#08 ミーティング・スポットとしての東京
〜JazzArtせんがわと秋のイベント/ツアー・シーズンを前に

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text by Kazue Yokoi  横井一江

 

今年の猛暑は歴史的だった。やっとその暑さも過ぎ去って行こうとしている。それを待っていたかのように、9月に入るとフェスティヴァルやイベントが続き、多くのミュージシャンが来日する。

日本最大級のジャズ・フェスティヴァル「東京ジャズ」は既にスタートしている。最大の注目はR+R=NOW(ロバート・グラスパー、テラス・マーティン、クリスチャン・スコット、デリック・ホッジ、テイラー・マクファーリン、ジャスティン・タイソン)だろうか。ティグラン・ハマシアン・トリオも演奏する。「東京ジャズ」のように大資本がバックアップし、有名ミュージシャンを招聘する大規模イベントもいいだろう。だが、「Jazz Artせんがわ」のように小規模ながらも独自の路線で継続させてきたフェスティヴァルもある。ここではそれに絡めて9月に来日するミュージシャン情報と冒険的なプロジェクトについて紹介したい。

*「Jazz Art せんがわ」と来日ミュージシャンたち

9月は「Jazz Artせんがわ」が開催されることもあって、即興系のミュージシャンの来日が多い。最大の注目は、ニューヨークから単身で初来日するトランペッターのピーター・エヴァンスだ。私はアクセル・ドゥナー以来の逸材だと思っている。彼はエヴァン・パーカーのエレクトロ・アコースティック・アンサンブルなどに参加しており、最初のソロ・アルバム『More is More 』(2006) がエヴァン・パーカーのレーベルPsiからリリースされていることもあって、かなり早い時期からニューヨークのオルタナティヴなシーンだけではなく、ヨーロッパでも注目されていたミュージシャンである。ちなみに彼が後に興した自分のレーベル名もまたMore is Moreである。

jazz & NOWはエヴァン・パーカーの招聘を皮切りに、長年に亘って主にイギリスの即興ミュージシャンを紹介してきた。9月には、イギリスのギタリスト、ジョン・ラッセルとノルウェーのドラマー、ストーレ・リアヴィーク・ソルベルグの日本ツアーを計画している。また、ネッド・ローゼンバーグ(as, cl, 尺八) はサインホ ・ナムチラク (vo)、サム・ベネット (per, vo)、ピーター・シェア(b)、内橋和久 (g, daxophone) とのユニット「サインコスモス」の中国公演の帰途日本に立ち寄る予定だ。エヴァンス、ラッセル、ローゼンバーグはエヴァン・パーカーのエレクトロ・アコースティック・アンサンブル (EAE) のメンバーであり、旧知のミュージシャンであることから、彼らや同じくEAEのメンバーの石川高(笙)を始めとする日本人ミュージシャンとの様々なセッションが企画されている。

即興ミュージシャンが来日する時は、各地で様々な日本人ミュージシャンと共演することが多い。海外のミュージシャンをユニットで招聘するには経費がかかりすぎて難しいケースや、日本での知名度がいまひとつの場合は共演者のネームバリューで集客したいという事情もあるのだろう。とはいえ、顔合わせの妙やそのようなセッションならではの面白さもまたあることも事実で、日常的にこのような形でブッキングが行われている。今回は、そこに海外からミュージシャンを招聘する側が横の繋がりをもったことで、国内/海外の枠を超えて出会いが広がり、音楽的にも面白みが広がったのではないだろうか。

「Jazz Artせんがわ」出演者には、ヴォイス・パフォーマンスの第一人者ローレン・ニュートンとスイスを拠点に活躍するベース奏者ハイリ・ケンツィヒもいる。デュオ・プロジェクト「Alone Together」での来日だが、佐藤允彦や有本羅人などとの共演も予定されている。奇遇としか言いようがないのだが、独自のヴォイス・パフォーマンスを確立したもうひとり、サインホ ・ナムチラクも河崎純の企画「ユーラシアン・オペラ・プロジェクト」で来日する他、「サインコスモス」でもライヴを行う。

そして、「Jazz Artせんがわ」では、昨年アナウンスされていたとおり、調布市の文化交流の相手であるカナダ、ケベック州のヴィクトリアヴィルにあるFestival International de Musique Actuelle Victoriaville (FIMAV) との交流プログラムが今年スタートした。5月に開催されたFIMAVには巻上公一らが出演している。「Jazz Artせんがわ」には、ケベックの音楽シーンを牽引するギタリスト、ルネ・リュシエが自身のクインテットで来日、甲府などでも演奏する。

また、今年も「Jazz Artせんがわ」に出演するフランス在住の日本フリージャズのパイオニア沖至も帰国し、川下直広 (ts)、波多江崇行 (g) と九州をツアー中だ。ニューヨーク在住の藤山裕子 (p) はレジー・ニコルソン (ds) らと「Jazz Artせんがわ」などで演奏する。フランス在住の仲野麻紀 (sax) はヤン・ピタール (oud) とのユニットkyでツアー。エジプトのウード奏者ムスタファ・サイード、常味裕司を招いたコンサートも予定されている。

今日(9月2日)からは藤井郷子/田村夏樹が、アンソニー・ブラクストンやワダダ・レオ・スミスらとの共演を通じて欧米では高い評価を得ているベーシストのジョー・フォンダを招聘、来日ツアーをスタートさせている。他にも北欧などからの来日もあるだろうし、私が把握しているのは一部にしかすぎない。

こう書いていくと、秋の日本はフェスティヴァル・シーズンのヨーロッパのようだ。その時期、ヨーロッパではノマドのようにミュージシャン達はフェスティヴァルからフェスティヴァル、街から街へと移動する。だが、日本の場合、特に即興ミュージシャンが出演するイベントや地方での受け皿が少ないため、どうしても東京プラス・アルファのブッキングになってしまうという問題がある。東京一極集中に陥りがちなために、個々の集客面で苦戦を強いられたり、ローカル・ミュージシャンの活動にも影響が及んだりしかねない。海外からも多くのミュージシャンがやってくることは、シーンの活性化に繋がるのだが、コーディネイト側の調整が必要な段階になっている。そういう意味では、今回ピーター・エヴァンスのツアー・ブッキング側とjazz & NOW が協力できたのはよかった。

また、情報が滞留し、なかなか広がっていかないという問題もある。SNSは仲間内での情報のやりとりではよいのだろうが、それ以上は難しい。入り口を見つけられない人もいるだろう。どこかに隠れたリスナーがいることは間違いないが、情報は届かない。情報発信は主として東京在住者向けで、地方のリスナーが視野に入っていないケースもある。情報誌『ぴあ』や『シティロード』があった時代を知る者としてはただただ歯がゆいのだが、実際私自身も「知っていたら行ったのに」というライヴやコンサートは一年に何回もあるのが実情だ。これは主催者側にとっても受け手にとっても残念なことである。これに対する決定的な解決策は思いつかないが、今後様々な方策を考えていくべきなのだろう。本誌でも知り得た情報はお伝えするようにしているが、ライヴ/コンサート情報提供を専門とするポータルサイトではないため、完全に網羅しきれてはいない。ここに記したツアー情報のリンクを下に張っておくことにしよう。

9月が刺激的な月になることは間違いない。

*各ミュージシャンのスケジュール(来日順)

8/31〜10/07  沖至:  http://jazztokyo.org/news/post-30205/

8/31〜10/28  ky (仲野麻紀 & ヤン・ピタール):  http://official.kyweb.fr/official.kyweb.fr/schedule.html

9/02〜9/10  ジョー・フォンダ:  http://jazztokyo.org/news/post-29523/

9/12〜9/21  ローレン・ニュートン& ハイリ・ケンツィヒ:  http://jazztokyo.org/news/post-29702/

9/13〜9/23  ルネ・リュシエ:  https://www.tochoh.com/performer/P54829/event

9/14〜9/23  ジョン・ラッセル & ストーレ・リアヴィーク・ソルベルグ:  http://jazztokyo.org/news/post-29757/

9/15〜9/21  ピーター・エヴァンス:  http://jazztokyo.org/news/post-29539/
(本誌の特集:  http://jazztokyo.org/category/features/peter-evans/

9/17〜9/21  ネッド・ローゼンバーグ:  https://www.tochoh.com/performer/P21106/event?month=201809

9/18〜10/04  サインホ ・ナムチラク:  http://jazztokyo.org/news/post-30399/

 

*ユーラシアンオペラ・プロジェクト 2018

サインホ が来日するという噂から、音楽詩劇研究所の「ユーラシアンオペラ・プロジェクト」の活動を知ることとなった。

音楽詩劇研究所を主宰するのは河崎純。私がベーシスト河崎純を知ったのは2000年前後、EXIAS-Jという音楽アソシエーションに彼が参加していたからで、何度か即興演奏のライヴを見た記憶がある。その後、舞台作品の音楽監督、作曲・演奏で活躍していることはシアターχの公演案内などで目にしていたが、音楽詩劇研究所を立ち上げ、独自の活動を行っていることは知らなかった。

9月27日、28日に座・高円寺2で上演される「ユーラシアンオペラ・プロジェクト」は、ユーラシアをルーツとする異なるバックグラウンドを持つ4人の歌手、サインホ・ナムチラク、サーデット・テュルキョズ、アーニャ・チャイコフスカヤ、マリーヤ・コールニヴァを招聘し、日本人ミュージシャンやダンサーとユーラシアンオペラ「Continental Isolation」を共同制作するプロジェクトで、作曲・演出は河崎純、舞台美術はサインホ ・ナムチラクである。河崎はこれまで音楽詩劇研究所で、ロシア、中央アジア、トルコなどで様々なバックグラウンドを持つミュージシャンとコラボレーションを行ってきた。そのような中で、昨年サインホ ・ナムチラクと共にパフォーマンスをする機会を得たことがきっかけで、彼女を今回の「ユーラシアンオペラ・プロジェクト」に迎えることになったのだという。このプロジェクトはいわば河崎のこの数年間の活動の集大成とも言うべきものである。

4人の歌手について簡単に紹介しておこう。いずれも類い稀な個性の持ち主だ。トゥバ出身のサインホ は何度か来日しているので、そのヴォイス・パフォーマンスの独自性とその凄みに触れた人も多いのではないかと思う。河崎の話によると、彼女は書家としても創作活動していて、現在は総合的なパフォーマンスなどもを行っているという。サーデット・テュルキョズは以前にも来日しているが、カザフ系のルーツを持ち、現在チューリッヒを拠点に活動しており、そこに住むトロンボーン奏者ニルス・ヴォグラムや「コッホ〜シュッツ〜シュローダー」、また八木美知依などと共演している。アーニャ・チャイコフスカヤはウクライナ出身で、ウクライナ古謡の研究、また日本に来日したこともあるガイヴォロンスキーらとも活動している「ウクライナの真珠」と評される歌手。イルクーツク生まれのマリーヤ・コールニヴァは、様々な音楽、演劇のプロジェクトに参加し、女優、歌手としてドラマシアター で活動している。

ユーラシアンオペラと銘を打っているだけに「Continental Isolation」にはストーリーがある。舞台はユーラシアのどこかにある架空の国で、グローバリズムと民族主義の間に揺れる人々の物語である。そのベースにあるのは、河崎が各地を訪れて見聞きしたこと、様々な民族について得た知見である。ユーラシアの少数民族といってもいろいろだが、その信仰、宗教やシャーマニズムに基づく精神性、現代人とは異なる死生観を彼は強く感じたようだ。この物語を河崎は「孤独な時代の神謡集」と表している。架空の話ではあるが、4人の歌手のバックグラウンドに入り込んでいくような内容だ。それを現代的な表現活動を行っている彼女たちがどう演じるのか。作品の中で問いかけているのは、もはやモダンが破綻しつつあるが、かといってプレモダンにも戻れない、そのような中での葛藤である。それは我々に思考を促すものだ。それこそが批評なのである。先日、私は話を聞きに稽古場を訪ねたが、そこで見た練習はまだ絵でいうならばエスキースのような状態だった。ヴォーカルとダンスのみでの練習だったので、音楽家が入るとまた変化していくだろう。そして、サインホ を始めとするミュージシャンが来日し、リハーサルを重ねていく中で、言葉と音楽と身体表現が絡み合い、舞台表現は完成されていくに違いない。即興表現も含めたプロセスそのものが創作なのだ。その舞台を見ることを楽しみにしている。

出演者は下記のとおり。

作曲・演出:河崎純
舞台美術:サインホ・ナムチラク
出演:サインホ・ナムチラク サーデット・テュルキョズ アーニャ・チャイコフスカヤ マリーヤ・コールニヴァ
演奏:八木美知依(箏)ヤン・グレムボツキー(ヴァイオリン)小森慶子(クラリネット)小沢あき(ギター)チェ・ジェチョル(韓国打楽器)河崎純(コントラバス )大塚惇平(笙)
ダンス:亞弥、三浦宏予
ヴォーカル:三木聖香、伊地知一子、吉松章、津田健太郎、坪井聡志
舞台監督:白澤吉利 照明:岡野昌代 音響:増茂光夫(楽屋) 演出助手:三行英登

この「ユーラシアンオペラ」以外にも4人の歌手と日本人ミュージシャンも多く参加するコンサート「Incredible sound vision of Eurasia in Tokyo」が9月30日にスーパーデラックスで行われる。音楽家同志の出会いと即興コラボレーションも注目である。そして、10月4日に盛岡でもサインホ・ナムチラク、河崎純(コントラバス)、三浦宏予(ダンス)で「ユーラシアンオペラ・プロジェクト・イン・盛岡」もまた予定されている。

9/27〜10/04  ユーラシアンオペラ・プロジェクト 2018:  http://jazztokyo.org/news/post-30399/

*「Jazz Art せんがわ」の行方

本誌No. 245の更新準備に入っていた今日、巻上公一が「Jazz Art せんがわ 今年でラストになります」とツイートしていることを知った。彼のサイトにはこう書かれていた。(→リンク

【速報】Jazz Art せんがわ 今年でラストになります。

来年度より、せんがわ劇場が指定管理者制度になり、
11年間続いたフェスを中断する意向との通達を受けました。
ケベック州との文化交流がはじまったばかりですし、
海外そして国内からもたくさんの出演希望が来ていますが、
大変残念ながら、いったん幕をおろす必要があるようです。
そんなわけで今年がラストフィナーレです。
Jazz Art せんがわ2018 大きく盛り上げましょう。

せんがわ劇場の担当者にも尋ねたところ、来年4月からせんがわ劇場の運営が現在の調布市から他の団体に移行する方向で動いているため、今までのかたちでの開催は今後むずかしいということ、見逃した,見たかったという方を少しでもなくしたいという気持ちから開催前に情報を伝えたということがわかった。

地方自治体が所有するホールや劇場などに指定管理者制度を導入する動きは以前から各所で行われている。その功罪については調査していないので、まだなんとも言及できない。しかし、11年続いてきたフェスティヴァルで、今年からカナダ、ケベック州との交流プログラムが始まったばかりなのに、現状での開催が難しくなるというのは残念としか言いようがないのだ。確かに、音楽ファンではない一般大衆のイメージするところのジャズと「Jazz Art せんがわ」でのコンサート・プログラムは随分違っているのだろう。3名のプロデューサー、巻上公一(総合プロデューサー)、藤原清登、坂本弘道が複眼的にプログラム作成の任に当たる独自のシステムの下(ヨーロッパのフェスティヴァルでは決まって音楽監督が置かれているが、複数名がその任に当たるというケースは私の知る限りない)、JAZZとARTという2つのキーワードから毎年オリジナルなプログラムを呈示してきたことは評価されるべきだ。これまで、山下 洋輔から灰野敬二、あるいはチャラン・ポ・ランタンまでバリエーションに富んだミュージシャンが出演し、日本を代表する詩人の白石かずこや吉増剛造、写真家の細江英公、舞踏の大野慶人が出演したフェスティヴァルが他にあるというのか。調布劇場でのコンサートの他、毎年恒例となった「子供のための音あそび」、「CLUB JAZZ屏風」や「公園イベント」など地域イベントということを考慮したユニークなプログラムもある。第2回から毎年足を運んでいるので、この10年間にいかに地域に馴染み、街に溶け込んできたかをその空気から感じてきた。単なるショーケースとしてのフェスティバルと違って、このようなイベントは時間をかけて培われてきただけに、返す返すも残念という言葉しか出てこない。また、毎年同時開催されていたLAND FESの行方も気になるところである。

「Jazz Art せんがわ」についてはまだまだ書き足りないことがあるが、それは今年のフェスティヴァルが終了してからにしたい。

今、我々に出来ることはひとつだけである。それは会場へ足を運ぶことだ。

「Jazz Art せんがわ」公式サイト:  http://jazzartsengawa.com

 

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横井一江

横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。The Jazz Journalist Association会員。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。海外レポート、ヨーロッパの重鎮達の多くをはじめ、若手までインタビューを数多く手がける。 フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

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