#1400『オデッド・ツール/トランスレーターズ・ノート』

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text by Yoshiaki Onnyk Kinno  金野 Onnyk 吉晃

Enja / Muzak  MZCE 1346

オデッド・ツール (ts)
シャイ・マエストロ (p)
ペトロス・クランパニス (b)
ジヴ・ラヴィッツ (ds)

1. シングル・マザース (Oded Tzur)
2. ウェルカム (Oded Tzur)
3. ザ・ホエール・ソング (Oded Tzur)
4. ガラップ・ドルシェの3つの遺言 (Oded Tzur)
5. ロニーズ・ラメント (John Coltrane)

Track 1-3 Recorded 0n October 5, 2016 at Studio de Meudon, , France
Sound engineer: Julien Basseres
Track 4-5 recorded on October 29, 2016 at the Samurai Hotel Recording Studio, New York, USA
Mixed and mastered by Ziv Ravitz
Photography : Adrien H. Tillmann
Artwork: Gold Unlimited

 

イスラエル出身のテナーサックス奏者、オデッド・ツールの、昨年録音されたばかりのセカンドアルバムである。メンバーは前作と変っていない。サックスにピアノ、ベース、ドラムという普通のカルテットだが、ピアノとドラムがやはりイスラエル出身で、ベースはギリシャ人である。

メンバーの出自がすでに音楽に反映しているといっていい。非アラブ的な中東圏の響きが聴こえてくる。おそらく前作で彼らの音楽に関心を持った人なら、さらに展開されたこの作品を好きになる事は間違いないだろう。

オデッドはサックスにおいて自在に微分音を用い、変拍子を自然に使うのにも長けている。それはテーマにも即興にも大きな特徴を与える。微分音と変拍子による、あたかも民族舞踊のような曲調、そして哀歌。それはこのカルテットの印象をかなり特徴づける。しかし、彼らの音楽は決してユダヤ的であるとはいえない。ジョン・ゾーンのマサダとはかなり方向性が違う。

私はオデッドのサウンドを初めて聴いて、アルメニアの演奏家、ジヴァン・ガスパリヤンの吹くドゥドゥックを思い出した。ジヴァンはすでにアメリカの幾つかの映画音楽に参加してノスタルジックかつエキゾチックな雰囲気を醸すのに成功しているが、オデッドのサックスも、アタックの極めて弱い、ヴィブラートの少ない、そしてまた倍音的な濁りの無い、特徴的な音色である。だからすんなりと耳に入って来るのだが、決して流れ去って行かず、いつの間にか酔ってしまう美酒のようにゆっくり効いて来る。その音楽は、上質の毛織物のように柔らかく包容力がある。

オデッドが、インド古典音楽の横笛、バンスリの名手、ハリプラサード・ショウラシアに師事したというのも良くわかる。ショウラシアはすでに多くの欧米の弟子を育てているが、フルート系のバンスリの音色が、シングルリードのサックスにここまで似るとは思わなかったかもしれない。

こう書いて来ると、オデッド・ツール・カルテットの演奏がいかにもニューエイジ系の緩さに支配されているように思うかもしれない。しかし意外にも、このセカンドアルバムでオデッドは、ファーストにはあまり聴かれなかったような、急速でシビアなフレージングや、レッドゾーンに入るようなフリーキートーンも用いてみせる。当然他の三人も反応するので、調性を強めたオーネット・コンボか、エッジの立っていないマサダのようにも聞こえる瞬間がある。

さて、これはジャズなのか? そうだ、まさにジャズなのだ。何故ならジャズとはハイブリッド音楽の意識であり、そして他のいかなるシーンもこういう音楽を産み出す事はなかっただろうから。もし、敢えてこれはジャズではないというなら、それはそれで構わないだろう。誰かが言ったように「薔薇は、其の名で呼ばれずとも香り高い」と。


金野 Onnyk 吉晃 (よしあき Onnyk きんの)

1957年、盛岡生まれ、現在も同地に居住。即興演奏家、自主レーベルAllelopathy 主宰。盛岡でのライブ録音をCD化して発表。
1976年頃から、演奏を開始。第五列の名称で国内外に散在するアマチュア演奏家たちと郵便を通じてネットワークを形成する。
1982年、エヴァン・パーカーとの共演を皮切りに国内外の多数の演奏家と、盛岡でライブ企画を続ける。Allelopathyの他、Bishop records(東京)、Public Eyesore (USA) 等、英国、欧州の自主レーベルからもアルバム(vinyl, CD, CDR, cassetteで)をリリース。
共演者に、エヴァン・パーカー、バリー・ガイ、竹田賢一、ジョン・ゾーン、フレッド・フリス、豊住芳三郎他。

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