#1367 『Frank Kimbrough / Solstice』

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text & photo by Takehiko Tokiwa 常盤武彦

Pirouet Records PIT3097

Frank Kimbrough (p)
Jay Anderson (b)
Jeff Hirshfield (ds)

  1. Seven
  2. Here Come The Honey Man
  3. Solstice
  4. The Sunflower
  5. Albert’s Love Theme
  6. Question’s The Answer
  7. From California With Love
  8. El Cordobes
  9. Walking By Flashlight

Recorded by Chris Allen at Sear Sound NYC on May 1, 2016.

Produced by Jason Seizer for Pirouet Records


フランク・キンボロウ(p)は、唯一無二の美しいピアノ・タッチとメロディ・センスで知られ、現代ジャズ・ピアノの吟遊詩人ともいうべきアーティストだ。ドイツのレーベル、ピロウェット・レコードからリリースされた本作は、20年以上の共演歴を持つジェイ・アンダーソン(b)とジェフ・ハーシュフィールド(ds)とのトリオで、カーラ・ブレイ(p)、ポール・モチアン(ds)、アンドリュー・ヒル(p)、アネット・ピーコック、マリア・シュナイダー(arr,comp.)らの曲をカヴァーし、自らの30年を越す音楽キャリアで影響を受けたアーティストをオマージュしている。

ノース・キャロライナ州出身のキンボロウのキャリアは、1980年にワシントンDCに進出し、シャーリー・ホーン(vo,p)と出会ったことから始まる。ホーンとの共演で大きく成長したキンボロウは、翌年ニューヨークに拠点を移しポール・ブレイ(p)とアンドリュー・ヒル(p)に師事、オリジナル・スタイルを構築する。1982年からは、デューイ・レッドマン(ts)とのツアーや多くのレコーディング、ギグに恵まれ、ニューヨークのジャズ・シーンで頭角を顕した。キンボロウは1986年にシャリー・ホーンの推薦でファースト・アルバムをリリースして以来、本作まで20を超えるアルバムを録音している。そのフォーマットは、ソロ、デュオ、クァルテットと多岐にわたっており、リー・コニッツ(as)、ポール・ブレイ(p)とのデュオ作品は高く評価された。ラージ・ジャズ・アンサンブルの分野でも、キンボロウは大きな足跡を残している。1992年にベン・アリソン(b)が立ち上げたジャズ・コンポーザーズ・コレクティヴでは13年にわたって中核を担い、アリソン、テッド・ナッシュ(as)、ロン・ホートン(p)らと多くの野心的なプロジェクトを完成させ、アルバムをリリースしている。1993年から参加したマリア・シュナイダー・オーケストラでも、グラミー賞受賞/ノミネートされた作品群で重要な役割を果たしている。シュナイダーは「フランクが紡ぐメロディのような曲が書けたなら、どんなに素晴らしいことでしょう」と絶賛している。キンボロウは「素晴らしいアーティストたちに、絶好のタイミングで出会えた」と自らのキャリアを振り返る。

『Solstice』は、カーラ・ブレイ(p)の”Seven”で幕開ける。キンボロウは、ティーンエイジャーの頃からカーラの音楽に魅了され「このシンプルなメロディにカーラの天才性が凝縮されている」と語る。ミニマルな音で、緊密なインタープレイを聴かせる。”Here Come The Honey Man”では、恩師シャリー・ホーン(p,vo)の演奏にインスパイアされて、キンボロウはガーシュインに挑むことを決意した。キース・ジャレット(p)、チャーリー・ヘイデン(b)、ポール・モチアン(ds)のトリオを彷彿させるスペイシーなプレイだ。タイトル曲”Solstice”は、妻で作曲家/詩人のマリーアン・ド・プロフェティスの作曲だ。内省的なメロディが美しい。”The Sunflower”は、キンボロウがグループに在籍したポール・モチアン作。フリーキーなプレイを、ジェフ・ハーシュフィールド(ds)が繰り広げ、ジェイ・アンダーソン(b)が鋭く斬りこむ。キンボロウは、モチアンとの思い出をこの曲に込めた。ゲイリー・ピーコック(b)、ポール・ブレイ(p)のパートナーだったアネット・ピーコックがアルバート・アイラー(ts)に書いた”Albert’s Love Theme”は、ポール・ブレイ(p)の愛奏曲でもあった。アイラーの激しいプレイの背後にある、静的なスピリチュアリティを描いたと思われる曲である。本作で唯一のオリジナル曲である”Question’s The Answer”は、個性あふれるカヴァー曲の中で、ピアノのメロディ・ラインが綴れ織りのように展開し、大きな存在感を放っている。”From California With Love”は、ポール・ブレイと並んでキンボロウに大きな影響を与えたアンドリュー・ヒルの70年代の作品。キンボロウは「ミステリアスに美しく慈愛に満ち、トラディションにしっかりと繋がりながら、モダンでフリーなアンドリューの曲を、今も愛してやまない」と語る。アネット・ピーコックがスペインの闘牛士マニュエル・ベニテズに書いた”El Cordobes”も、ポール・ブレイの60年代中期のレパートリーだ。静的な曲が多い本作の中で、キンボロウの激しさが吐露する一曲である。エンディングを飾るのはマリア・シュナイダーの”Walking By Flashlight”。2013年にシュナイダーが、ソプラノ歌手ドーン・アップショウと制作したクラッシック作品『Winter Morning Walks』に収録され、チェンバー・オーケストラに包まれて、キンボロウの美しいタッチが際立っていた。本作でもキンボロウのタッチと、アンダーソンとハーシュフィールドのスペースを活かしたプレイの間から、あたかもストリングスが聴こえてくるようである。キンボロウは、アンンダーソンとハーシュフィールドにレコーディング当日まで演奏曲を伝えず、リハーサルもしなかった。スタジオでスポンテニアスに湧き上がるインタープレイを、重視したそうである。多くの曲がワン・テイクでOKとなり、同世代で音楽体験を共有する3人は、ごく自然にこの美しくも儚い音世界を構築した。

12月8日のニューヨークのJazz at Kitanoにおけるアルバム・リリース・ライヴでは、本作からの選曲に加えて、スタンダードやビバップ・チューン、キース・ジャレット、デューイ・レッドマン、チャーリー・ヘイデン、ポール・モチアンのアメリカン・クァルテットの”Byabue”など、キンボロウの音楽遍歴をたどる多彩なセレクションがプレイされた。セカンド・セットには、マリア・シュナイダーが客席に姿を現し、エンディングには”Walking By Flashlight”がシュナイダーに捧げられた。シュナイダーは、自らのオリジナル曲をここまで美しく昇華させてくれてコンポーザー冥利につきるという、うっとりとした表情で聴き入っていた。ポール・ブレイ、アンドリュー・ヒル亡き後、その遺鉢を継ぐことをフランク・キンボロウは、静かに宣言した。

Frank Kimbrough Website http://home.earthlink.net/~fkimbrough/

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常盤武彦

常盤武彦

常盤武彦 Takehiko Tokiwa 1965年横浜市出身。慶應義塾大学を経て、1988年渡米。ニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・ジ・アート(芸術学部)フォトグラフィ専攻に留学。同校卒業後、ニューヨークを拠点に、音楽を中心とした、撮影、執筆活動を展開し、現在に至る。著書に、『ジャズでめぐるニューヨーク』(角川oneテーマ21、2006)、『ニューヨーク アウトドアコンサートの楽しみ』(産業編集センター、2010)がある。

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