連載第28回 ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 サックス奏者サラ・マニングの#MeTooとジャズにおける性差別

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Written by サラ・マニング (Sarah Manning)
translated by 齊藤聡 (Akira Saito)

ありがとう、タラナ・バーク Tarana Burke、Me Tooムーヴメント(※註)を始めてくれて。そう、#MeTooのことだ。ハリウッドと音楽業界とが相似していることは明らかだ。私がバンドのブッキングについて話したら、親指を突き出して、私の顔の前で鼻の上から下まで下げたひどい男がいた。私がロサンゼルスで演奏していたときには、尻をつかんだ男がいた。犬が私の膝にのぼってきて喜んでいると、「ときどき、飼い主がやりたいことをやるんだよ」なんてことを言った業界の男がいた。数か月前のこと、私が演奏したあとにやってきて、気持ちいいから足を踏んでくれと頼んできた男がいた。気持ちよく断ろうと思って、やらないと言ったところ、またしつこくしてきた。彼はそこのハウスDJだった。こういったことは、私のいくつかの体験に過ぎない。特別なことでもない。

(※註)性暴力の被害を共有するために、青年団体「Just Be Inc」の設立者タラナ・バークが2007年に始めた運動。今年になって、俳優アリッサ・ミラノがハッシュタグを付けて「#MeToo」としてtwitterで共有しようと呼びかけ、一気に認知度が高まった。

一般的に言って、セクシャル・ハラスメントと暴行とは表裏一体の女性蔑視であり、個々の事象というよりもっと幅広い、毎日起きている性差別の一部たる蔑視だ。WBGO.orgに掲載されたサックス奏者ローレン・セヴィアン Lauren Sevianの記事「ジャズにおける性差別:音楽学校からクラブまで」は、私にとって、ジャズにおける性差別の話を共有するという意味で突破口になった。

私はローレンをリスペクトするし、女性がこのテーマについて話すことに本当に感謝している。実際、グレッグ・オズビー Greg OsbyのInner Circleレーベルの発足が「DownBeat」誌に取り上げられたとき、私は、記事が明らかにローレンとサックス奏者メイラナ・ギラード Meilana Gillardのことに触れていないと、編集者(この記事を出した人)に手紙を出した。ふたりの女性奏者とも7人のアーティストの中に入っていたのに、だ。

私は最近の2枚のアルバムをPosi-Tone Recordsからリリースした。このレーベルと手を組んだことによって私の音楽を幅広いオーディエンスに提示することができ、感謝している。これは本当にチャレンジングだった。自分のキャリアについての懸念や、それまでPosi-Toneにレコーディングした女性たち(経験が違うかもしれない)にネガティヴな印象を与えてしまうのではないかという恐怖があって、私は、この話を心にしまっていた。しかし、ローレンの記事ではPosi-Toneが女性アーティストにとってのチャンピオンとして掲げられていて、それは私には同意できないのだ。

2015年9月にPosi-Toneの20周年記念パーティがSmalls(※訳注:ニューヨークのライヴハウス)で開かれて、どんなふうに参加するかの話をした。私は、その夜出演する2つのバンドのうちひとつと一緒に、私の曲を演奏したいと言った。彼らは考えてみると答えたのだが、そのままになった。イヴェントのあと、他の18人のアーティストが特別ゲストとしてリストに入っており、バンドごとに2つのグループに分けられていて、曲を持ち寄るよう招待されていたことがわかった。私が彼らに頼んだことそのものだ。私はイヴェントのポスターには特別ゲストとして書かれていたにも関わらず、どちらのグループにも加えてもらえなかった。私はそのとき、レーベル唯一の女性アーティストだった。

結果? 20周年記念パーティでは、ひとりの女性もステージに上がらなかった。このレーベルからの私のリリースについては、クリス・バートン Chris Bartonが「LA Times」紙において2014年ジャズアルバムベスト10のトップに挙げていたくらいだったのだが。Posi-Toneの人を呼んで、起きてしまったことに不満があると伝えたところ、率直に、私の態度が問題であったこと、なんにせよ男性陣が喜ぶよう登場しなければならなかっただろう、と告げられた。

そんなわけで、もう連絡することをやめた。いずれにせよ私の音楽はより実験的なものになってきているし、それがこのレーベルのカタログに載るには違和感があるし、他にも不快にさせられることがあった。しかし、ロキシー・コス Roxy CossがPosi-Toneから『Chasing the Unicorn』というアルバムをリリースしたら、実に奇妙なことが起きた。彼女のウェブサイトでその新作のリリースについてチェックしていて、彼女の履歴に目を通したところ、どこかで見た一文があった。だからこれを書く。

Posi-Toneは、私の2009年のアルバム『Dandelion Clock』における履歴を使っていた。その中には、私独特の文章と、プロデューサーのマーク・フリー Marc Freeの文章と、ナット・ヘントフ Nat Hentoffの文章の引用があった。それを、多かれ少なかれそのまま再利用したのだ。サラ・マニングが・・・ロキシー・コスになっていた。しかも、ナット・ヘントフの文章が言い換えられていた(引用を示さずに)。

手抜き?ふたりの女性奏者は交換可能だと思っているのか?私は自分が抹消されたように感じたし、これはロキシーに対してもフェアではない。アーティストのプレスキットはとても大事なものなのに、彼女の演奏を表現するために言葉が再利用されていたのだ。

ロキシーにそのことを書いたところ、彼女は私の電子メールをPosi-Toneに転送した。彼らは応答しなかった。

また、このことも言っておきたい。今のところ、ロキシー・コス、アマンダ・モナコ Amanda Monaco、チャンピアン・フルトン Champian Fultonは、新作をPosi-Toneから出しているのだが、レーベルのアーティスト紹介ページにはプロフィールが掲載されていない。20人の男性をフィーチャーしているにも関わらず。

ここには何人か本当に不快なスタッフがいる。フェミニストや女性のチャンピオンもいるし、また、いまだ性差別主義者や性差別的なことを行う者もいる。そんなように言えるし、感じられるだろう。性差別主義を私たちの文化に蔓延させているものは、権力を持つ者が、批判は些細なことだとか気を惹くためだとか誤解だとか安易に考えているからでもあるのだろう。

しかし、しゃべってしまうと私の個性や能力が潰されるかもと思ってじっと苦しんだり、開かれていた扉が閉ざされたりすると、もはや、単に我慢ならないと感じるにとどまることはできない。

私は創作し続けたい。それがアーティストの行うことだから。

(文中敬称略)

【翻訳】齊藤聡 Akira Saito

環境・エネルギー問題と海外事業のコンサルタント。著書に『新しい排出権』など。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley

ブルックリンのプラット・インスティテュートで教鞭(文化史)をとる傍ら、2013年にウェブサイト「Jazz Right Now」を立ち上げた。同サイトには、現在までに30以上のアーティストのバイオグラフィー、ディスコグラフィー、200以上のバンドのプロフィール、500以上のライヴのデータベースを備える。ブルックリン・シーンの興隆についての書籍を執筆中。http://jazzrightnow.com/

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