連載第35回 ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
ネイト・ウーリー『Battle Pieces IV』

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text by シスコ・ブラッドリー(Cisco Bradley)

translated by 齊藤聡 (Akira Saito)

2018年12月3日(土) ニューヨーク・ブルックリン Roulette

Nate Wooley (tp)
Ingrid Laubrock (sax)
Sylvie Courvoisier (p)
Matt Moran (vibraphone)

ネイト・ウーリー Nate Wooleyはニューヨークにおいてもっとも思慮深く面白いミュージシャンのひとりである。「Battle Pieces」では、曲の構造を大胆に探索し、またライヴ演奏においては一貫して注目すべきシャープさを保ったまま、アンサンブルのメンバー間の関係を新たに作り上げる。このバンドは、アンソニー・ブラクストン Anthony Braxtonの「Tri-Centric Music Festival 2014」に向けて結成された。ウーリーが共演するメンバーは、イングリッド・ラウブロック Ingrid Laubrock(サックス)、シルヴィー・クルボアジェ Sylvie Courvoisier(ピアノ)、マット・モラン Matt Moran(ヴァイブ)であり、今に至るまで音楽のカッティングエッジであり続けている。

ウーリーは現在の創造的な音楽の世界でもっとも繊細なミュージシャンのひとりであり、彼の幅広い表現はすべての音を意味あるものにしている。この夜、ブルックリンのRouletteにおいて展開された音楽は、電車や自動車によって持ち込まれたカーニヴァルのようだった。遠くの音が聴こえてくる。どうやら遥か遠くのようだ。それは地平線で聴客のもとに到着したかのように拡張し、そして、どんどん近づいてきて聴く者の周囲と内部でぐるぐる回った。これはウーリーの仕事のおいしい部分のひとつだ。すべてのライヴ演奏において、ウーリーの音楽を聴く者は、宇宙のど真ん中に連れて来られたかのように感じてしまう。彼は、恐れをしらぬヴァルネラビリティをもって、刺激的で生命力のある色彩を持つ音風景を通じたイマジネーションへの旅に、親密に、聴く者を連れ出すのだ。

バンドは、ソロ、デュオ、トリオ、全員といろいろな関係の可能性を探索した。ラウブロックとモランとが柔らかい音で向かい合い、ラウブロックはその指で柔軟なフレーズを結晶化させた。ウーリーが空気と一体化するようなトランペットのノイズ音を発し、クルボアジェはサウンドを軽快なラプソディへと前進させるソロで中心に躍り出た。そして、大きなホールの静寂の中でサウンドが気化した。

2曲目では、ウーリーが低いドローンを発して曲の風景を構築し、他の3人はさまざまな種類のエネルギーや想定外の音量をもって空間を埋め尽くした。やがてウーリーのソロは同時に多方向に動き始めた。爆発的かつ優美。勢いはあっても権威的ではない。モランとクルボアジェが加わって曲を濃厚なものとし、その曲が溶けてしまう前に、ラウブロックが光と手触り感を付け加えた。そして、クルボアジェとウーリーのデュオがこの夜の白眉となった。擾乱させるピアノ、上を高速で滑空するトランペット。そこから、クルボアジェ、ラウブロック、モランがより陰鬱な雰囲気を創り、その中でウーリーのミュートが探索した。

この演奏は録音されており、2019年後半にRelative Pitchからリリースされる予定である(『Battle Pieces』、『Battle Pieces II』に続く第3作として)。

【翻訳】齊藤聡(Akira Saito)

環境・エネルギー問題と海外事業のコンサルタント。著書に『新しい排出権』など。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley

ブルックリンのプラット・インスティテュートで教鞭(文化史)をとる傍ら、2013年にウェブサイト「Jazz Right Now」を立ち上げた。同サイトには、現在までに30以上のアーティストのバイオグラフィー、ディスコグラフィー、200以上のバンドのプロフィール、500以上のライヴのデータベースを備える。ブルックリン・シーンの興隆についての書籍を執筆中。http://jazzrightnow.com/

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