連載第32回 ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報

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text by ジーン・ランダース(Jeanne Landers)and ヴァネッサ・ヴァルガス(Vanessa Vargas)

translated by 齊藤聡 (Akira Saito)

1. シャーメイン・リー『Ggggg』

シャーメイン・リー Charmaine Lee のレコード『Ggggg』は、型破りなノイズの探求だ。冒頭の「CHUK」ではまるでシンセサイザーのように喉を鳴らす。すぐにジャケットカバーの意味がわかる。リーの顔がガラスの表面に押し付けられている。彼女は身動きできず不快なようにみえる。このサウンドは、(動物であれ人間であれ)身体がストレスに晒されたときに発するであろうものに聴こえる。サウンドは耳を削りとり、聴き手に向かってくる。このやり方が「歌」を連想させるとは思えないが、リーが創る動きに従って、アルバム内の異なる「テクスチャー」や「形」を感じることができる。

「Mboobles」を聴くと、子どもの頃にプールで泳いだ記憶がよみがえる。静かで平らな水面の下では鼻から泡が出ていて、充血した眼を開けていれば、自分の周りの水の音を聴き、動きを見ることができた。しかし、このトラックは、夏に子どもが楽しむような静かなものではない。「Mboobles」が終わるころにはパニックの瞬間もある。まるで水中で固まってしまい、何とかしようとして、吸い込んでいた限りの息を吐き尽しているようだ。緊急事態である。

「Pink」はヒップホップのビートで始まるが、キスしているのかガムを噛んでいるかのような音が介入する……口が動くのが聴こえ、リーはずっと唸っている。親しみやすいサウンドではあるが熱狂的なものでも自発的なものでもない。これが本アルバムのもっとも面白いトラックのひとつだろうと思う。「Ooeez」は「Pink」の続きである。またしても口から出てくる似たようなサウンドが聴こえる。唇の追求によりノイズが漏れ出てくるのだ。リーが自分の口で創出できる多彩なサウンドは印象的だ。

リーは実に多様なノイズを創出し、聴き手はそれに集中する。媒体として身体を使う能力には説得力がある。機械が震えるような瞬間も(「CheeksChic」のように)、水が動く瞬間も、人びとがキスしている瞬間も聴こえる。リーの創造力がアルバムに充満している。彼女の仕事は真に実験的であり、なにであれば「音楽」なのかと考えさせてくれる。私は、アルバムに対する先入観を、聴くという体験に持ち込んでいたことに気付いた。人間が呟き、唸り、叫び、鼻唄をうたうのを、座って聴く。こんなものはしばらく聴いていなかった。いったん受け容れたならば、現代美術のギャラリーにおけるサウンドインスタレーションと似ていると思えてきた。理解したければ、ヘッドフォンを装着して探索を始めるのだ。このアルバムは、ポストモダンのアートと同じように心を開いて接するべきだ。リーの『Ggggg』は注目にあたいする。そうすれば、音楽とノイズとの境界について検討せざるを得ないし、周辺の普通の音が持つエネルギーにも気付かされるだろう。

>> Charmaine Lee – Ggggg (bandcamp)

text by ジーン・ランダース Jeanne Landers

2. レンピス/ピート/デイジー『Throw Tomatoes』

マット・ピート Matt Pietが、「もし私たちの方法がイカレていて嫌気がさしたなら、うーん、トマトを投げてくれ」とライナーノートに書いているのだが、『Throw Tomatoes』は、そういった事態になることも含めて聴き手へと開かれている。ここには、完璧に開き直っていてエネルギーに満ちた2曲が収録されている。メンバーは、デイヴ・レンピス Dave Rempis(サックス)、マット・ピート Matt Piet(ピアノ)、ティム・デイジー Tim Daisy(ドラムス)。

1時間ほどの間、高速の動きと、三者の拮抗とが次々に展開される。2曲を通じて、レンピス、ピート、デイジーが独自のスタイルを持って即興音楽を形成していることが聴き取れる。プレイヤーの間で折り合わないことによる破綻はない。ある者が他の者に応答し、旋律、リズム、音色の変化が音楽となってゆく。

「To Play Is The Thing」では、はじめにデイジーが下地を創る。光速で出てきて、シュールにも素早くもピートとレンピスとが参入する。曲の間ずっと、メンバーの皆はとても活動的にプレイし、音楽に新しい層を追加してゆく。レンピスもピートも旋律を支配できるのだが、そのようなときにも、デイジーが背後に引くことはまったくない。彼はずっとパーカッシヴな感覚を与え、曲を前に押し進める。どの即興にも意図があって自然であり、数秒間の休止でさえもミュージシャン、聴き手の双方にとって必要な息継ぎなのだと感じられる。

2曲目の「The Thousand Natural Shocks」が生々しく続く。サックスの音はぐいぐいと前面に出てきて、2曲の間姿を隠すことはないのだが、一方のピアノとドラムスにも注目すべきである。一聴すると、レンピスが主力として引っ張っているように見えるのだが、そうではない。バンド内での主役交代が常にダイナミックに起きているのが事実だ。各楽器の音色を活かすよう自然にバランスが遷移し、三者間の魅惑的なインタープレイがあらわれる。

レンピス、ピート、デイジーの間に強い結束があるのは明らかで、それがこのレコードを魅力的なものにしている。この2曲は、グループによるライヴ演奏の3回目、4回目に過ぎないということを思い出すのも重要だ。三者が持っている強さがあるからこそ、今後のライヴもまた楽しみである。

>> Rempis / Piet / Daisy – Throw Tomatoes (bandcamp)

text by ヴァネッサ・ヴァルガス Vanessa Vargas

以上が、最新のニューヨーク・シーンである。

Edited by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley

(Jazz Right Now http://jazzrightnow.com/

【翻訳】齊藤聡 Akira Saito

環境・エネルギー問題と海外事業のコンサルタント。著書に『新しい排出権』など。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley

ブルックリンのプラット・インスティテュートで教鞭(文化史)をとる傍ら、2013年にウェブサイト「Jazz Right Now」を立ち上げた。同サイトには、現在までに30以上のアーティストのバイオグラフィー、ディスコグラフィー、200以上のバンドのプロフィール、500以上のライヴのデータベースを備える。ブルックリン・シーンの興隆についての書籍を執筆中。http://jazzrightnow.com/

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