連載第17回 ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報

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text by シスコ・ブラッドリー (Cisco Bradley) and マーク・エドワーズ (Marc Edwards)
translated by 齊藤聡 (Akira Saito)

I. 『ヨニ・クレッツマー/Book II』

ヨニ・クレッツマー Yoni Kretzmer の2ベース・カルテットによるCD『Book II』は、OutNow Recordings レーベルにおける彼の一連の作品中で印象的な作品だ。彼のウェブサイトには次のように書かれている。

「ヨニ・クレッツマーの2ベース・カルテットによるデビュー録音から2年が経ち、2枚組CD『Book II』を世に問う。収録された9曲では、事前準備を最低限にとどめ、自発性を損ねないようにして、むしろそれを、何もない透明な場での足がかりとして使った。お互いのインタープレイは成熟し深められており、それによって、バンドは大きなリスクを冒すこともできるし、大きな信頼感も得てもいる。泥臭さがグループのトレードマークとなっており、それは、まるで眼の中に泥をためつつも視ているかのように、明確さと激しさとを天秤にかけることによって得られている」

筆者の印象は、クレッツマーがデヴィッド・S・ウェア David S. Wareのテナーサックスでのアプローチをわがものにしていることだ。ウェアは大男であり、テナーの音もまた大きく太かった。ヨニの音楽的なコンセプトの多くは、デイヴィッド・S・ウェアのインスピレーションを源泉としたものだ。

バンドの構成は面白い。ベーシストがふたりなら、普通は、多くの管楽器奏者を入れた大きなバンドになりそうなものだが、ここではカルテット。ベースふたりに対して管をふたりではなくひとりとするのは斬新なアイデアであり、筆者は見たことがない。数年前、筆者は、Zebulon でリューベン・ラディング Reuben Radding と会った。またマイク・プライド Mike Pride は、いろいろなバンドでの姿を何度も観ている。マイクはまた、ミック・バー Mick Barr というブラック・メタルのシーンで活躍するエレキギター弾きとも共演している。本盤でのマイクはいい仕事をしている。ほとんどのドラマーは過度に大音量になってしまうものだが、マイクはダイナミクスと良いドラミングとのバランスをうまく取っている。残念ながら、筆者はヨニ・クレッツマーにも、ショーン・コンリー Sean Conly にもまだ会ったことはない。

冒頭曲の「Haden」は優しく、リスナーが音楽に入っていけるよう聴きやすく、フリージャズにありがちな不協和音が希薄である。ヨニは高音域でプレイしながらも、強いメロディックなセンスを維持している。短い曲だが、この2枚組CDを通じて聴かれる即興のある種のセンスを象徴している。

2曲目「Soft」はアップテンポだ。多くのフリージャズのドラマーは、伝統的なジャズドラマーと同じような時間感覚では叩かないものだが、マイクもそうだ。彼はブラシもスティックも使い、必要とされるだけのテンポをサポートする。ベーシストふたりはウォーキング・ベースであり、アップテンポの的確なラインを作っている。ヨニのテナーが泣き叫ぶにつれて、次第にマイクの演奏も開かれてくる。ヨニには、即興しながらもメロディックなラインを演奏することによって、音楽の方向を変える能力がある。曲がスローダウンしてくると、短い間、リューベンのベースが真ん中に出てくる。そして曲は前触れなく急に終わる。

3曲目「Stick Tune」は、ベースのオスティナートから始まり、他のメンバーはそれに激しく追随する。ショーンとリューベンのどちらかがオスティナートを演奏している間、もうひとりは弓弾きで多層的なサウンドを創りだしている。マイクは安定したドラミングで全員をサポート。ヨニは冒頭、テナーで叫び主導する。メンバーは相互にインタラクティブだ。ヨニはバンドを鼓舞し続け、音楽的な涅槃探索の頂点に達する。1:54からベースソロがあるが、ふたりのどっちなのか両方なのかわからない。2:55からヨニがリューベンとともに前面に出てくる。カオスの中にメロディックな要素を挿入する巧い方法であり、これが秩序と安定性とをもたらしている。マイクは軽くシンバルを叩き、ソフトなアクセントを与えているのだが、その力を増してくる。これが音楽の雰囲気にコントラストを与え、メロディにとってかわる。マイクのドラミングには、非常に自由な表現がある。

ヨニは何も逃しはしない。バンドが昂揚してくると、彼のプレイにアイラーの影が差し、また、展開させるアイデアにはウェアの影響が出てくる。彼は、曲の終わりで、また冒頭に戻ってリューベンとともにメロディを繰り返す。そして非常に柔らかく吹き続け、終結に向かって滑降してゆく。

4曲目「Metals」は、ふたりのベーシストによる不協和音のメロディラインからはじまる。彼らのラインは無調であり、それに対して、ヨニが新たな形を創りだしてアクセントを加える。間が空いたとき、ドラムスはパルスの変貌、破音、小技によって、ここぞとばかりサポートを行う。ベーシストふたりは活動的で、ヨニのいななきとともに、複層的な音色によりさらなる層を創りだしている。それは非常にスペーシーなものであり、音色の破壊という新規性がある。4:20あたりで方向転換があり、ほとんどヨニと他メンバーとのコール&レスポンスになる。このソロ交換が続き、ドラムスが絶えずアクセントを加えることによって力を与え、ベースがなめらかなメロディラインにアクセントを加えることによってサウンドを分厚くしている。

ベーシストひとりが別のメロディラインに移行した。スペーシーで、新たな音楽的なアイデアを出すのに十分な広さがある。6:35あたりで、管とドラムスとのソロ交換がある。ドラムスはパーカッシヴなアプローチ、管はメロディを放棄。その代わりに、管とドラムスとはお互いに模倣し合う。実にヘンだ。このように、普通でないパーカッシヴなアプローチでこそマイク・プライドは光輝く。これが7:13まで続き、ベースが戻ってきてユニゾンで演奏する。大交響楽団でのクラシック曲を思わせる、圧倒的なクオリティだ。ドラムスとヨニとは苛烈に絡み続け、ベースは騒乱の下で共振するようなラインを描く。ヨニはハイノートを放ってゴールを目指し、ベースも不気味に追従する。美しい演奏だ。

5曲目「Freeaj」は短いドラムソロ(というより、ドラムのサウンド集)で始まる。ビートはカラフルで、アフリカのリズムや和声もある。およそ2分のドラムソロが終わると、すぐに、ヨニ、リューベン、ショーンが参入する。この曲はまるでインディ500のレース!ギアを上げるまでに余計な時間は使わないのだ。ヨニは明らかに水を得た魚のように、恐れずに道を見出しており、即興はチャールス・ゲイル Charles Gayleを思わせるものだ。マイクは卓越したドラミングでサポートし、バンドを未踏の高みに押しあげる。ベーシストふたりは並行して演奏し、片方がウォーキングならばもう片方は弓で弾く。ぎくしゃくしたまま曲が進んでゆく。

5分が経過した頃、音楽が2周目に突入したように動く。ヨニは高音域に拡がり、マイクの焼け付くようなシンバルと、ふたりのベーシストによる多層音と絡む。苛烈なフリージャズへの突入であり、それはやがて次の展開への移行に向けて静まってゆく。7:03にリューベンはアルペッジョを、一方ショーンは弓での単一音を弾き、しばらくの間、このふたりが場を支配する。リューベンが8:28から8:37までトリルを弾き、ドラマチックでもあるから演奏が終わるのかと思ったのだが、違った。ヨニとマイクが戻ってきて、曲は騒々しいコーダで締めくくられる。

6曲目「Leaves」はテナーとドラムスからはじまるが、ほどなくベースふたりが参入、低音のロングトーンを弾く。ふたりのベーシストがメロディをユニゾンで弾くことの効果は想像以上だ、信じられないサウンド!曲の半ばでは彼らがバンドを牽引しているのである。

7曲目の「Polytonal Suite」は面白い変化球だ。最初のベーシストは5拍子でプレイするが、次のベーシストは4拍子。ヨニがおもむろに入ってきて新しい形の即興を模索し、ほどなくドラムスが入ってきて、ふたつの拍子の間で調整する。これまでにない構造的な曲だ。フリーではあるが、100%フリーではない!ベースラインは地を這うようだ。マイクは実際よりもフリーに聴こえる方法を編み出している。彼のドラミングは、ベースにより形作られた境界を越境してゆく。ヨニは真ん中に座して、ジョン・コルトレーン John Coltraneを思わせるソロを吹く。ふたりのベーシストの拍子は互いに異なるままだ。ドラムスが曲を駆動する。そして5拍子のベースによって締めくくられる。

8曲目「Ballad」はタイトルから想像される通り遅い曲だ。このテンポの遅さが、ミュージシャンたちにそれぞれ異なるペースで探索を行う自由を与えている。遅さというものはゲームでもあるのだ。アイデアの間には多くのスペースがある。流れもとても柔軟だ。マイクはブラシに持ち替えて、それがこれまでの曲とは違う手触り感をもたらしている。フリージャズでブラシを使うドラマーは多くはない。やがて、マイクはスティックに戻した。

CDの2枚目には1曲「Number 4」のみが収録されており、それは約20分にも及ぶ。ふたりのベースによるオスティナートで始まり、素晴らしいグルーヴを生み出している。ヨニがベーシストの間に介入し、倍の速さで吹く。ドラムスもようやく参入し、ラテン味のリズムを加える。ヨニのプレイは、ほとんど、もろジャズのテナーサックス奏者のようにストレートアヘッドだ。ドラムスは場を支配するのではなく、グルーヴの形成をサポートしている。ここでは、ヨニの短いフレーズにおいて、アーチー・シェップ Archie Sheppの影が見えた。ヨニは3:18に高音域での叫びに移行する。ベーシストふたりが離脱してもヨニはリフを繰り返し、5:09にまたベースが低音で戻ってくる。このアプローチは、かつてのウェアの録音(たとえば『Flight of I』)に似ている。

ここから、低く響くベースラインが続き、次に、マイクが伝統的なジャズのシンバル演奏で入ってくる(6:43)。ひとりのベースがマイクをサポートし、もうひとりのベースは弓を使ってフリーなアプローチをみせる。ヨニは真ん中で思うままに即興を開始する。グループ全体の即興がさらに活発となる。全員がぶつかり合うなかで演奏はピークを迎える。そしてマイクのドラムソロがあり(14:15)、劇的にゴールへと向かってゆき、バラッドのアプローチへと移行する。

このCDは、ベースを2本としたことや、デヴィッド・S・ウェアのヨニ・クレッツマーへの明らかな影響を見て取れることによって、面白い作品となっている。バンドは今後も成長を続け、凄い音楽を生み出すことだろう。もし読者がOutNow Recordingからのヨニの諸作のファンならば、この2枚組もコレクションに加えるべきだろう。

text by マーク・エドワーズ Marc Edwards
ドラマー。セシル・テイラー『Dark to Themselves』への参加により知られる。他にもチャールズ・ゲイル、ポール・フラハーティ、ウィーゼル・ウォルターらと共演。最近は自身のバンドSlipstream Time Travel で活動している。

#1245 『Yoni Kretzmer 2 Bass Quartet / Book II』 http://jazztokyo.org/reviews/cd-dvd-review/post-6537/


II. ネイト・ウーリー・カルテット(Ibeam Brooklyn、2016/9/18)

ライヴ・シーンに目を向けてみよう。ネイト・ウーリー Nate Wooleyが、メアリー・ハルヴァーソン Mary Halvorson(ギター)、スーザン・アルコーン Susan Alcorn(ペダルスティールギター)、ライアン・ソーヤー Ryan Sawyer(ドラムス)をフィーチャーした新カルテットのこけら落としのライヴを、2016年9月18日に、Ibeam Brooklynで行った。アンサンブルのメンバーは皆NYシーンの中心人物であり、長いこと最先端を走っている者たちだ。ハルヴァーソンは同世代ではぴか一の即興ギタリストだと評価されており、自身のトリオ、クインテット、セプテット、オクテット、その他もろもろのコラボレーションによって画期的なレコードを出し続けている。ボルチモアを拠点とするアルコーンは、この楽器でのイノヴェイターとして登場してきて、フリージャズ、タンゴ、20世紀モダニズム、フォーク音楽、ガムランなどから広く影響を受けている。ソーヤーは目立たないが、多くのNYでのアンサンブルにおいて重要な役割を果たしており、また、「Seven Storey Mountain」などウーリーの他プロジェクトのメンバーでもある。ウーリーは同世代ではもっとも独自な声を確立しており、リーダーとしても、信じられないほど幅広いプロジェクトを繰り広げ、NYでもっとも多才なプレイヤーのひとりでもある。

パフォーマンスは、「Seven in the Woods」と題された曲が中心だった。公開リハーサルに続き、即興を行い、また曲を演奏した。ナマの形を体感することによって、各々のプレイヤーが、曲の可能性を押し広げ、音色を意識しながらプレイし、エモーショナルな表現の限界を探っている様子を垣間見ることができた。演奏中は、アルコーンの柔軟さが、他のミュージシャン同士を結びつけていた。ハルヴァーソンは、アルコーン(オクテットの中では似た者同士)との共演で得たヴォキャブラリーを深堀りして披露した。ソーヤーは、語るようなテンションをグループに持ち込み、アンサンブルの背中を優しく押した。一方、ウーリーは、異次元の強烈な個性を保ったまま、クラシック的な美しいラインを吹いて、曲にささくれた強度を与えた。2番目のテイクでは、バンドはその音楽を結晶化する道を見出したように見えた。即興において、他のメンバーを退けたり支えたりして頂点に駆け上がるようなやり方ではなく、4人のメンバーの誰もが主導するやり方を取ることができることを示すものだった。

text by シスコ・ブラッドリー
(Jazz Right Now http://jazzrightnow.com/

以上が、最新のニューヨーク・シーンである。


【翻訳】齊藤聡 Akira Saito

環境・エネルギー問題と海外事業のコンサルタント。著書に『新しい排出権』など。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley

ブルックリンのプラット・インスティテュートで教鞭(文化史)をとる傍ら、2013年にウェブサイト「Jazz Right Now」を立ち上げた。同サイトには、現在までに30以上のアーティストのバイオグラフィー、ディスコグラフィー、200以上のバンドのプロフィール、500以上のライヴのデータベースを備える。ブルックリン・シーンの興隆についての書籍を執筆中。http://jazzrightnow.com/

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