#1401『オデッド・ツール/トランスレーターズ・ノート』

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text by Masanori Tada 多田雅範

 

Enja / Muzak  MZCE 1346

オデッド・ツール (ts)
シャイ・マエストロ (p)
ペトロス・クランパニス (b)
ジヴ・ラヴィッツ (ds)

1. シングル・マザース (Oded Tzur)
2. ウェルカム (Oded Tzur)
3. ザ・ホエール・ソング (Oded Tzur)
4. ガラップ・ドルシェの3つの遺言 (Oded Tzur)
5. ロニーズ・ラメント (John Coltrane)

Track 1-3 Recorded 0n October 5, 2016 at Studio de Meudon, , France
Sound engineer: Julien Basseres
Track 4-5 recorded on October 29, 2016 at the Samurai Hotel Recording Studio, New York, USA
Mixed and mastered by Ziv Ravitz
Photography : Adrien H. Tillmann
Artwork: Gold Unlimited

 

弱音の吐息漏れ漏れで魅惑するワルイやつだ、

ジブ・ラヴィッツの巧みな打音を、お隣さんの床から伝え響いてくるように録った音像が、すなわちイコールなファンタジーへと誘うもの、すなわちECMとアイヒャー・リヴァーブをマーケティング的には等しく、

省エネ奏法極まれりだな、それにしてももったいぶった1曲目だ、イントロを思わせぶりに吹いたあと何分間うしろに下がっているのだよオデッド、13分あるトラックだからいいんだって?、シャイ・マエイストロがジャレットみたいに唸りながらゴスペルチックに時間つぶししているようにしか思えんが、この間オデッドはうつむき加減にハンサムなお顔で観客をつかんでいる、7分を過ぎてようやく出てきたオデッド、同じところをじっと攻めてじらしてパッと高音にエクスタシーに持っていくそのパターンか、それで曲目が「シングルマザー」だとは言葉に気をつけろよ、

ちょうど現代サックスの皇帝マーク・ターナーが東京駅前のコットンクラブで来日公演をしている初日にこれを書き始めている、すべてのサックスを手にする若者の参照点または灯台または皇帝として君臨しているマーク・ターナーであることに異論をはさむ者は居ないだろう、執拗に下降し過ぎるラインや上昇し過ぎて聴衆の椅子をひっくり返してしまう恍惚だけではない、排気量、デズモンドものけぞるふくよかな音色、ミクロン単位にコントロールするテク、他の追随を許していないですな、

いっとき、ノア・プレミンガーの平原綾香を彷彿とさせるはみ出し音量に、ポスト・マーク・ターナーは彼ではないかと思ったことがあったが、一瞬にして陶酔させるナナメ読みトーンを武器にしたクリス・スピードという巨大惑星が台頭してからは、ポスト・マーク・ターナーなんていう思考はやめることにした、現代サックスはマーク・ターナーとクリス・スピード、ティム・バーン、ヘンリー・スレッギル、イングリッド・ラウブロックの時代にある、

そして、このオデッド・ツールは、マーク・ターナーが拓いたマーケットを明確に狙っているサックスの鳴らしを武器にしていることは明白だ、

2曲目、マエストロのピアノがいいな、イントロだけハッとさせてあとは流しているな、オデッドのサックスがバリバリ高音まで、仮面をはいでみればなんとも貧相ななよなよとした音色だったのね、でもせっかく出会ってしまったのだもの、甘い吐息に付いてきてみたのだもの、許してあげる、

3曲目は、甘い吐息大作戦ね、そうか、これがこのオデッド・ツールの武器なのだ、中音のクラリネットっぽく切ないところを前から後ろからバラッドされるものだから、この快楽を拒絶できるリスナーははっきり言って少ない代物だ、スロー、スローでうっとりさせるライブ会場にはうってつけだ、

さてこの旋律にイスラエル・ジャズの系譜をみることが最適だろうか、そこのところはひとつアイヒャーECMに任せてみてはどうだろう、空間性の希薄がこの逸材をその上の手前にとどめているように感じられる、

ちょいとネットをぐぐってみるべか、「重厚で肉太く、それでいてまろやかなソフトネスや軽みをも呈した美味トーンのテナーが、力強くも伸び伸びと、吟遊詩人風のおおらかなブルージー・ブロウを轟かせて清々しい華を成し」、随分と盛ったな、許す、「アーシーな吟醸節とエスニックな民謡的フレージング、を細かに融け合わせたような、風合いはごく柔和でふくよかさ溢れる優しい吹鳴のあり様、が実にフレッシュ・デリシャスな鮮度抜群の魅力を揮っており」、さらに盛ってるな、書き手も何書いているかわからなくなってるな、許す、「スピリチュアルでコズミックなサウンドは正に21世紀のコルトレーン・カルテットといっても過言ではない」、おいおい耳は確かか?過言すぎるだろ、「キースジャレット、ブラッドメルドー、ヤロンヘルマン」もセーフだったからいいのか、この業界は、

弱音の吐息漏れ漏れで魅惑するワルイやつだ、そのうちステージに出てスカスカに一音持続トーンを2秒かましただけで客席で卒倒する婦女子も現れそうだ、おれはすでにその術中にはまってしまっている、

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多田雅範

Masanori Tada / 多田雅範 Niseko-Rossy Pi-Pikoe 1961年、北海道の炭鉱の町に生まれる。東京学芸大学数学科卒。元ECMファンクラブ会長。音楽誌『Out There』の編集に携わる。音楽サイトmusicircusを堀内宏公と主宰。音楽日記Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review。

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