連載第18回 ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報

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text by シスコ・ブラッドリー (Cisco Bradley) and キア・ニューリンガー (Keir Neuringer)
translated by 剛田武 (Takeshi Goda)

 

I. 『デイヴィッド・S・ウェアズ・アポジー/バース・オブ・ア・ビーイング』

2016年6月半ばに、私は生後15か月の息子の部屋で、デイヴィッド・S・ウェア David S. Ware がクーパー=ムーア Cooper-Moore、マーク・エドワーズ Marc Edwardsとのトリオ「アポジー Apogee」で制作した1977年のデビュー作『バース・オブ・ア・ビーイング Birth of a Being』を聴いていた。2015年にAUM Fidelityレーベルから豪華な拡大版で再発されたこのアルバムを聴くのは、息子はもちろん、私にとっても初めてだった。

最初に読者に言いたいことは、(1)これは私が長年聴いてきた音楽の中で最もスリリングで、凶暴で、ディープで、美しい音楽であり、(2)自分をエキサイトさせる音楽について書くのは大好きだが、知っている言葉をどう並べたところで、この壮大な音楽を少しでも精確に評価できるとは思えず、そして(3)私が見つけたどんな言葉も、デイヴィッド・S・ウェアの才能を熟知した人たちを驚かすことはできない。

私は即興サックス奏者で現在40歳だが、ウェアの作品を知るのがあまりに遅かったことを告白したい。初めて聴いたとき、『バース・オブ・ア・ビーイング』は批評的思考を飛び越えて、私の魂を直撃した。それはまた、一緒に聴いていた息子のエミリの身体も刺激したようだ。彼は音楽に合わせて歌い、笑い、踊りだしたのだ。それは音楽を聴くときの基本機能のひとつに働きかけた。比喩的な意味ではなくMoving(感動的)。この音楽の絶え間なくうねるエネルギーの前では、平静を保ったり、静寂を守ったりすることは文字通り難しい。

1曲目の「Prayer」を聴いて、私は今まで聴いてきた中でウェアこそが、アルバート・アイラーの貢献を、吸収したり真似したり借用したりするのではなく、深い精神探求の源泉として身に着けた唯一のサックス奏者である、と確信に近い思いを抱いた。同様に次の曲「Thematic Womb」は、セシル・テイラーの音楽に対するトリオの深い研究心とそれにインスパイアされた進化を実証している。オリジナルLPを締めくくる「Primary Piece」とタイトルされた2つの作品(特にパート2が)では、ハーケン(登山用金釘)を高速で打ち込み、燃えるセッションのアップテンポのビバップを切断するようなアプローチを見せる。

数カ月経って既に100回は聴き続けている。もしレビューが推薦状ならば、私はこのアルバムを無条件で推薦する。『バース・オブ・ア・ビーイング』は、耳と時間を捧げるアーティストからの全面的なコミットメントを尊重する人々のための音楽である。アーティストが美学的に妥協をしないことを望む人々のための音楽である。フリー・ジャズとして知られる音楽の、精神性と知性の引っ張り合いの間にある訳ではない。そんなスクエアな二分法に従わないからこそ、この音楽は「自由」なのである。それは全体論を主張する。間違いなく偉大なブラック・ミュージックの伝統の中に位置するが、特定の偉大なブラック・ミュージックには聴こえない。そのユニークな伝統に於いて、全ての偉大なブラック・ミュージックを合わせたように聴こえるのである。

あらゆる偉大な音楽と同じように、能動的なリスナーを夢中にする、しかも徹底的に。この音楽が鳴りだすと、自分がいつもレコードを聴く平凡な場所―スタジオ、居間、自動車、現在18か月の息子の部屋―ではなく、この再発盤のように拡大される。大空まで到達し、同時に遥かな星々の向こう側から振り返るアポジー(絶頂点)のように、よりカラフルで、鼓動し続ける場所。その通り!『バース・オブ・ア・ビーイング』は地球に根を張っているが、常に内向き、外向き、上向きに戦い続けている。ジョン・コルトレーンの音楽が戦う(Strive)ように戦うのだ。

私はここにテクニカルな名人芸を聴く;それぞれのミュージシャンの個人的なヴォイスが、燃えるような楽器演奏技術に緊迫感を加えるのを聴く;フォームとストラクチャーのバランスを通して提示される作曲と即興の才能を聴く;夜の暗闇と太陽の輝きを聴く;スタミナ、凶悪、それほど頻繁ではないが深遠さでは劣らない優しさの体現を聴く。ミュージシャンのインタープレイは眩惑的。フリー・ジャズとして知られる音楽が、如何により良い世界を描き出すかを実証している。すべてのプレイヤーが自ら輝くとともに、お互いに仲間の輝きをサポートしている。

当時20代後半のウェアは、このリーダー・デビュー作で既に完成されたテナー・サックスのコンセプトを提示している。彼のサウンドは温かく深遠で自信に溢れている。彼の表現は鮮明で正確だ。彼の音色のダイナミックレンジは完璧だ。クーパー=ムーアのピアノ演奏も同様に印象的。彼は全体の内と外を織りあげ、ウェアとは対照的に音のジェスチャーを掴み、それを固定し、別の場所に進水させる。聴いていると、たった二つの手でいとも簡単に音楽のアクティヴィティが生み出されることに驚く。マーク・エドワーズは多くの場合アクセントであり、モーターであり、感嘆符であり、全てが火の粉である。3人は連続するフレーズに莫大なパワーとフォースをもたらし、その累積的な効果は、私の経験では少なくとも息を呑むことしかできないが、幼い息子は逆に鼓舞されて「イエス!」と叫び返すのである。

Birth(誕生)。音楽を愛するものにとって、このレコードの誕生とAUM Fidelityでの再生は、何と歓迎すべき出来事であろうか。個人的な話になるが、このアルバムは私が生まれた後すぐ世に出て、私の息子が生を受けたのと同時期に再発された。今考えてみれば、息子のエミリがこのアルバムを耳にしたことが彼のリスニング・ライフの始まりだった。それは、妥協のない美しさへ導きながら、世界の経験を拡大させ、今後も間違いなく拡大させ続けるだろう。

 

David S. Ware Official Site

text by  キア・ニューリンガー (Keir Neuringer)

フィラデルフィアを拠点とするサックス奏者。最新作はポーランド人のベース奏者ラファル・マズールとの 『Diachronic Paths』(Relative Pitch, 2016)。Official Site

 

II. アース・タンズ (Happy Lucky no. 1、2016/10/13)

ジョー・モフェット Joe Moffett (tp, other objects)、ダン・ペック Dan Peck (tuba, bells, tape)、カルロ・コスタ Carlo Costa (perc, other objects) からなるトリオ、アース・タンズ Earth Tonguesが、2枚組のセカンド・アルバム『オハイオ Ohio』をリリースし、10月13日ブルックリン・クラウン・ハイツのギャラリー、ハッピー・ラッキーNo.1でコンサートを行った。三人のメンバーは、リスナーとしての繊細さ、インプロヴァイザーとしての想像性、自覚的な集団意識を発揮し、躍動し進化し成長し鎮静する流れのある素晴らしい共同演奏を展開した。

バンドは、各プレイヤー間の流動的なコミュニケーションを基本とした完全即興演奏により、ロングトーンを多用した一編の長い没入型の曲を演奏した。突然一人のプレイヤーのソロになり、静かなサウンドを奏でたり、ひとりで別の方向へ曲想を進歩させたり自由に展開したのち、他のメンバーが加わり集団演奏に戻る。演奏をすぐに吸収し処理するのではなく、逆に音楽をゆっくり漸次的に消化しようとしている。演奏時間は1時間に満たなかったが、以前は場合によって3時間の長時間のセットを演奏していた経験を活かして、莫大な忍耐を示した。

Carlo Costa; photo by Cisco Bradley
Carlo Costa; photo by Cisco Bradley

モフェットがサウンドを押し出してグループを特定の方向へ導こうとアクションを起こすことが多いが、三人それぞれが順番に先頭に立つ。ひとりがベースラインとノイズとリズムからなる絨毯を下に敷き、他の二人がその上で演奏し、短く鋭い息の音、小型のベル、タップ楽器、弓弾きのボウル、トライアングル、木煉瓦などで、サウンドのレイヤーを加えたり、アクセントをつけたりする。

Dan Peck; photo by Cisco Bradley
Dan Peck; photo by Cisco Bradley

やがて最初の有機的な探求の中から安定したリズムが現れるが、徐々にそこへ至る過程は極めて誠実な流れに感じられる。それから演奏は徐々に波立ち、拡大する集合的な有機生物となり、ひとつ深呼吸して静寂の中へ沈んでいく。

イベントには多数の観客が集まり、注意深く耳を傾け、多くの人は床に寝そべって目を閉じこの経験に完全に吸い込まれていた。

Joe Moffett; photo by Cisco Bradley
Joe Moffett; photo by Cisco Bradley

モフェットはトランペット奏者としてもっと注目を浴びていい。ペックは主にサイドマンとして評価されているが、The Gate や Premature Burialといった先鋭的な即興音楽グループのリーダーまたはコ・リーダーでもある。コスタは驚くほどメロディに敏感な耳を持つ、いわばパーカッションの空想家であり、常に新しいリズムと微細なサウンドを探求し、私の記憶にある最近のパーカッショニストの誰にも負けず空間を利用する才能を持っている。

text by シスコ・ブラッドリー 2016年10月18日記
(Jazz Right Now http://jazzrightnow.com/
以上が、最新のニューヨーク・シーンである。


【翻訳】 剛田 武 Takeshi Goda
1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら、「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley

ブルックリンのプラット・インスティテュートで教鞭(文化史)をとる傍ら、2013年にウェブサイト「Jazz Right Now」を立ち上げた。同サイトには、現在までに30以上のアーティストのバイオグラフィー、ディスコグラフィー、200以上のバンドのプロフィール、500以上のライヴのデータベースを備える。ブルックリン・シーンの興隆についての書籍を執筆中。http://jazzrightnow.com/

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