連載第13回 ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報

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text by シスコ・ブラッドリー (Cisco Bradley)
translated by 齊藤聡 (Akira Saito)

 

ヨニ・クレッツマー

ヨニ・クレッツマー Yoni Kretzmerは、この1年の間で、テナーサックスのよりリリカルな声を獲得した。彼の音楽家、作曲家、バンドリーダーとしての近年の際立った成果が、4月25日、マンハッタンのZürcher Galleryにおいて展開された。クレッツマーの2ベース・カルテットはそこで4曲を演奏した(ほとんどは2015年にOutNow Recordingsから出た『Book II』に収録されている)。メンバーは、リューベン・ラディング Reuben Raddingとショーン・コンリー Sean Conlyのふたりがベース、マイク・プライド Mike Prideがドラムス。

最初の曲「Giving Tree」は、クールに震えるトーンからはじまり、じっくりと苛烈なピークに向かっていった。編成がカルテット、トリオ、デュオ、ソロと変わるにつれて、彼らは、複雑で手応えのあるインタラクションを見せた。クレッツマーの大きく弧を描くようなソロが、ラディングやプライドとのデュオにつながってゆき、最後にコンリーが加わった。音楽の芳醇な中心に向かって、ダークで蔓のように絡み合うベース・ラインが絶えず供給され、その側面で、サックスとドラムスとが爆発した。ふたりのベーシストのソロは、音楽のかたちを柔軟なものとすべく、擦れ、曲がり、動き続けた。

2曲目の「Polytonal Suite」では、クレッツマーが唸るようなサウンドを出しはじめた。彼の揺らめく音色は、ダークで泥臭いベースとエネルギッシュで素早いドラムスの上に発せられ、まるで、人間のコンディションやヴァイタリティや忍耐力といったもののはかなさを表現しているようだった。この雰囲気は3曲目に続き、ふたりのベーシストが、ミニマルな音から、軽快でときには薄い音まで、そのテクニックを拡張させた。最後の曲「Number 4」がこの日もっとも長い演奏であり、再び、クレッツマーが揺らめくピッチを発し、プライドの叩く鐘は、ダークな背景に対する光の矢のように輝いた。クレッツマーのサウンドは、他の空間がグループ全体のサウンドで満たされていようとも常に自己を発揮し、ときには、下からせりあがってくるピークを白い泡で覆うようでもあった。この曲は、他の曲よりも、人生賛歌の叫びのようであった。ドラムソロも同じノリで突き進み、最後は鐘の音でしめくくった。

サンドラ・ワイス

筆者はこれまで「環境的即興(environmental improvisation)」なる用語を聴いたことがないのだが、4月18日にDelroy’s Cafe and Wine Barにおいて「65 Fen Series」として行われたサンドラ・ワイス Sandra Weissの音楽にはピッタリ当てはまるような気がする。リーダーのワイスはスイスのリード奏者(ファゴット、アルトサックス)であり、他のメンバーは、ケニー・ウォーレン Kenny Warren(トランペット)、ジョナサン・モリッツ Jonathan Moritz(テナーサックス、ソプラノサックス)、ショーン・アリ Sean Ali(ベース)、カルロ・コスタ Carlo Costa(パーカッション)と、ブルックリンを拠点として活動する音楽家たちで固めている。全員素晴らしく、前衛的ミニマリズムともいうべき巧みさをもって、ワイスの芸術的なヴィジョンをかたち作っている。

実験的音楽は、ときどき、感覚がヘンになる体験をもたらすものであって、筆者の場合には、鮮やかなイメージとなって現れる。この夜は、その意味で本当に嬉しいものだった。ワイスたちの音楽は全員を魔法にかけ、聴衆のそれぞれが違った体験をしたはずではあるのだが、それでも個人的な体験も共有できるはずだ。はなから、バンドは、無数の昆虫の羽音(リードとパーカッション)から、エキゾチックな鳥の鳴き声や野生の猿のお喋り(トランペット)までが棲む熱帯雨林のような世界を現出させた。モリッツの音は、羽の音や枝の鳴る音。全メンバーが小さい音にいたるまで熟達して出しており、寄せては返すように、あるいはどこかに散逸してしまったかのように、サウンドが、再び枝葉を吹き抜けるシンプルな風となった。そして、ミミックのパーカッションが模倣することによって、目に見えない下草のカサカサ音なんかが起きた。彼らの演奏はときには重たく、すべての表面がずっしりと蒸結したかのような感覚となりもした。アリのベースは、宇宙生命体が走るときの鼓動のようでもあり、すばやくサウンドの方向性を定めた。ワイスは忍び寄るプレデターの唸りだ。そしてまた、シンプルな風の動きとなり、密な樹々が揺れ、全ての生けるものに浸透した。コスタは、群れから取り残された昆虫の羽音を発し、やがて、誰もいなくなったかのような静寂と化した。そして、ワイスのファゴットは、すべてを視ている木の精のようにうめいた。風が枝の間を吹き抜けていっても、なお、誰かが現れては踊り、狂乱と不協和音があるとしても、それぞれが違うように歌った。そして、アリが重たい枝の音を発した。

最後にワイスがアルトに持ち替えて、毒々しいサウンドによって、人間による焼け付くような侵入、古い樹々を熱い金属でなぎ倒しながらの侵略を表現した。有機的な風景への亀裂は、さらに、より柔軟なウォーレンのトランペットによって切り裂かれていった。次第に、再び彼らは和音に落ち着いてゆき、鳥の鳴き声がまた聴こえるようになり、空気がすべてを洗い流していった。しかしなお、忍び寄るプレデターが戻ってきたような深いベース・ラインが下で聴こえるにもかかわらず、樹上でキーキーと叫ぶ猿が勝利の雄たけびをあげた。そして、この近づいてくる不安によって、このサバイバルの行方が提示されることなく、演奏が終わった。

ライヴに行こう。それによって、誰もが、自分の物語を語りうるようになるに違いない。

以上が最新のニューヨーク・シーンである。

シスコ・ブラッドリー
(Jazz Right Now http://jazzrightnow.com/


【翻訳】齊藤聡 Akira Saito
環境・エネルギー問題と海外事業のコンサルタント。著書に『新しい排出権』など。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley

ブルックリンのプラット・インスティテュートで教鞭(文化史)をとる傍ら、2013年にウェブサイト「Jazz Right Now」を立ち上げた。同サイトには、現在までに30以上のアーティストのバイオグラフィー、ディスコグラフィー、200以上のバンドのプロフィール、500以上のライヴのデータベースを備える。ブルックリン・シーンの興隆についての書籍を執筆中。http://jazzrightnow.com/

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