連載第20回 ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報

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text by シスコ・ブラッドリー (Cisco Bradley) and ジョン・モリソン (John Morrison)
translated by 齊藤聡 (Akira Saito)

I. マシュー・シップ・トリオ『Piano Song』

高名なピアニスト・作曲家・バンドリーダーであるマシュー・シップ Matthew Shippの新作『Piano Song』は、彼がジャズのイディオムを扱う現代のマスターであることを示すものだ。30年近くにわたり、シップは様々なスタイルやアンサンブルを通じて、独特で誰にも真似できないアプローチを展開してきた。彼のトリオ作品(ドラムスのニューマン・テイラー・ベイカー Newman Taylor Bakerとベースのマイケル・ビシオ Michael Bisioをフィーチャー)は、ときに驚くほど集中しており、ジャズの幅広い美的世界を包み込んでいる。シップの演奏はメロディー的に自由であり、普通のテーマという罠に挑んでおり、魅力的だ。にもかかわらず、録音に対する関係は複雑になっている。この何年も、いつかは新しい音楽を録音することをやめるんだと公に発言しているのである。シップは、最近のヴィレッジ・ボイス誌でのインタビューにおいて、既に日取りを決めてしまったものを除いて、『Piano Song』が彼の最後の新録かもしれないと述べた。リーダーやサイドマンとして60枚以上の録音をリリースしたシップにとって、スタジオでのキャリアが終わりに近づいているかもしれないのだ。しかし、『Piano Song』は、シップと彼のトリオがいまだ少しの魔法を捉えていることを証明している。

ゴージャスで均等なペースの「Links」では、シップがコードの豊富な層を繰り出し、繊細かつ変化する曲のテーマに重ねてゆく。アルバム全体で使用する演奏スタイルは、メロディーによるビバップ的な感性と自由な探求の間を行き来するようなものであり、冒頭曲でそれを短く意図的に提示したわけである。「Cosmopolitan」は滑らかなウォーキング・ベースからはじまる。シップの激しくリズミックなスタイルは明らかにバップだが、それは、堂々とひっくり返し、アブストラクトなものにしたバップだ。シップが描く鋭く不規則なラインは、メロディーとハーモニーとの間、協奏とソロとの間の境界を揺るがす。3分頃にトリオの役割が見えてきて、ビシオは昔からのファンキーなベースソロに踏み込む。まもなく、緊密かつ正確にシップとベイカーとが再度加わって軌道に戻り、そして、ベイカーが前面に出て激しいソロを取る。

「Flying Carpet」では、はじめは、信じられないほどシンプルなコードが、ドラムの安定した速度とベースのグルーヴの上で浮遊する。シップは段階的に激しく強靭になってゆき、その都度、時間とリズムの形が軽快にシフトし、やがて、軽い和音が重いクラスタになり、その一方でトリオの役割が「柔らかい」ところへと後退する。そして、激しくて遊び心のあるベースとドラムのデュオ「Scrambled Brain」から、過激に暗くてミニマルな雰囲気の「Void Of」に至るまで、トリオの演奏は慎重でありながらも熱い。

『Piano Song』全体を通じて、シップ・トリオは、ヘヴィで強い演奏によって、明確な方向性と目的性とを持った各曲に、火を点けている。メンバーの個性とインタープレイの感覚が、ナマのエネルギーとパワーの胎動をもって、音楽を脈打たせている。鋭い光の明滅の間に、優しさと繊細さの深く暗い影を見せてくれるものだ。シップが録音の場から身を引くという約束を果たすかどうかはまだ分からない。しかし、仮に最後の作品であったとすれば、『Piano Song』は激しく強く最終的な作品であったのだ、と、確信を持って言うことができよう。

text by ジョン・モリソン John Morrison

フィラデルフィア在住のライター、DJ、プロデューサー。ソロ・アーティストとしても、デビュー作となるヒップホップのアルバム『SWP: Southwest Psychedelphia』(Deadverse Recordings)をリリースしたばかり。ツイッターとインスタグラムは@John_Liberatorをフォローされたい。

II. ジェームス・ブランドン・ルイス featuring アンソニー・ピログ(セル・シアター、2017年1月11日)

ジェームス・ブランドン・ルイス James Brandon Lewisのトリオが、2017年1月11日、セル・シアターにおいて、刮目すべきパフォーマンスを展開した。2016年10月にBNS Recordsよりリリースされた新作『No Filter』(適切なタイトル!)から、素晴らしいオリジナル作品を演奏した。最近のニューヨーク・シーンで最も有望な才能のひとつとして着実に評価されてきたルイスは、サックス奏者と作曲家の両方として、勇気とヴィジョンとを示した。ルイスは、開始早々から6曲を終えるまで、深くソウルフルな炎を燃やし続けた。それが彼の人生であるかのように。

リズム・セクションは、エレクトリック・ベースのルーク・スチュワート Luke Stewart、ドラマーのウォーレン・”トレエ”・クルーダップ3世 Warren “Trae” Crudup IIIのふたり(ワシントンD.C.を拠点とする)であり、スチュワートの沸騰するような音色を浮かび上がらせている。スチュワートがダークなエネルギーの複雑な層を創り出し、その上で、クルーダップが驚異的なスピードのリズムを駆動する。そしてルイスは、いまでは右に並ぶ者がいないほどのサックスの強度を維持した。この夜、ギターのアンソニー・ピログ Anthony Pirogがフィーチャーされ、彼は、巧みにスライスするギターラインで完璧に応えた。ほとんどの曲はノリノリだったが、最後は哀愁的なバラード「Bittersweet」で締めくくられた。

ジェームス・ブランドン・ルイス・トリオは、現在のニューヨーク・シーンでもかなり独特な存在である。ダイナミックなリズム、斬新でいてソウルフルでもあるメロディー、歩みを止めない創造的な強度に基づいたエネルギー・ミュージックとして、その独自性を鍛えている。

このコンサートはセル・シアターにおける新シリーズの第一弾だった。対バンも素晴らしく、ロブ・レディ Rob Reddyによる「Bechet:Our Contemporary」と、伝説的なエレクトリック・ギター・トリオのハリエット・タブマンHarriet Tubmanだった。

>> James Brandon Lewis Trio featuring guitarist Anthony Pirog Present ” No Filter ” (動画)

text by シスコ・ブラッドリー
(Jazz Right Now http://jazzrightnow.com/

以上が、最新のニューヨーク・シーンである。


【翻訳】齊藤聡 Akira Saito

環境・エネルギー問題と海外事業のコンサルタント。著書に『新しい排出権』など。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley

ブルックリンのプラット・インスティテュートで教鞭(文化史)をとる傍ら、2013年にウェブサイト「Jazz Right Now」を立ち上げた。同サイトには、現在までに30以上のアーティストのバイオグラフィー、ディスコグラフィー、200以上のバンドのプロフィール、500以上のライヴのデータベースを備える。ブルックリン・シーンの興隆についての書籍を執筆中。http://jazzrightnow.com/

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