JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 53,868 回

CD/DVD DisksNo. 227

#1383『Infinitude / Ingrid and Christine Jensen with Ben Monder』

text & photo by Takehiko Tokiwa 常盤武彦

Whirl Wind Recordings WR4694

Ingrid Jensen (tp,electronics)
Christine Jensen (as,ss)
Ben Monder (g)
Fraser Hollins (b)
Jon Wikan (ds)

  1. Blue Yonder
  2. Swirlaround
  3. Echolalia
  4. Octofolk
  5. Duo Space
  6. Old Time
  7. Hopes Trail
  8. Trio:Garden Hour
  9. Margareta
  10. Dots And Braids

Recorded by Paul Johnston at Studio Pierre Marchand, Montreal, Canada on July 3 & 4, 2015.

Produced by Ingrid & Christine Jensen


カナダの西海岸、ヴァンクーヴァー島に生まれ育ったイングリッド&クリスティーンのジェンセン姉妹は、海と豊かな自然に囲まれ、マイルス・デイヴィス(tp)とウェイン・ショーター(ts,ss)の音楽を愛聴して育った。姉のイングリッド・ジェンセン(tp)は、バークリー音大を経てニューヨークで、マリア・シュナイダー・オーケストラや、ダーシー・ジェームス・アーギューのシークレット・ソサエティらトップのラージ・アンサンブルから、自己のグループ、テリ・リン・キャリントン(ds)のモザイク・プロジェクト、ジェイソン・マイルス(kb)とのエレクトリック・マイルス・トリビュート・ユニットで活躍。妹のクリスティン・ジェンセン(as,ss)は、モントリオールのマックギル大で修士号を取得後、モントリオールをベースに様々なフォーマットのグループで活躍し、姉のイングリッドをフィーチャーしてクリスティン・ジェンセン・ジャズ・オーケストラを率い、カナダのマリア・シュナイダーと異名をとる。姉妹の20年にわたるコラボレーションをイングリッドは「私が木で、クリスティンは水」と語るが、本作『インフィニチュード』で新たなフェーズのスタート・ポイントに立った。

ライナー・ノートで、ジェイムス・ヘールは、本作をグレン・グールド(p)が1967年に発表した実験的ラジオ・ドキュメンタリー『北の理念』や、地理学者のルイス=エドモンド・ハメリンのカナダ北部を分析したノーディシティ理論と関連付けて語っている。またポール・ブレイ(p)、ケニー・ホイーラー(tp)といったカナダが生み出した鬼才ジャズ・アーティストへと連なるクリエイティヴィティにも言及した。エレクトロニカも使用したイングリッドのメロディアスなトランペットと、ウェイン・ショーターに影響されたヴァーサタイルなクリスティンのサックスのラインのコントラストが、音楽の中に様々な人のコメントが錯綜するグールドのラジオ・ドキュメンタリー作品を思わせる。2人のソロ・スペース構築に重要な役割を担っているのが、ベン・モンダーのギター・サウンドだ。多彩なエフェクター・ワークが姉妹のコントラストを包み込み、広大な北の大地のヴィジュアルが浮かび上がる。モンダーの凄みは、イングリットとのデュオの”Duo Space”、クリスティンが加わった”Trio:Garden Hour”、唯一のボサノヴァ・フィールを持つモンダーのオリジナル曲”Echolalia”で際立っている。同曲はモンダーが、クリスティンのビッグバンド作品にインスパイアされて作曲、クインテットとは思えない壮大な音世界を描いた。イングリッドの夫君のジョン・ウィカン(ds)と、カナダで活躍するフラサー・ホリンズ(b)は、”Octofolk”で、絶妙なスピリチュアルなサポートを聴かせる。イングリッドが3曲、クリスティンが5曲を提供しているが、唯一のカヴァー曲”Old Time”は、2014年に逝去したケニー・ホイーラー(tp)の作品だ。見事な換骨奪胎で、パンキッシュな曲へと生まれ変わった。クリスティンは、本作を「どうやったら2人でプールに飛び込み、うまく一緒に泳げるかに挑戦した」と語る。カナダの『北の理念』と、イングリッド、モンダーの現代ニューヨーク・ジャズが融合し、唯一無二の音楽世界を作り上げた。

2月17日のニューヨークのジャズ・ギャラリーにおけるリリース・ギグは、2セットともソールドアウト。ベースをホリンズに代わって、マット・クロヘシィがプレイする。まさにベン・モンダーのサウンドがたたえられた大きなプールにイングリッドとクリスティンが飛び込み、シンクロし競い合うスリリングなパフォーマンスだった。7月にはクリスティン・ジェンセンは、新たなラージ・アンサンブル作品をリリースする予定だ。本作のインティメイトなプレイの経験が、どのように昇華されるか、そして姉妹のコラボレーションが、どこへ向かうのか興味は尽きない。

関連リンク

Ingrid Jensen http://ingridjensen.com/

 

 

常盤武彦

常盤武彦 Takehiko Tokiwa 1965年横浜市出身。慶應義塾大学を経て、1988年渡米。ニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・ジ・アート(芸術学部)フォトグラフィ専攻に留学。同校卒業後、ニューヨークを拠点に、音楽を中心とした、撮影、執筆活動を展開し、現在に至る。著書に、『ジャズでめぐるニューヨーク』(角川oneテーマ21、2006)、『ニューヨーク アウトドアコンサートの楽しみ』(産業編集センター、2010)がある。2017年4月、29年のニューヨーク生活を終えて帰国。翌年2010年以降の目撃してきたニューヨーク・ジャズ・シーンの変遷をまとめた『New York Jazz Update』(小学館、2018)を上梓。現在横浜在住。デトロイト・ジャズ・フェスティヴァルと日本のジャズ・フェスティヴァルの交流プロジェクトに携わり、オフィシャル・フォトグラファーとして毎年8月下旬から9月初旬にかけて渡米し、最新のアメリカのジャズ・シーンを引き続き追っている。Official Website : https://tokiwaphoto.com/

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください