連載第31回 ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 ステファニー・リチャーズとの『Fullmoon』を巡る対話(フェミニストのジャズ・レビュー)

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text by ジョルダナー・エリザベス(Jordannah Elizabeth)

translated by 齊藤聡 (Akira Saito)

Jordannah Elizabeth ⓒShannon Wallace

この4月に、トランぺッターのステファニー・リチャーズ Stephanie Richardsと、彼女のアルバム『Fullmoon』(Relative Pitch Records、2018/5/18リリース)について話をした。だがもちろん、彼女の素晴らしく、謎めいており、創造的で表現力豊かなアルバムについてよりも、女性としての彼女について話をしたかったのだ。このインタビューは、『Downbeat』誌でのサラ・セルパ Sara Serpaへのインタビュー(筆者のインタビューとしてのデビュー)や、「We Have Voice」ムーヴメント(※)の前に行ったものである。彼女と私はインタビューで何が起きるのか分からなかったが、それは私たちが生きているのだということに他ならない。リチャーズだけでなく、女性のアイデンティティを持つ人、女性、LGBTQ(注:レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、ジェンダークィアあるいはジェンダークエスチョニング)は、フリージャズや創造的な音楽の世界で、ジャズミュージシャンとして、痛み、阻害、混乱の中を生きている。彼らはまた、作りたい音楽を作るのに十分自由であるがために、愛、コミュニティ、幸福、情熱を経験している。

(※訳注)「We Have Voice」:セクハラや虐待を含む不公平の問題に対する意識を喚起し、文化的風景を、気付き、包含、安全な場所の創出へとシフトすることに焦点を当て、パフォーミングアートのコミュニティを豊かにするための集団。

筆者はステファニー・リチャーズと電話し、『Fullmoon』のこと、音楽や精神のイデオロギー、生理の周期が身体に与える影響、ジャズ界で女性であることがいかに難しいのかについて話をした。

ジョルダナー・エリザベス(以下JE) アルバム『Fullmoon』を作った背景を教えてください。

ステファニー・リチャーズ(以下SR) パーカッションなどの楽器が円形に取り囲む空間で作曲をしました。これらのパーカッション自体もまた円形で、それらのすべての間を歩き回りました。それは、ディノ(Dino J.A. Deane、アルバムでサンプラーを演奏)と共演したセッションにおいて注入した、美しいイメージです。彼はライヴ・サンプリングのすべてをやっていました。私は、そこで磨き上げてはまた消し、そのサイクルの中でどのように生きるのかについて興味を持っていました。だから、エネルギーと速度に加え、エネルギーが散逸し拡散するようにも演奏していたのです。意図的なものでもなかったし狙ったわけでもなかったのですが、セッションのあとで外に出て空を見上げると、大きくて華やかな満月がありました。その時点では音楽のタイトルがなかったのですが、かたちだとか円形での作業だとかいったアイデアはありました。大きく美しい月を視て、ディノと私は「ああ、ここにタイトルがある」と感じたのです。

このアルバムはまた、反射というアイデアからも来ています。トランペットの音に電気的に手を加えたように聴こえますが、すべてアコースティックです。ディノは単に私のサウンドをライヴサンプリングしました。パーカッション類の表面に向かって演奏したので、処理を施したように聴こえるのです。この反射と、他の楽器が振動することによる共振が、美しい音色の源です。

JE 月のサイクルということで言えば、月は、多くの精神的なイデオロギーにおいて、女性のエネルギーや原型となることがわかっています。月は、私たちの生理の周期や女性性とのバランスを取っているのです。

SR 女性や生理のサイクルについて、皆、あまり話をすることがありません。しかし、それは現代生活の中で最も信じられない特徴のひとつであり、私たちがどれだけ進化しているとは言ってもまだ動物であるという事実に到達できないということです。環境とは深いつながりがあって、闘うことなどできないのです。

JE 生理のときに演奏していて、部外者のように感じたりするでしょうか?

SR ほとんどの女性は(部外者のように)感じると思いますよ、わかるでしょう。不快なものです。数年前の夏季オリンピックで、中国の水泳選手・傅園慧は、自身が望んでいたほどのパフォーマンスを発揮できませんでした。インタビューでは、彼女は、生理がその前日に始まったからいつもより強くなかったのだと発言しました。「ああ、ええ、ベストは尽くしましたよ」なんて感じだったので、みんな騒いでしまい、メディアの注目を浴びました。身体はときには強くない、あるいは、強さは自分の身体だけで決まるものではない、と認めることがプロのアスリートですし、とても感動を覚えました。

JE ジャズのように男性が支配する音楽業界で働くとは、どのようなことでしょうか。大袈裟な話ではなく、女性や女性のアイデンティティを持つアーティストは、他にはない恐怖を覚えた経験があるのではないかと思いますが、どうでしょうか。

SR ちょっとしたものも含めれば、恐怖はあります。ひとつひとつは細かい経験です。そのことが、自分が世界の中でどのように動くか、またどこに行くことを選ぶかにつながっています。とても大きな力です。ざっくり言えば、私はとても幸運でした。協働したのは、みんな信じられないほど素晴らしい人たちでした。そうでなければ一緒に仕事なんかできなかったでしょう。今でも、ときどき自分が部外者であるかのように感じます。特に、学校で若い女性トランぺッターとして活動していたときにそう感じました。そんなときには、ふたつの選択肢があります。頑張ってまた仲間に入ろうとするか、部外にいることを認めてそれを自分の声の一部としてしまうか。若いころにクラシックを勉強していて、その結論に至ったときのことを覚えています。オーケストラで多くの男性の管楽器奏者の中に座っていると、男性イデオロギーのようなものがあって、隣の男が大きな音でげっぷをしました。実に気持ち悪い瞬間でした。

そのとき、こんなふうに考えました。「私はどうすればいいのか。げっぷし返すのか、それとも単に笑えばいいのか」と。ときにはもっと排除されるように感じることかもしれません。表面的に聞えることかもしれませんが、私はついていけなかったのです。そんなパズルのようなものにどう私が適応していけばよいのか、理解しようとした瞬間でした。私の限界が周囲と違っていました。どのように対処し、そしてなお自分に嘘をつかないでいられるのか悩みました。私は、単に、自分がみんなとは違うのだということを受け容れました。それでいいのです。

私は、自分なりに自分自身を表現しようとしましたし、ときには、自分の中でそれ以上の力が出てくることもありました。しかし、もし本当の恐怖を凝視していたならば、やっていけなかったでしょう。過去を振り返らず、なるべくそんな状況に陥らないようにしました。活動にも慣れてきて、くだらないコメントやぞんざいな発言や冗談を認めないようになりました。もし目に見えない私自身への攻撃をすべて認めていたなら、私の心は壊されていたでしょう。そうした「目に見えないもの」をやり過すことを覚えたということです。あなたが記事の中で引用したアリス・コルトレーンの言葉、「あなたは頭を高くして火の中を歩かなければならない」のように。

JE うまくいっていますか。もしあなたが男性だったら、ジャズ界でもっと成功していたはずだと思いますか。現状で幸せでしょうか。

SR それはよく考えますよ。教師として若い女性ミュージシャンと仕事をするときや、子どもとワークショップを行っているときにだって。力を与えられていないすべての女性にとって、本当に最初の時点でどのように物事が始まるのかを見ていると。それから、リーダーとなることや意見を話すことが受け入れられなかったりすると。それで考えるのです。もし私が男であったなら、もちろん、違ったように演奏し、違った場所にいたのだろうな、と。しかし、私の音楽は大体は実験的なエッジやその外側にあって、それが好きなのです。ときどき、男の同僚を見ると、それはそれは自信があって良い気分なんだろうなと思います。口を開いた瞬間にいちいち否定されることがないとしたら、どのように感じるでしょう。うまくいかないと決めつけられる代わりに、成功するだろうと見られるとしたら、どのように感じるでしょう。そういったことが、いつ何時も戦う上で大きなことだと考えます。

特権というものが面白いのは、それを持っている人には見えないということです。男性のミュージシャンは、自分が経験する特権に気づかないものです。女性トランペッターとして、私はしばしば部外にいると感じました。想定されていることではないから、これが本当であることを証明しなければなりません。この視点は私のアイデンティティの一部ですし、私はこれが見えるレンズを大切にしています。世界のために、私はそれを何物とも交換しません。

JE たぶん、抑圧が興味深い音楽を作り出したりもするのでしょう。異なった視野です。

SR その通りです。世界のために、これを手放すことはしませんよ。

JE あなたの音楽は、フリージャズ、あるいは実験音楽なのでしょうか。

SR 今、周囲にはとても多くの用語が浮かんでいます。創造的な音楽とは、何人ものミュージシャンが取り組んでいる大きな言葉だと思っています。実験的な音楽という考えも好きです。私にとっては、少なくとも2018年においては、その用語に柔軟性があるように感じるだけです。実験精神の中には、パフォーマンス・アートやエレクトロニクスが含まれるのかもしれませんが、また一方では、AACM(創造的な音楽家の進歩のための協会)のようなフリージャズから来る真に深い緊張もあります。だから、ジャズは実験音楽のアイデアのひとつの源だと感じます。言うことがとても難しいですね。私がこの世界にどっぷり浸かっているから、それを何と呼べばいいのかわからないのです。

ミュージシャンの中には、「ジャズ」という用語を遠ざける人もいます。しかし私にとっては、もし他の人が私をジャズ・ミュージシャンだと認めてくれれば、大きな名誉です。私の心はそこにあるからです。

text by ジョルダナー・エリザベス Jordannah Elizabeth

アメリカの作家、音楽・芸術評論家、編集者、音楽家。市民権とフェミニストについてのライターでもあり、アメリカにおける民族やジェンダーについてのコメントを発信している。著書に『Don’t Lose Track Vol 1: 40 Articles, Essays and Q&As』(英国Zero Books)。

【翻訳】齊藤聡 Akira Saito

環境・エネルギー問題と海外事業のコンサルタント。著書に『新しい排出権』など。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley

ブルックリンのプラット・インスティテュートで教鞭(文化史)をとる傍ら、2013年にウェブサイト「Jazz Right Now」を立ち上げた。同サイトには、現在までに30以上のアーティストのバイオグラフィー、ディスコグラフィー、200以上のバンドのプロフィール、500以上のライヴのデータベースを備える。ブルックリン・シーンの興隆についての書籍を執筆中。http://jazzrightnow.com/

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