#1280 『Protean Reality (Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz) / Protean Reality』

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text & photo by Takeshi Goda 剛田 武

Clean Feed CF358CD

Chris Pitsiokos (as)
Noah Punkt (el-b)
Philipp Scholz (ds, perc)

1. torturer’s horse
2. green water
3. calmly on

Recorded on January 8th, 2015 in Leipzig, Germany
Recorded, mixed and mastered by Noah Punkt
Produced by Chris Pitsiokos, Noah Punkt and Philipp Scholz
Executive production by Pedro Costa for Trem Azul
Design by Travassos
Cover art by Noah Punkt

 インターネットが生んだ奇跡のトランスアトランティック・コネクション

2015年初頭クリス・ピッツィオコスはヨーロッパを訪れた。1月6日にパリ・Taisci Musiqueでフレッド・マーティ Fred Marty(b)とのデュオでライヴを行い、その翌日ドイツのライプチヒへ移り、1月7日Tabori、1月8日Dr. Seltsamにてノア・プント(b)とフィリップ・ショルツ(ds)とのトリオでライヴを行った。「Protean Reality(変幻自在の現実)」と命名されたそのトリオで1月8日の昼間にレコーディングされたのが本作である。
アルバムには20分前後の長尺トラックが3曲収録されている。幾何学模様を描くサックスに、鉱物を圧搾するドラムロールと、ドゥームメタリックな電気ベースが加わり、空気が硬直するような張り詰めた音空間が創造される。それぞれ別の時間軸で奏でられる熱演は、すぐにお互い干渉し合い滲み合い、音と音の境界が曖昧になり、肉体の存在を忘れさせる無間の静寂(しじま)で音響ダンスを踊る。聴き手と演じ手の挟間も消え失せ、目の前の「現実」が変幻自在に変容するままに意識が漂泊する。

ピッツィオコス/ウィーゼル・ウォルター/ロン・アンダーソンのトリオによる『Maximalism(最大主義)』で提示された、時間を切断する丁々発止の演奏に比べて、より長い時間軸で変幻するこのトリオの演奏は、西欧音楽の長い歴史を想起させると言ってもこじつけではないだろう。レーベルの資料に「オーネット・コールマン+セックス・ピストルズ+ヤニス・クセナキス」と紹介されている通り、フリージャズ/パンク/現代音楽のフュージョン(融合)は、既存のジャズ/フュージョンの死滅への祝福と言えよう。
Jazz Right Now #9「音楽を進化させる異邦人」で書いたように、ニューヨークには様々な国のアーティストが訪れ交歓する状況がある。しかしこの作品の成り立ちにはより現代的な交歓模様が示されている。きっかけは、ピッツィオコスが友人に会うためのプライベートなヨーロッパ旅行に際して、Facebookで告知した「ライヴ・ブッキング募集」の告知だった。それ以前からYouTubeの動画を観てピッツィオコスに興味を抱いていたプントがそれに応えて、自分の音源を送り、それを気に入ったピッツィオコスが同意し、ライプチヒでの公演が実現したという訳だ。2015年1月の時点でピッツィオコスは2作のアルバムをリリース(内1枚は100枚限定の私家盤)しただけで、ヨーロッパではもちろん、アメリカでもほぼ無名の存在だった。そんな彼を筆者と同じようにYouTubeで「発見」し、チャンスに恵まれて共演が実現し、その結果、即興音楽の未来を示唆する驚異的なプロジェクトが誕生した。インターネットが生んだ新時代の邂逅と言える。
1984年生まれのプント、1990年生まれのショルツは共にライプチヒを拠点に、ロック/ノイズ/ジャズ/現代音楽を横断する活動を続ける演奏家/作曲家/即興音楽家である。プントはインディレーベル「otherunwise」を主宰し、ドイツの個性的ミュージシャンの作品をリリースしている。彼等自身のユニットも多数あり、いずれもジャンルの壁を軽々と乗り越え、即興音楽の未来の地平を切り開いている。ライプチヒを中心にしたドイツの新たな即興シーンに興味津々である。
このトリオは、2016年2月4~11日の8日間のヨーロッパ・ツアーを敢行する。NYとライプチヒの奇跡の遭遇が更なる交歓を生むことに期待したい。
ピッツィオコスは同時にClean Feedからリリースされるスロヴェニアのドラマー、ドレ・ホチェヴァー Dre Hocevarの新作『Collective Effervescence』にも参加し、個性的な演奏を聴かせている。(剛田武 2016年1月17日記)

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剛田武

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら、「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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