連載第34回 ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
サン・ラ、ブラックス・ミス

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text by ジョン・モリソン(John Morrison) and ガブリエル・ジャーメイン・ヴァンランディンガム-ダン(Gabriel Jermaine Vanlandingham-Dunn)

translated by 齊藤聡 (Akira Saito)

1. 『Sun Ra / Of Abstract Dreams』

Strut Records

Sun Ra (piano)
John Gilmore (tenor saxophone)
Marshall Allen (flute, alto saxophone)
Danny Ray Thompson (baritone saxophone, percussion)
Akakatune (oboe, congas)
Eddie Thomas (drums)
Elo Omoe (bass clarinet, hand claps)
Akh Tal Ebah (trumpet, voice)
James Jacson (congas, voice)

ロバート・マッジ Robert Muggeによる1980年の古典ドキュメンタリー『A Joyful Noise』の3分の1が過ぎようとするあたりで、若い男たちが、神話的なサン・ラ・アーケストラ Sun Ra Arkestraがフィラデルフィア近くのジャーマンタウンに登場する箇所について話す場面が出てくる。「サン・ラの数軒隣に住んでいるんだよ、良いグループで…毎日彼らを見ているよ」。通りの場面は、アーケストラのメンバーが開いている地域の食料品店「The Pharaoh’s Den」へと移り変わる。前にあるカウンターのうしろ、やかましい若い子たちの真ん中で、バリトンサックスのダニー・レイ・トンプソン Danny Ray Thompsonが、もたれかかりながら、店の意義にとどまらず、コミュニティにおけるアーケストラの位置付けや目指すものまでを説明している。「コミュニティで、何か伝えるための場が必要だと感じたから、店を始めたんだよ。子どもたちは、大人になったときに問題ないよう、自己管理を教わる必要がある。それに、古代のファラオの名前で何かをやりたかったから始めたという理由もある。<Space is the Place>という標語を得て、子どもたちに、宇宙や明確さや自己管理を教えようと思った。」フィラデルフィアに来るまでの数十年間、サン・ラ・アーケストラはニューヨークやシカゴ南部に住んでいて、それぞれの都市の独自性から音楽のバンドを形成するように、コミュニティで活動していた。生ける伝説サン・ラは、地上で苦しむ私たちに優雅な言葉<space is the place>を教示し、外の世界についてだけでなく、地方やコミュニティという意味での<space>をも説いた。シカゴ時代のアーケストラは、ブルースの根源的なDNAを激しくも優雅に盛り込んだサウンドを発展させた。ブルースをマスターキーとして使うことによって、彼らは音楽を拡張し、積み上げ、密度や複雑さの水準においてエリントンのレベルにまで持ちあげることができたのだ。1950年代のこの時点まで、アーケストラの音楽は、シカゴへのアフリカン・アメリカンの大移動(great migration)を経ての動きや洗練化を体現したものだった。1960年代にニューヨークに住んでいる間は、絶え間ない実験と、ニューヨークの前衛芸術・音楽のシーンの激しく現代的な特性を取り込んでいた。70年代にニューヨークを去り、美しい自然がありながら都会的でもあるフィラデルフィア近郊のジャーマンタウンに移り住んでからは、近所と街全体とに深く根をおろして、頻繁にツアーとレコードのリリースを続けた。

なぜサン・ラもアーケストラもフィラデルフィアに来ることを選んだのか。そう問われると、この作曲家にして神話創出者は仰々しくも答えた。人道的な努力として、「この星を救うために、地球上でもっとも悪い場所に行かねばならなかった。それがフィラデルフィアであり、死の本拠地だった」と。サン・ラの多くのアイデアや宣言がそうであるように、この言葉も邪悪なものにみえる。しかし彼らのこの都市との関係や成し遂げた仕事という広いコンテキストでみれば、その見方は間違いだ。この時期に、音楽の外でアーケストラが行った中でもっとも大事なことは、食料品店Pharaoh’s Denを作ったことだ。アーケストラ.のサックス奏者ダニー・レイ・トンプソンがマネジャーとなって、街のどの一角にもある何千軒ものコンビニエンスストアとは根本的に違う店となった。

トンプソンは、棚に食料品を並べるだけでなく、コミュニティのメンバー(特に若者)に複雑な科学や数学、そしてアーケストラ独自のスペースエイジの謎なシステムを教育することを模索した。

『Of Abstract Dreams』は1974年か75年に録音されたものであり(正確な日付は不明)、フィラデルフィアの公立ラジオ局WXPNのアーカイブから発掘された。アーケストラの歴史における重要な時期の、短く優雅なスナップショットである。 古い曲「Inland in the Sun」で幅広に探索するようにはじまる。この日のアーケストラは、開かれていながらも集中し、自制的だった。この9曲を演奏するのは、ジョン・ギルモア John Gilmore(テナーサックス)、マーシャル・アレン Marshall Allen(フルート、アルトサックス)、ダニー・レイ・トンプソン Danny Ray Thompson(バリトンサックス)、アタカトゥン Atakatune(オーボエ、コンガ)、エディ・トーマス Eddie Thomas(ドラムス)、エロ・オモエ Elo Omoe(バスクラリネット)、アク・タル・エバー Akh Tal Ebah(トランペット、ヴォイス)、ジェームス・ジャクソン James Jacson(コンガ、ヴォイス)、そして、サン・ラ Sun Ra(ピアノ)。「New Dawn」は最初にサン・ラが濃密で壮大なコードを使い、音色が落ち着いてくるとバンドがヒートアップし、ギルモアがソロに入り、控えめなバラードと素晴らしい「フリー」の旋律との間を行き来する。「New Dawn」にはアイデアとナマのパワーが詰め込まれている。堂々として探索するようなサウンドは、この時期のアーケストラの録音に見出すことができる。「Sleeping Beauty」や「Some Blues But Not The Kind That’s Blue」もそうだ。「I’m Gonna Unmask The Batman」は愉しく面白いヴォーカル曲であり、サン・ラのファンキーで複雑に編まれたブギピアノに支えられている。サン・ラの深くスイングする左手のベースラインと乱射的なコードとのインタープレイが美しくダンスし、一方でバンドのブラスセクションはダイナミックなコール・アンド・レスポンスを行っている。ほとんど漫画的なほど深いバリトンのヴォーカルに加えて、曲のゆるく祝うような雰囲気が炸裂し、踊り出すような精神がその場にぶちまけられている。

疾走しエネルギーに満ちたアーケストラのスタンダード「I’ll Wait for You」でこの演奏が締めくくられる。サン・ラのプレイは美しく、リズミカルにゆるく、ハーモニーが豊かだ。彼の左手は音楽の重力の中心地となっており、それを台風の眼として、アンサンブルのメンバーが勢いに乗っている。この音楽は哲学と美学の探求の上に構築されており、そこには従来世界の破壊も新しいものへの楽観視もある。自制的なアンサンブルの中心には力強いバックビートと絶え間ない創造的な逸脱とがあり、それはヴィジョナリーなリーダーによって手懐けられ、方向づけられている。演奏の中盤において、アーケストラとサン・ラは落ち着き、柔らかくも意図的でもあるヴォーカルが繰り返される。「どこか遠くの場所、宇宙の何光年も先で…、私はあなたを待っている/人の眼が届かない場所で、私はアブストラクトな夢の世界を作るだろう…/私はあなたを待っている」と。このメッセージは多層化する。そして、サン・ラがまだ生きており、サン・ラとアーケストラが進むことを決めた場所であればどこでも会うことができるのだと気づかされるのだ。

text by ジョン・モリソン(John Morrison)

フィラデルフィア在住のライター、DJ、プロデューサー。ソロ・アーティストとしても、デビュー作となるヒップホップのアルバム『SWP: Southwest Psychedelphia』(Deadverse Recordings)をリリースした。ツイッターとインスタグラムは@John_Liberatorをフォローされたい。

2. ブラックス・ミスのデビュー作『Blacks’ Myths』

Atlantic Rhythms

Luke Stewart (b)
Warren G. “Trae” Crudup III (ds)

2018年6月22日リリース
Recorded by Mattson Ogg
Mastered by Sean McCann

私の祖父の名前はメイソン・E・ガスリーといって、1920年代に北カリフォルニアのガストニアという小さな町で生まれた。幼少期についてはよく知らない。何人かの家族が話していたことや、私が中学のときに彼に聞いたことくらいだ。彼と祖母のメアリーは、ボルチモアで一緒に暮らし始めた。私は38歳だが、祖父が人生の早い時期に下さなければならなかった難しい決断について、よく、不思議に思う。幼少期から、最初の息子が生まれるまでの間のことだ。

理由はわからないのだが、「Country Ghetto」を聴くと、祖父がガストニアの家の裏庭で星空を見上げている姿を幻視してしまう。その裏庭は何回か訪れた。また行ってみたいと思う。「Country Ghetto」は2018年に出されたデュオ・Blacks’ Mythsがグループ名を冠したLPの冒頭曲なのだ。しばらくこのキャットたちのことは耳にしてきたのだが、ようやく実際に聴いている。良いじゃないか。彼らがワシントンD.C.から出て来たからサウンドに親しみがわくのかもしれない(私の生まれ育ったボルチモアの近く)。アフリカのドローンとポリリズムがサウンドを支配していて、まるで家にいるみたいに感じさせられる。

アメイジングなドラマーのウォーレン・G・”トレエ”・クルーダップ3世 Warren G. “Trae” Crudup III、もっとも多忙なベーシストのひとりルーク・スチュワート Luke Stewartのデュオである(ふたりとも、グレイトなジェームス・ブランドン・ルイスのトリオのメンバーだ)。Blacks’ Mythsは時空間の連続体に漆黒のイメージを描く(これに賛同できない人は私にDMを送ってくれれば、殴り合いの日時を決められるよ)。「Upper South」と「Lower South」を聴くと、家族(や他の多くの人たち)が南部から北部に移り住んだことを想起させられ、彼らの血管を走ったであろう感覚の色が見え隠れする。彼らの悦び、痛み、ユーモア、希望がこの2曲の20分間に何度も去来する。同じように、アルバムの真ん中の曲「Black Fight」(うまく付けられたタイトルだ)でも、このテーマが続く。違いは微妙で、われらが英雄たちは感情の塊を最小限にとどめ、20分もの間、テーマをぐつぐつと煮立たせている。LPの最終曲は「The Spear」であり、力が誇示される。音色は力強く、数分間だけ踊っていたかと思うと、突然燃え盛る。この星への素晴らしい贈り物は高みへと立ち昇る。

Blacks’ Mythsは多くの音楽の影響を受けているが、正直なところ、そのことばかりが重要とは思えない。私にとっては、このレコードを祖父の思い出や思考に結び付けることは容易だし、各々のリスナーが時間をかけて自分自身の縁を見出すことが重要だ。メイソンはたぶんこのレコードが気に入らないだろう。だが、これが私の人生の重要な局面にどのように語りかけてきたのか、彼とわかりあうことができたらなと思う。

text by ガブリエル・ジャーメイン・ヴァンランディンガム-ダン(Gabriel Jermaine Vanlandingham-Dunn)

DJ、ライター、アフリカと民族音楽の歴史家、精神的・感情的に幸福なアメリカ黒人男性。

【翻訳】齊藤聡(Akira Saito)

環境・エネルギー問題と海外事業のコンサルタント。著書に『新しい排出権』など。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley

ブルックリンのプラット・インスティテュートで教鞭(文化史)をとる傍ら、2013年にウェブサイト「Jazz Right Now」を立ち上げた。同サイトには、現在までに30以上のアーティストのバイオグラフィー、ディスコグラフィー、200以上のバンドのプロフィール、500以上のライヴのデータベースを備える。ブルックリン・シーンの興隆についての書籍を執筆中。http://jazzrightnow.com/

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