここであっと叫んでしまう。

あるライヴハウスで幕間にこの曲が流され、テナーの植松孝夫が浅川マキの思い出をぽつりぽつりと呟いたことがあった。渋谷は浅川マキのライヴでもよく演奏し、また、浅川マキ自身のアルバム『闇の中に置き去りにして』でも弾いている。良い曲とは、記憶と言葉を介してまた別の記憶へと伝わってゆくものに違いない。

最近のライヴで廣木がよく演奏する「人生は風車」(カルトーラ)や「Frenesi」(廣木)など、他の曲にもとても惹かれるものがある。

渋谷毅の、包み込むような、余裕をもってノンシャランとした呼吸のピアノ。それに対して、気持ちよく別の音色で並走する廣木光一のギターは、清冽な湧き水のようだ。何気なさを装いつつも、圧倒的に強靭な音を出すふたりのデュオである。

(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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