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BooksR.I.P. 児山紀芳No. 251

#094 『児山紀芳/ジャズのことばかり考えてきた』

text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

著者:児山紀芳
書名:ジャズのことばかり考えてきた
This is all I feel about Jazz
版元:白水社
初版:2018年7月20日
定価:本体3000円+税
体裁:4/6版 272頁
腰巻コピー:
「スイングジャーナル」編集長、ラジオ「ジャズ・トゥナイト」のパーソナリティ、日本初のディスコグラファー、プロデューサー、ジャズ・フェスティバルの総合監修、BOXMANと呼ばれる音源発掘家・・・。つねにジャズミュージシャンとファンの架け橋になってきた、ジャズ・ジャーナリストの第一人者による初の著書。


去る(2019年)2月3日、胃がんのため急逝されたジャズ・ジャーナリスト児山紀芳さんの自伝的著書である。正式な書名は「ジャズのことばかり考えてきた」だが、ボールドの拡大サイズ・タイポだけを読み綴ると「ジャズばか考」になる。趣味のジャズがそのまま仕事となって人生を全うできた幸せな方であるが、本人はジャズ以外のことは考えなかったという意味で謙遜して「ジャズばか」を名乗っているのだろう。腰巻コピーにあるように児山さんは専門誌「スイングジャーナル」の編集長に始まりラジオ・パーソナリティ、レコード・プロデューサー、ジャズ・フェス監修者などいろいろな顔を持つのだが、これらがすべて自ら求めたのではなく、向こうからやってきたという。ぼくがいちばんよく知るのは70年代をリアルタイムで体験した編集長時代で、その関わりの一部を別稿「ある音楽プロデューサーの軌跡 #47 児山紀芳さんのこと」に記した。その体験から判断すると、児山さんのキャリアの成功の源は「スイングジャーナル」という専門誌の権威付けにあったと思う。いわく、「スイングジャーナル選定ゴールド・ディスク」「スイングジャーナル・ジャズ・ディスク大賞」「スイングジャーナル・オーディオ大賞」「スイングジャーナル幻の名盤シリーズ」等々。レコード・メイカーだけにとどまらず、オーディオ・メイカーをも巻き込んだ。メイカーは選定を受けるため、大賞を受賞するため企画に頭をひねり、性能アップに勤しんだ。破格の広告費を払ってカラー広告を打ち読者やディーラーにアピールした。来日するミュージシャンを通じてカラー満載、1センチを優に超える束(つか)の「スイングジャーナル」の存在は欧米にも鳴り響いた。児山さんは編集長として海外に飛び、消息を絶ったミュージシャンを探し出し、リアルタイムでシーンをレポートし、裏付けに励んだ。本来はデスクに座り、部員を現場に飛ばすのだが児山さんの場合は自ら行動した。ジャーナリストとしては当然なのだが、現場が好きでじっとしていられなかったのだろう。また、自分以上に知識と情報を蓄えている者は他にはいない、という自負がそうさせたのだろう。その辺のすべてがほぼ時系列を追って詳述されている。惜しむらくは、現役時代の講談師さながらのスリリングな語り口(筆致)ではなく、好々爺が若者に歴史を伝えるような語り部のそれなのだ。おそらく、編集者の聞き書きなのだろう。現役時代のジャーナリスティックな筆致を知る者にはそれがやや物足りなかった。とくに「Ⅲ ジャズ・ジャイアンツの肖像」でそれを感じた。とは言っても、ひとりで何人分もの活躍をした稀代の「ジャズばか」の一代記である。読者はショップに並ぶCDやレコード、クラブで演奏するミュージシャンや輩出したシーンの由ってきたる内実をヴィヴィッドに知ることになる。「Ⅰ  ジャズ・ジャーナリズムの誕生 〜大統領のジャズ・パーティ ⏤文化としてのジャズ」では、自らサックス奏者でもあったジミー・カーター大統領がジャズを「アメリカを代表する文化」として位置付ける施策の数々が語られる。「ジャズは反体制の音楽」と叫ぶ対象は搾取する側であり、文化として認め施策を講じる大統領の下にはあのチャーリー・ミンガスが車椅子で駆けつけ、涙を流すのだ。感動的、且つ考えさせられるシーンである。
2004年にアルバート・アイラーのCD9枚組ボックス・セットが発売された時、児山さんのインタヴューが収録されているというので話題になった。当然、「Ⅲ ジャズ・ジャイアンツの肖像」で一項が設けられていると思ったが、どこを探してもない。非業の死を遂げたアイラーはここでも抹殺されたか。語られることの少ない「Ⅳ これからのジャズ」は、リーダー不在の混沌とするジャズ・シーンはさすがの児山さんにも予測不可能だったのか? これらの不満は巻末で対談の相手を務めたNHK・FM「ジャズ・トゥナイト」田村直子ディレクターが発売PRイベントで聞き出すことに成功、解消されることとなった。以下を併せ読まれることをお勧めする。(本誌編集長)
https://webfrance.hakusuisha.co.jp/posts/1117

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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