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CD/DVD DisksJazz Right NowNo. 227

#1384『Eivind Opsvik / Overseas V』

Text by Akira Saito 齊藤聡

Loyal Label LLCD020

Eivind Opsvik (double-bass, analog bass synth, Oberheim drum machine)
Tony Malaby (tenor saxophone)
Brandon Seabrook (electric guitar)
Jacob Sacks (piano, RMI Rock-Si-Chord organ)
Kenny Wollesen (drums, percussion, Rhythm Ace drum machine)

1. I’m Up On This Step
2. Hold Everything
3. Extraterrestrial Tantrum
4. Brraps!
5. Cozy Little Nightmare
6. First Challenge On The Road
7. Shoppers And Pickpockets
8. IZO
9. Katmania Duskmann

All music composed, produced & mixed by Eivind Opsvik
Recorded by Tom Schick

アイヴィン・オプスヴィークは、ノルウェー出身で、長くニューヨークで活動するベーシストである。サイドマンとしても多くのバンドで活躍しつつ、自身のプロジェクト「Overseas」を続けてきた。

ピアノのジェイコブ・サックスとテナーサックスのトニー・マラビーは最初から参加しているが、他のメンバーは変遷してきている。当初はクレイグ・テイボーンがピアノに加えてハモンドオルガンも弾き、強烈なグルーヴを生み出していた。ドラムスのケニー・ウォルセンは第2作から、またギターのブランドン・シーブルックは前の第4作から参加している。しかし、一貫して、フォークやロックの影響を織り込みながら、暖かく、ドラマチックな音楽を世に出し続けている。

第5作目にあたる本盤も、その特質を嬉しいほどに受け継いでいる。また、1曲の長さが短い(3-5分)こともあって、親しみやすく、音風景が身近なところで移り変わっているようだ。オプスヴィークはこのことについて、自身の生活の中で生み出されたからだと述べている。親しみやすいのは当然とも言うことができるのだ。それに加え、リズムやビートがとても大事にされている。

これまでの「Overseas」諸作では、演奏のはじまりは、いつも、旅の不安をあらわすような雰囲気を発散するものであった印象が強い。ここでも、冒頭の「I’m Up This Step」において、シーブルックのギターとマラビーのテナーとが互いに旋律をずらしながら並走し、サックスのピアノが光射すように介入することによって、足許を不安定にする。続く「Hold Everything」では、ウォルセンの力強いビートに乗って、サックスのキーボードがまるで未知の世界を仰ぎ見るような雰囲気のサウンドを繰り広げ、マラビーが素晴らしいソロを吹く。マラビーのテナーには多くの周波数の山が含まれており、その倍音が、音色をヴィンテージ物のように極めて豊かなものにしている。

「Extraterrestrial Tantrum」を経て、「Brraps!」では、オプスヴィークの目が醒めるようなアルコとピチカート、テナーとのユニゾンが、旅のドラマを盛り上げる。各プレイヤーの主張は重なり、絡まってゆく。

「Cozy Little Nightmare」は、デューク・エリントンにインスパイアされた曲だという。確かにエリントン的とも思えるピアノに続き、曲名にある悪夢のように脈絡のない不可思議な展開をみせる。「First Challenge on the Road」では、シーブルック、オプスヴィーク、ウォルセンがロック的なアプローチで曲の土台を創り出し、ベースが船頭として方向転換を絶えず行い、大きな流れを形成している。

「Shoppers and Pickpockets」では、焦燥感を掻き立てる楽器がギターからピアノへと見事にシフトする。タイトルからは、異国の市場における人混みを想像させてくれるようだ。「IZO」では再びロックのビートに乗って、全員が入れ代わり立ち代わり暴れる。煌くようなキーボード、ビートの中を重量感を持ちつつも機敏に泳ぐテナーが聴き所だ。

そして、最後の「Katmania Duskmann」において、全員が残るエネルギーを振りしぼったように思い思いにノイズを放ち、そして、唐突に旅が終わる。

筆者は、2015年に、ブルックリンにある小さなハコ「Seeds」において、このメンバーによる演奏を観ることができた。その場に居合わせたオーディエンス全員が、一連の旅のドラマを味わったように呆然として、深い満足の表情を浮かべていた。日常と地続きでありながら、ふくよかな織物に包まれて、異世界を垣間見せてくれる豊潤なサウンドなのだ。

これは、オプスヴィークの作曲における際立った才能と、柔らかくも力強くもサウンドを駆動するベースプレイがあってこその成果であるに違いない。

(文中敬称略)

>> Eivind Opsvik “Brraps!”(動画)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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