#1368 『内田修ジャズコレクション CHRONICLE』

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『内田修ジャズコレクション CHRONICLE』
text by Kenny Inaoka 稲岡邦弥

岡崎市/岡崎市立中央図書館 3,000円(税込)

四六判上製本/108ページ(+付属CD「カタログVOL.3」)
付属CD「カタログVOL.3」収録内容:全14曲(合計時間69分23秒)

“Dr.Jazz”こと内田修先生の訃報と時を同じくして届けられた。岡崎市制100周年の記念事業として編まれたものだから、刊行が先生の死と相前後したのはまったくの偶然だろうが、先生はこの労作の完成を目にされたのだろうか。
クロニクル、「年代記」「編年史」。先生が1960代から1990年代まで約40年の長きにわたって収集、記録された日本のジャズ・アーカイヴのなかから厳選された14曲。膨大な記録を試聴、選別し収録時間を念頭に置きながら意味のあるクロニクルを編む作業を担当した佐藤允彦氏の労苦は想像を絶するものだったに違いない。(珍しく、氏が「あとがき」の中でそのことに触れているが、この「あとがき」が、岡崎「市」が誕生した1916年という年がJazzにとっても記念すべき年であったことから筆を起こされているのもつねに大局的にものを見る佐藤氏ならではである)。
本クロニクルは内田先生の「僕の人生、ジャズ」という前書きから始まり、コレクションの説明、年表と続き、「写真で振り返る 内田修氏とジャズ」でまず目を奪われる。内田先生が活動の拠点にしていたヤマハ・ジャズ・クラブ関係者とクラブ「ジャズ・イン・ラブリー」のオーナー河合氏が語るエピソードの数々は今となっては楽しい苦労話である。三森隆文氏の評論、小川隆夫氏の演奏紹介に続くプライベート・テープの目録はまさに圧巻。このテープ・コレクションのなかからすでに高柳昌行と宮沢昭の2作の個人コレクションと60年代から2作のカタログがCDとして刊行されているが、それらを聴けばこの内田テープ・コレクションが日本のジャズ史にとってどれほど貴重なものであるか一聴瞭然である。
クロニクルに付されたCDには、1965年のヤマハ・ジャズ・クラブ第4回例会の秋吉敏子トリオから1995年の第141回例会の中川英二郎まで年代を追って13曲を収録、14曲目のエンディングは1987年の葵博に出演した山下洋輔を中心とするアンサンブルの<スイングしなけりゃ意味ないよ>。下に掲載した曲目と演奏者のリストを見れば誰もが一度は耳にしたいとの誘惑に駆られることは間違いないだろう。秋吉敏子のバッピッシュな演奏から60年代に思いを馳せ、生では聴けなくなった渡辺貞夫のフルートや、ドラマー富樫雅彦の繊細かつダイナミックな演奏に耳をそばだてる。とくに2曲目での長いソロ。八木正生のトリオを挟んで、笠井紀美子(彼女もカナリヤになって久しい)から始まる7人の歌姫のヴォーカル ...“ジャズに酒と女はつきもの”の定説通り、内田先生も酒と女(女性ヴォーカル)には目がなかった...。とくに一世を風靡したケイコ・リーと綾戸智恵のふたりの成功は先生の尽力によるところ大と言われている。ケイコ・リーは本書に収められたインタヴューでもデビューの経緯を詳細に語っている。
先生の新しい才能に向ける目は晩年にも及び、トラック12の荒井皆子と13の中川英二郎はまさにその証左だろう。マイルスの<フォア>にヴォカリーズで挑戦した荒井とトロンボーンでアップテンポの<オレオ>に挑んだ中山の演奏は旅立った内田先生への何よりのはなむけとなったに違いない。洒落っ気と諧謔に富んだエンディングのエリントンはジャズの楽しさを伝えてあまりある。脳手術の後遺症(激痛)に悩まされた来日中のクインシー・ジョーンズから「コークを処方してくれ」と電話を受けたドクター内田が「コークなら道端のマシンでいくらでも買えるだろ」と返したという逸話を思い出した。クインシーのコークはコカイン、ドクターのコークがコカコーラであることは言うまでもない。
僕の内田先生にまつわる個人的な思い出は菊地雅章のピアノに尽きる。ラブリーでのソロ演奏を翌日に控えた菊地からピアノを代えてもらえとの指示が出た(当時、僕はある人物から頼まれて菊地のマネジャーを務めていた)。河合オーナーに言い出せる要求ではなく、思い余った僕は内田先生の電話を鳴らした。翌日午後、浜松のヤマハ本社からグランドピアノがラブリーに運び込まれた..。
エゴを通した菊地は去年7月先生に先立った。その菊地のやんちゃな演奏をこのクロニクルでは聴くことができない。菊地はあの世でも先生に駄々をこねているのだろうか。

1.LONG YELLOW ROAD
演奏:秋吉敏子[p], 荒川康男, 原田寛治[ds] 1965.1.17 ヤマハ・ジャズ・クラブ第4回~秋吉敏子サヨナラコンサート

2.NOSTALGIA IN TIMES SQUARE
演奏:渡辺貞夫[as], 前田憲男[p], 原田政長, 富樫雅彦[ds] 1966.1.28 ヤマハ・ジャズ・クラブ第13回~渡辺貞夫カルテット

3.EMILY
演奏:渡辺貞夫[fl], 前田憲男[p], 原田政長, 富樫雅彦[ds] 1966.1.28 ヤマハ・ジャズ・クラブ第13回~渡辺貞夫カルテット

4.GET OUT OF TOWN
演奏:笠井紀美子[vo], 峰厚介[ts], 宮田英夫[ts], 板橋文夫[p], 望月英明, 村上寛[ds] 1973.8.23 ヤマハ・ジャズ・クラブ第63回~峰厚介+笠井紀美子

5.LE CRÉPUSCULE EMBAUMÉ
演奏:八木正生[p], 稲葉國光, 日野元彦[ds] 1976.9.20 ヤマハ・ジャズ・クラブ第75回~八木正生トリオ+フレンズ

6.THOU SWELL
演奏:後藤芳子[vo], 佐藤允彦[p], 桜井郁雄, 村上寛[ds] 1991.11.30 ヤマハ・ジャズ・クラブ第132回~ジャズボーカル”3人の会”アンコール

7.(OUR) LOVE IS HERE TO STAY
演奏:伊藤君子[vo], 佐藤允彦[p], 桜井郁雄, 村上寛[ds] 1991.11.30 ヤマハ・ジャズ・クラブ第132回~ジャズボーカル”3人の会”アンコール

8.(THAT OLD) BLACK MAGIC
演奏:上野尊子[vo], 佐藤允彦[p], 桜井郁雄, 村上寛[ds] 1991.11.30 ヤマハ・ジャズ・クラブ第132回~ジャズボーカル”3人の会”アンコール

9.IN A MELLOW TONE
演奏:ケイコ・リー[vo], 寺井尚子[vln], 吉田桂一[p], 加藤雅史, 廣江靖[ds] 1993.11.21 HILLTOP JAZZ FESTIVAL IN OKAZAKI

10.WHERE COULD I GO(BUT TO THE LORD)
演奏:綾戸智恵[vo] 1997.9.14 ヤマハ・ジャズ・クラブ第150回記念コンサート

11.FOUR BROTHERS
演奏:宮沢昭[ts], 西条孝之介[ts], 峰厚介[ts], 渡辺貞夫[as], 森剣治[as], 原田忠幸[bs], 八城一夫[p],渡辺香津美[g], 稲葉國光, 井野信義, 日野元彦[ds] 1981.10.18 ヤマハ・ジャズ・クラブ第100回記念コンサート(サキソフォン・ワークショップ)

12.FOUR
演奏:荒井皆子[voice], 田中信正[p], 松井秋彦[per] 1995.12.1 ヤマハ・ジャズ・クラブ第144回~スーパーコンテンポラリーJAZZユニット「BO-JO」

13.OLEO
演奏:中川英二郎[tb], 椎名豊[p], 金澤英明, 広瀬潤次[ds] 1995.3.24 ヤマハ・ジャズ・クラブ第141回
~驚異の新鋭トロンボーン中川英二郎「名古屋デビューコンサート」

14.IT DON’T MEAN A THING
演奏:山下洋輔[p], 村田浩[tp], 藤本忍[tp], 吉田哲治[tp], 板谷博[tb], 梅津和時[as], 藤陵雅裕[as],片山広明[ts], 石兼武美[bs], 杉本喜代志[g], 吉野弘志, 森山威男[ds], 渡辺香津美[g] 1987.3.21 葵博-岡崎’87 JAZZ FAMILY IN OKAZAKI〜SPECIAL OPENING LIVE

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稲岡邦彌

稲岡邦彌

稲岡邦弥 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。音楽プロデューサー。著書に『改訂増補版 ECMの真実』編著に『ECM catalog』(以上、河出書房新社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。Jazz Tokyo編集長。 https://www.facebook.com/kenny.inaoka?fref=ts

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