#1382『NORD/NORD』

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Text by 剛田武 Takeshi Goda

2CD : Art into Life AIL016   2,128円 (税込)

Nord:

Hiroshi Oikawa 

Satoshi Katayama

Disc 1 “Nord”
1. Labyrinthe 15:34
2. Entract 3:00
3. Caricature 9:02
4. Utopie 26:12

Disc 2 “Unreleased Material”
at “YAMAHA STUDIO YURIGAOKA” 29/4/82
1. 23:23
2. 6:58
3. 7:53
4. 5:52
at “SHINJUKU LOFT” 24/8/81
5. 18:49

All tracks newly remastered by Anders Peterson in 2016

地下音楽の極北への憧憬

70年代末東京の地下音楽の震源地のひとつ「吉祥寺マイナー」は1978年春にジャズ喫茶としてオープンした。オーナーの佐藤隆史はピアニストでもあり、最初はカレーを名物にフリージャズを聴かせる洒落た店だったという。加古隆のTOKなどのライヴを企画するがキャパの問題で赤字を被り、また格式張ったプロフェッショナルの音楽を提供することに疑問を覚え、徐々に、新進気鋭と言えば聞こえが良いが要は得体の知れない自称音楽家、自称パフォーマーたちを受け入れ、自由な表現行為を保証(許容)する「フリー・ミュージック・ボックス」に変貌する。観客の数は多くはなかったが、観に来た者が次の時には演者となり出演することも多々あり、人から人へ創造性が伝播する特別な「場」になった。

最初は客としてマイナーに出入りしていた及川洋と片山智も1980年2月に『NORD(ノール)』と名乗ってライヴ活動を行うようになった。楽器経験が殆どなかった二人がギター、短波ラジオ、ヘアドライヤー、安いシンセサイザー、エフェクターなどを操作して大音量で奏でる演奏は、当時「インダストリアル」、後に「ノイズ」と呼ばれるようになる音楽ジャンルの日本に於ける先駆的存在だった。マイナーを中心に、白石民夫やNOISE(工藤冬里)、不失者(灰野敬二)、絶対零度(大熊ワタル)など地下音楽の代表的ミュージシャンと同時期に活動し、82年7月吉祥寺ぎゃていでオリジナルNORDとしてのラストライヴを行い分裂。及川、片山それぞれがNORDを名乗り活動を続けることになる。

マイナー廃業後に佐藤が立ち上げた自主レーベル「ピナコテカレコード」から81年7月にリリースされたオリジナルNORDの唯一のアルバム『NORD』が35年ぶりに初めてCDで再発された。未発表のスタジオレコーディングとライヴ音源収録CDを加えた2枚組。二人の決裂により長年封印されていた作品が再び陽の目を見たのは、及川から再発を望む依頼がインディ・レーベルArt Into Lifeに届いたことがきっかけだと言う。Art Into Lifeから仲介者を通じて打診を受けた片山も了承し、今回の再発に至った。長い月日が過去の蟠りを氷解させたのだろう。

演奏は簡単なイメージを決めただけの完全即興だったという。フリー・ジャズやプログレやサイケデリック・ロックを愛好していた二人の非音楽家が創り出すサウンドは、過度の情念や強固な精神性を排除して、醒めた意識で描かれた音響彫刻を思わせる。ジョン&アリス・コルトレーンを愛する片山が操作する仏教の声明がスピリチュアルに響く1曲目も印象的だが、ハイライトはレコードのB面すべてを占める壮大な騒音組曲「Utopie」に違いない。絶え間ないノイズの奔流の中に冷徹にコントロールされた禁欲主義が貫かれ、『NORD=北』の名に相応しい”氷の時代/ICE AGE”のデカダンスを体現している。大音量の轟音演奏と言えば高柳昌行の「集団投射」を思い出すが、NORDのノイズ演奏の起伏の大きなストーリー性は、ふたりの心の中のセンチメンタリズムの証に違いない。ノイズ=雑音と思い込んでいる方にこそ、ぜひ聴いていただきたい。ノイズを聴いて感動で涙するとは我ながら新鮮な驚きである。(2017年2月25日 剛田武記)

Art Into Life

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剛田武

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら、「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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