#1406『ポール・ラザフォード 豊住芳三郎/The CONSCIENCE』

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text by Yumi Mochizuki 望月由美

 

No Business Records NBCD 99

ポール・ラザフォード (tb)
SABU豊住芳三郎 (ds)

1.  The Conscience
2.Beer, Beer and Beer
3.Dear Ho Chi Mihn
4.I Miss My Pet Rakkyo
5.Song For Sadamu Hisada

Concert produced by 久田定
Recorded live at Café Jumbo, 愛知県常滑市, 1999年10月11日
Enjineer: Ryuji Enokida
Album produced by Danas Mikallionis &末冨健夫 (Chap Chap Records)

 

ミュージシャンは多かれ少なかれそれまでの音楽体験や人生経験の上に自分の音楽を形成している。
聴く方もそれまでの限られた生演奏の体験から思い描いたミュージシャン像や音楽観をもとに聴くという点では同様である。
フリーの場合も目先の新規性にとらわれずに耳をすまして聴きこむとその多くは矢張り手くせ、常套句が見え隠れすることがあり、その度合いが濃いか薄いかで好みがわかれたりする。
ジャズの場合はブルースやファンクという要素がさらにそこに加わることが多い。

ポール・ラザフォード (tb) はそういったブラック・ミュージックとは隔絶した世界で即興を行っているイギリスのフリー・ミュージック・アーティストである。
一方の“SABU”豊住芳三郎 (ds) は富樫雅彦 (ds) の直系で初代山下洋輔3、阿部薫、FMT、AACMをはじめとして世界中のミュージシャンと交流を深めてきた数少ないフリーのドラマーである。

1998年6月、神奈川県藤野でポール・ラザフォードと豊住芳三郎 (ds,per) のデュオを聴いた。
築100年という古民家「無形の家」の佇まいは2人の演奏にしっくりとあって純粋に即興の世界に入り込めたことを覚えている。
本アルバム『CONSCIENCE』はその1年後の1999年10月愛知県常滑市「Café Jumbo」でのライヴ演奏を収めたものである。

ポール・ラザフォードの音色はトロンボーンという楽器から連想する真鍮の朝顔がバリバリと耳をつんざかんばかりの過激な衝撃音は全くなくホルンのように柔らかく澄みわたっている。
しかし、単にやわなのではなく一本芯が通っているからラザフォードはエヴァン・パーカー (reeds) やデレク・ベイリー(g) など猛者ぞろいのイギリスのフリー・シーンで数多くの実績が残せたのである。

一方の“SABU”豊住は当時56歳、世界中を飛び回りフリーの本場でセッションを重ねて乗りに乗っている時期の演奏で気持ちがこもっていて、手加減なしにドスドス叩いている。
ブラシとマレット、スティックを煩雑に交換して猛スピードでチャージ、時にスティックが空を切り、無の空間を表現する今の“SABU”豊住とは違ったかなりアグレッシヴなドラミングを展開、ラザフォードとのコントラストを表現している。

その結果、アルバム『The CONSCIENCE』はラザフォード、“SABU”豊住双方のソロ・アルバムでもあり、その上に二人のデュオが成り立っているように聴こえる。

“SABU”に電話をしてみたところ、丁度ニュージーランドから帰ってきたところだった。
この時の演奏は全くの決め事なしの完全なフリーなインプロヴィゼーションだったという。
したがって曲名もなにもなかったといい、CD化にあたってアルバムのタイトルも曲名も”SABU”がつけたのだそうである。
たとえば、(2)<Beer, Beer and Beer>、ラザフォードはビールが大好きで朝からビールを飲んでいたので曲名にしたというし、ラザフォードが強力な共産党員でホー・チ・ミンをアイドルとしていたことを思い出して(3)は<Dear Ho Chi Mihn>と名付けた。
(4)<I Miss My Pet Rakkyo>のRakkyoとはちゃぷちゃぷレコードのオーナー末冨健夫さんが飼っていた猫の名前、(5)<Song For Sadamu Hisada>はこのコンサートを主催してくれた久田定さんへの感謝の気持ちを込めて名付けたのだそうである。
このように全くのフリーの場合は曲名と演奏に深い相関はなさそうである。

ポール・ラザフォードは2007年8月6日、67歳で亡くなっている。好きなアルコールが引き金を引いたと聞いている。
“SABU”豊住はラザフォードの葬儀に参列したそうで、ジョン・ラッセル (g) も同席、葬儀はエヴァン・パーカー (reeds) が仕切り、トロンボーン4重奏がクラシックを演奏、エヴァン・パーカーのソロで送り出されたそうである。

日本の最先端をひた走っているトロンボニスト後藤篤は、
<ポール・ラザフォードは名前を知り演奏を聴いた段階で既に故人だったのですが、メロディやリズムやハーモニーといった事とまったく違う音楽表現のトロンボーンに於ける開祖の1人だと思っています>
そして、<歴史的な裏付けは僕には無いのですが、アメリカには無かったジャズとは別のフリー・インプロビゼーションのアプローチをトロンボーン奏者としては最初に見出し、トロンボーンに新たな可能性を与えた奏者だと思います>とラザフォードを評価している。

ポール・ラザフォードのトロンボーンは本人の遺志でキューバの音楽協会に保管されている。
ポール・ラザフォードはキューバを訪れたこともあり、キューバの国立劇場の椅子にはラザフォードの名前が刻まれているという。18年という歳月を経て、いまポール・ラザフォードと“SABU” 豊住のデュオが多くの人の熱意によってリトアニアから「ちゃぷちゃぷ シリーズ」としてリリースされたことは快挙である。

“SABU” 豊住はこの5月にCD『The CONSCIENCE』の発売を記念して山口県防府市などでコンサート・ツアーを行う予定である。

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73歳、ますます元気に世界中を飛び回る“SABU”豊住の生音の聴ける山口の人はラッキーである。

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望月由美

望月由美 Yumi Mochizuki FM番組の企画・構成・DJと並行し1988年までスイングジャーナル誌、ジャズ・ワールド誌などにレギュラー執筆。 フォトグラファー、音楽プロデューサー。自己のレーベル「Yumi's Alley」主宰。『渋谷 毅/エッセンシャル・エリントン』でSJ誌のジャズ・ディスク大賞<日本ジャズ賞>受賞。

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