#1355 『Le Boeuf Brothers + Jack Quartet / Imaginist』

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text & photo by Takehiko Tokiwa 常盤武彦

Panoramic Recordings / New Focus Recordings PAN06-637513 8396 79

Le Boeuf Brothers
Remy Le Boeuf (as,oboe,b-cl)
Pascal Le Boeuf (p)
Ben Wendel (ts)
Ben Street (b)
Martin Nevin (b)
Justin Brown (ds)
Peter Kronreif (ds)

Jack Quartet
Christoper Otto (vln)
Ari Streisfeld (vln)
John Pickford Richards (viola)
Kevin McFarland (cello)

Paul Whitworth (narrator)

  1. Prologue
  2. Alkaline
  3. Pretenders
  4. A Dream: Introduction
  5. A Dream: Grave Mound
  6. A Dream: An Artist
  7. A Dream: Here Lies…
  8. A Dream: He Began To Cry
  9. A Dream: At Long Last
  10. Exquisite Corpse I: Foreshadow
  11. Exquisite Corpse II: Flashback
  12. Epilogue

Recorded by Andy Taub at Brooklyn Recording, NY on April 29 and May 9, 2014.

Produced by Pascal and Remy Le Boeuf.


現代ニューヨーク・ジャズの次代を担うと大きな期待を集めている、1986年にカルフォルニア州サンタクルーズに生まれたレミー&パスカルの一卵性双生児兄弟のル・ブーフ・ブラザースの第4作は、高い評価を受けた前々作(前作はリミックス・アルバム)『In Praise of Shadows」(2011)で数曲披露したジャズ・ユニットとストリングス・クァルテットの融合のコンセプトを拡大し、全曲にわたって共演している野心作だ。ジャズ・フォーマットのグループにストリングスを融合するプロジェクトは、挟間美帆(p,arr)のm_unit、リンダー・オー(b)のニュー・プロジェクト”Double Quartet”など、近年の若手のニューヨーク・ジャズのトレンドだが、新たな傑作が加わった。ル・ブーフ・ブラザースは自身のグループでの活動と並行してサックス奏者のレミーは、ダニー・マッキャスリン(ts)やボブ・ミンツァー(ts)のグループに参加する一方で、ビッグバンド・コンポーザー/アレンジャーとしても知られ、ピアニストのパスカルは、リーダーを務めるトライアングル・トリオや、ディアンジェロ(vo,kb)のツアー・サポート・メンバーとしても活躍している。また前作の『Remix』で全貌が明らかになった、ニューヨークのアンダーグラウンド・シーンで、デヴィット・ビンニー(as)、マーカス・ストリックランド(ts)やル・ブーフ・ブラザースが音源ファイルを交換しエレクトロニカやリミックスを施して新たな音楽を創造する手法は、ニューヨーク・タイムス紙でも次なるニューヨーク・ジャズのムーヴメントとして注目された。本作ではレギュラー・クァルテットにゲストにニー・ボディのベン・ウェンデル(ts)を迎えフロント・ラインを強化、ストリングスのジャック・クァルテットは、ニューヨーク・ベースでスティーヴ・ライヒやジョン・ゾーン(as)とのプロジェクトで知られる現代音楽ユニットである。

『Imaginist』とは、ロシア革命期に勃興したセルゲイ・エセーニンらに代表されるロシア文学の、捉えたイメージと隠喩を長く連鎖する手法で知られる詩、イマジニズムのムーヴメントを意味している。レミーとパスカルは「本作は、プロローグに始まりエピローグに終わる一冊の本のイメージで制作した」と語る。アルバムの中核をなすのは、フランツ・カフカの短編小説『夢』にインスパイアされた5曲の組曲と、シュルレアリスムにおける、複数の作家が互いにどのようなものを制作しているかを知らされず、自分のパートだけを作って一つの作品を完成させるゲーム”Exquisite Corpse”(優美な屍骸)を、パスカルが音楽に応用した実験的な2曲である。”A Dream: The Musical Imagination of Franz Kafka”は、主人公のジョセフ・Kが、誰かが墓石に彼の名を刻んでいるところを見るという悪夢のストーリーであり、俳優のポール・ホイットワースの朗読とともに、様々な楽器が奏でる旋律がタペストリーを織りなし、ドラマティックでイマジネイティヴな音世界を描き出している。同作は2011年のチェンバー・ミュージック・アメリカのニュー・ジャズ・ワークとしてレミーが作曲し、3年をかけてさらに洗練された完成度で録音された。本作における作曲的なアプローチをした即興演奏についてパスカルは「4人の卓越したプレイヤーが、従来のジャズ・アンサンブルとは全く異なる一つのヴォイスを生み出すジャック・クァルテットとともに演奏して、私たちは従来の即興演奏とは異なる新たな手法を探求した。そしてインプロヴィゼーションを内包しながら、緻密な作曲/アレンジを両立させることができた」と語る。”Alkine”では作曲された部分と即興の部分が激しく交錯してメロディ・ラインを抽象化しながら、双方を重ね合わせて曲を完成させることを試みたそうだ。”Prologue”はレミーとジャック・クァルテットのデュオで、大まかなディレクションのみのインプロヴィゼーションで演奏され、”Exquisite Corpse”も同様の手法でフル・メンバーでプレイされた。”Pretenders”は、前々作のコンセプトに近いメロディアスなプレイで、レミー&パスカルのジャズ・ユニットとストリングスの融合のヴァリエーションの豊富さがわかる。”Epilogue”も、またレミーとジャック・クァルテットが美しいアンサンブルを聴かせ、エンディングを飾った。

11月16日のブルックリン、ウィリアムスバーグのナショナル・ソーダストでのCDリリース・コンサートでは、”A Dream: The Musical Imagination of Franz Kafka”と”Exquisite Corpse”は演奏されなかったが、2人のオリジナルが様々なコンビネーションで演奏された。ジャック・クァルテットが入らないクインテットでも、このグループがコンテンポラリー・ジャズの最前線にいることを改めて認識させる快演だった。レミーが昨年、慶應義塾大ライト・ミュージック・ソサィエティのコミッションで作曲し、山野ビッグバンド・ジャズ・コンテストで最優秀賞に輝き、今年3月には来日し慶應ライトと共演した”Strata”も、ウィズ・ジャック・クァルテット・ヴァージョンで演奏され好評を博した。ニューヨーク・ジャズ・シーンに、また新たな潮流が巻き起こる。

Le Boeuf Brothers Website : http://www.leboeufbrothers.com/

 

 

 

 

 

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常盤武彦

常盤武彦

常盤武彦 Takehiko Tokiwa 1965年横浜市出身。慶應義塾大学を経て、1988年渡米。ニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・ジ・アート(芸術学部)フォトグラフィ専攻に留学。同校卒業後、ニューヨークを拠点に、音楽を中心とした、撮影、執筆活動を展開し、現在に至る。著書に、『ジャズでめぐるニューヨーク』(角川oneテーマ21、2006)、『ニューヨーク アウトドアコンサートの楽しみ』(産業編集センター、2010)がある。

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