連載第29回 ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 パトリック・シロイシ『Tulean Dispatch』

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text by ガブリエル・ジャーメイン・ヴァンランディンガム-ダン(Gabriel Jermaine Vanlandingham-Dunn)

translated by 齊藤聡 (Akira Saito)

 

パトリック・シロイシ『Tulean Dispatch』

Recorded live at 2575 Mission, Los Angeles, California on the 14th of August, 2016.
Patrick Shiroishi: alto saxophone, baritone saxophone & prepared piano
Mixed by Patrick Shiroishi
Mastered by Felix Salazar
Art & layout by Paulina Oknińska & Janek Ufnal

 

孤独という言葉を聞いて何を思うだろう。自分の人生の困難な時期における孤独な瞬間を思うだろうか。デューク・エリントン Duke Ellington、アーヴィング・ミルズ Irving Mills、エディ・デランジェ Eddie DeLangeの手による驚くほど美しい曲「Solitude」(特にビリー・ホリデイ Billie Hollidayの1952年版)が思い浮かぶだろうか。あるいは、大抵は不快だから避けたい場や雰囲気のことを考えるだろうか。私はただ、長い悲しみによって新しい声を見出すことがよくあるのだと自問自答する。ときには日々の仕事が無理と感じてしまうし、がんじがらめの物事が緩むことはほとんどない。そんなときに、孤独とともに、そうでなければ生まれなかっただろう内省の道に連れてゆかれる。独りのときには、自分の思考や感覚の深い根っこまで本当に掘り下げることができて、なぜ自分が特定の感覚を抱くのかを見出すことができる。この自己探求のプロセス、あるいは呟くような祈りは、パトリック・シロイシ Patrick Shiroishiの『Tulean Dispatch』に一貫して見出される。

「Herni」。

朝早く荒れ果てた海岸線を行き来する放浪者の姿が、思い浮かぶ。午前の静かな水面の上で、静かな風が霧を押し流してゆき、それとともに呼吸と静かな孤独とが生まれる。やがて、まだ暗い朝にあって、遠くの船の音が聞えてくる。どこから聞えるのかわからないけれど、それは確かにどこかにいる。何分も経つと、彼らは自問自答を始める。それが何についてなのかわからない。それでも、日が昇り始めると、強烈な探索の感覚が生じてくる。自己への問いかけが増大し始め、少し不安がよぎりもする。そういったものが特定の何か、何者かに向けられるとともに、放浪者がさらなる内省を深めんとする熱狂的な感覚が生まれてくる。「マースク」と書かれた船が、遠くの海で東に向かっている。

また独りになり、さっき現れたばかりの一時の平穏の中で、「The Screams of a Father’s Tears」が続く。目が届く限り栗色の感情が溢れる一方で、わずか数フィート先の水面に、沈黙の水滴が見える。この苦闘の感情は、アルバート・アイラー Albert Aylerがテナーを吹き、ドナルド・アイラー Donald Aylerがトランペットを吹く演奏をはじめて聴いたときのことを思い出させる。涙がこぼれ、多くの疑問が生まれる。悲しみが次の段階へと進む。痛みを知っている演奏だ。この孤独な苦しみは私たちみんなにとって真実であり、悲しみとはこのように個人的な体験なのだ。母親や父親が昔日の存在となったころ、すべての子は両親の人生のことを記憶しつつ自分自身の道を歩んでゆく。ある者は叫び、ある者は沈黙しただ助けを求め、またある者は孤独を見出すだろう。この2018年の音楽は、2016年の私自身であり、すべて共感できる。

次に「Forms and Void」。誰でも知っているように、愛の「形」(forms)は精神のさまざまな場所に触れる。演奏者は、水を見た結果、自分自身の変化してゆく部分を認識し始める。また、いちどは充満した場での「空」(void)も生まれている。何か確固たる真実をつかんだからこそ、新たな方向にむかう不安さへの疑問が生まれている。こういった感情についての瞑想によって、瞼の裏にはカラフルな振動が喚起され、また、自分の内奥だけでなく自分を取り巻く状況を変革しようとする意思への強い探索も生まれている。前進はしたい、だが、最良の結果を呼び起こす方向修正を見出すこともまた必要としている。

「The Flowers and Candles are Here to Protect Us」。

最も静かなやり方で、いくつかの実現をみる。感受性があり、それは新しいものなのに親しみを感じる。心には精神と同じように傷痕が残るものだが、それを認識することは、痛みを抱える人が、世界のより良い場所について理解することにつながるのかもしれない。朝の日差しに包まれて、演奏者は永遠を求めてそれまで座っていた場所から立ち上がり、少しの砂を払い落とし、腕と脚を伸ばし、頭を後ろに反らす。まだ重たくはあるが、何しろ瞑想の効果がある。精神が鎮められ、孤独と向き合うことによって、より強くなり、さらに癒しへと向かう準備ができた。如何に独りでいるかを学ぶことは、孤独に向かい合う者にとってもっとも大事なことなのだ。

パトリック・シロイシ(Patrick Shiroishi)
ロサンゼルスを拠点に活動する日系アメリカ人の多楽器奏者。

ガブリエル・ジャーメイン・ヴァンランディンガム-ダン(Gabriel Jermaine Vanlandingham-Dunn)
DJ、ライター、アフリカと民族音楽の歴史家、精神的・感情的に幸福なアメリカ黒人男性。

【翻訳】齊藤聡(Akira Saito)
環境・エネルギー問題と海外事業のコンサルタント。著書に『新しい排出権』など。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley

ブルックリンのプラット・インスティテュートで教鞭(文化史)をとる傍ら、2013年にウェブサイト「Jazz Right Now」を立ち上げた。同サイトには、現在までに30以上のアーティストのバイオグラフィー、ディスコグラフィー、200以上のバンドのプロフィール、500以上のライヴのデータベースを備える。ブルックリン・シーンの興隆についての書籍を執筆中。http://jazzrightnow.com/

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